ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.39 > p32

コンピュータ教育のバグ
かくもインモラルな世の中で
—情報モラルは誰が教えるか—
 昨今,さまざまな食品偽装のニュースが世間を騒がせている。食の安全は,どう守るべきかなんていう議論にまで発展している。こんな時,よく語られるのが「企業のモラル」や「経営者・責任者のモラル」についてである。モラルが無い,モラルはどこへ行ったと騒ぎ立てるわけだ。しかし,社会人となって働く年齢にもなれば,人間誰しもすべからくモラルは身につけているべきである。であるはずなのに,なぜこうもインモラルな事件が起こるのだろうか。
モラルはどう育まれるか
 ふと考えてみると,モラルはどのように身につくのだろうか。人間生まれながらにして備えているものではないと思われる。モラルの大部分は,子供のころ親やその他の家族の影響で,徐々に身についていくものだろう。「あいさつはきちんとしましょう」「目上の人は敬いましょう」「他人に迷惑をかけないようにしましょう」などなど,周りの人間とふれ合って自然と身についていくものである。また,学校における集団生活の中で身についていくというのもある。授業や課外活動や学校行事の中で,友達や先生とかかわりながらいろいろなモラルを身につけていく。しかし,時には誰しもケンカもすればイタズラもする。そんな時は,叱られ諭されたしなめられて,自ら反省してさらにモラルをレベルアップしていくわけだ。
 こうして身につけたモラルも,時として忘れられてしまう。インモラルな事件の当事者も最初からモラルを守らないつもりで仕事を始めたわけではないだろう。何かのきっかけで,モラルに対する意識が薄れてしまった結果が事件になっているのではないか。とにかく昨今の事件を見るにつけ,モラルの崩壊を感じずにはいられない。
情報モラルをどう育むか
 さて,情報教育である。情報教育においても,情報モラルの指導が重要課題のひとつだと位置づけられている。コンピュータネットワーク特有の即時性や匿名性が,情報モラルの指導を難しくしている。だから,高校の情報科の教科書では,情報モラルについてしっかりページを割いて,熱心にモラルについて説いた記載が見られる。
 ただ,よく考えていただきたい。子供のころから様々なモラルを,学校の授業だけで身につけましたという方は,おられないであろう。ましてや,教科書だけでは完結しないことは,自明のことである。情報科におけるモラル指導の難しさも,まさにここにあるわけだ。「個人情報をうかつに発信してはいけない。」「他人の誹謗中傷をしてはいけない」「共用のコンピュータは自分勝手な使い方をしてはいけない」なんてことは,生徒たちにすらわかりきったことなのである。だからといって,必ずしもモラルが身についているわけではない。
 どこの学校のコンピュータでも,デスクトップや周辺装置がいたずらされるなんていうモラルを無視した使われ方をする例が必ずあるはずだ。場合によっては,事件性を含む事象も発生しているかもしれない。逆に生徒が被害者となって巻き込まれるケースも多々ある。架空請求やなりすまし,ネット上でのケンカや中傷などなど,情報教育に携わっておられる方なら,近年何らか心当たりをお持ちのはずである。
 情報モラル教育は一朝一夕に完成するものではない。学校を挙げての取り組み,社会を挙げての取り組みが必要である。そして,このあたりのところを知らしめていくことも情報教育の役割のひとつではないだろうか。
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