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ICT・EducationNo.4 > p6〜p9

教育実践例
高知県の情報教育への取り組み
高知県教育委員会事務局学校教育課 濱田 明彦
gakkou@edu.net-kochi.gr.jp
1.はじめに
 高知県では,平成9年度から,21世紀の新たな社会経済システムの構築に向けた“高知県情報生活維新「KOCHI 2001 PLAN」”を,5年計画で進めている。

  このプランは,10のプロジェクトで構成され,産学官民の連携のもと,様々な取り組みが行われている。このプロジェクトには,医療,福祉,産業,防災,行政サービス等とともに情報教育に関するものがいくつか含まれており,本県での情報教育への取り組みの柱となっている。

  ここでは,これらの施策を推進する基盤となる情報通信環境や,情報教育に関する主な取り組み等について紹介する。
2.情報通信環境
(1)高知県情報スーパーハイウェイ

 地域格差のない行政情報サービスの提供や,各種情報化プロジェクト実現の前提となる高度で高速の通信基盤で,次にあげる四つの目的に基づいて構築されている。

・県内どこからでも格差なく,公共情報や公共サービスが受けら れる通信環境の実現。
・多様な公共的情報システムを有機的に連携させる基幹通信網。
・先進的な情報化プロジェクトを実現するための前提となる通信基盤。
・情報通信分野を中心とした,県内の産業振興に向けての基盤。

 この情報スーパーハイウェイの構築概要を示すと,上の図のようになる。

高知県情報スーパーハイウェイ構築概要
▲高知県情報スーパーハイウェイ構築概要

(2)教育ネット(edu.net)

 「KOCHI 2001 PLAN」のプロジェクトの一つである“DREAM NET(ドリームネット)/教育の情報化”※注1により導入されている情報ネットワークシステムを教育ネット(edu.net)※注2と呼んでいる。

 このネットワークは,情報スーパーハイウェイを利用したもので,教育センターが管理・運営を行っている。そして,高知県内の教育機関の相互連携・情報入手・情報発信の場として機能し,次の役割を果たすことをねらいとしている。

・安価に迅速に,そして効率よく情報交換を行う。
・距離や時間の物理的な壁を乗り越えた新しい人的交流の場とする。
・日本のみならず世界中で公開されている情報を入手して,教育活動に役立てる。
・学校からの情報発信により,児童生徒の情報社会への参加体験をさせる。

 また,この教育ネットを構築していく中で,公立学校のネットへの接続や校内LANの整備を進めている。なお,本県の教育ネットへの接続状況と校内LANの整備状況を表に示す。



※注1 
県内の小・中・高校に対して情報ネットワークシステムを導入し,児童・生徒が主体となる「参加型」教育の推進や情報技術を活用した新たな学校教育のモデルの構築を目指す。県教育委員会が進めているプロジェクトである。

※注2 
高知県教育情報通信ネットワークシステム(略して「教育ネット」と呼ぶ。)は,一般公開用と教育ネットにつながっている学校等だけが閲覧できる内部公開用の2つのホームページを開設している。
なお,一般公開用教育ネット ホームページアドレスは(http://www.edu.net-kochi.gr.jp/)である。

  平成9年度 平成10年度 平成11年度(1月現在)
小学校 202 (65.2%) 241 (77.7%) 297 (97.1%)
中学校 119 (88.1%) 121 (92.4%) 132 (100%)
高等学校 43 (97.7%) 44 (100%) 41 (100%)
特殊教育諸学校 10 (100%) 12 (91.7%) 12 (100%)
全体 374 (74.9%) 418 (83.9%) 482 (98.2%)

▲県内公立学校 教育ネットへの接続校数とその割合

  平成9年度 平成10年度 平成11年度(1月現在)
小学校 11 (3.5%) 22 (7.1%) 32 (10.5%)
中学校 7 (5.2%) 17 (13.0%) 34 (25.8%)
高等学校 2 (2.5%) 6 (13.6%) 11 (26.2%)
特殊教育諸学校 0 (0%) 1 (7.7%) 1 (7.7%)
全体 20 (4.0%) 46 (9.2%) 78 (15.8%)

▲県内公立学校 校内LAN整備校数とその割合
3.主な取り組み
(1)オールティーチャーセミナー

 県教育委員会が,今年度より3年計画ではじめた事業で,平成13年度までに,すべての公立学校の教員が,パソコンのソフトウェアを利用して,ワープロ,表計算,電子メール及びインターネットに関する基本的な操作ができるようになることを目的としたセミナーである。

 本県でも,従来から教育センターを中心に情報に関する研修をいろいろと行ってきているが,大部分が希望者対象になっているため,パソコンに興味がある教員以外は受講する可能性がほとんどないこと,また,教育ネットの普及や,校内LANの整備が進むにつれ,教員全体の情報リテラシーの向上が必要になってきたことなどの理由で,このセミナーが企画された。

 参加対象は,次にあげる操作例が一つでもできない教員となっている。ただし,参加を希望する教員も受講可能となっている。・パソコンのワープロソフトウェアで,文書の作成,保存,印刷及び修正ができる。

・表計算ソフトウェアを使って縦,横の合計及び平均を設定し印刷できる。
・送受信が設定された電子メールを使って,電子メールの作成,送信及び受信ができる。
・インターネットにアクセスできるように設定されたパソコンから,インターネットに接続でき,ホームページを見ることができる。

 なお,本年度は,877名の教員に対して,2日間の研修を実施した。

(2)高知工科大学連携教育事業(ブルーバード)

 県教育委員会と高知工科大学が行う連携共同事業で,県内の教育に携わる小中高大学の教員が中心となり,次の二つの取り組みをおもに実施している。

①教科研究会

 高知工科大学と本県公立小中学校及び県立高等学校の教員が,教育内容,教育方法の研究や教材開発を行うことをとおして,児童生徒の基礎学力の定着を図ることを趣旨とした研究会で,数学・理科・外国語(英語)の3分科会で構成されている。

 年に4回程度,各教科研究会を実施し,小中高大で活用できる教材作りを行い,その研究の成果を教育ネット上で公開するようにしている。

 (現在のところ内部公開のみ。)

②高知インターネット教育セミナー

 県内の教育に携わる小中高大の教員を中心とし,ブルーバードの一環として,年1回2日間にわたり開催している。毎回,250名程度の関係者が参加している。

 なお,今年度は「基礎学力の定着に向けて高知県教育ネットの活用を探るⅡ」をテーマに,次の4項目等について指摘や提言などを二十数名に発表してもらい,本県情報教育の情報交換等を行った。

・学力を向上させる教育方法と教材開発の基礎的研究
・電子化された教材の例
・コンピュータ,ネットワークを利用した授業の試み
・教育の情報化がもたらす負の部分

 このセミナーの良いところは,小中高大の教員だけでなく,行政や関連企業の参加もあり,それぞれの立場からの意見が聞けることである。また,本県の情報教育等への取り組みへの連携を図る場として大変有意義なセミナーとなっている。

 なお,①については,平成10年度から,②については,平成9年度から行っている。

第3回高知インターネット教育セミナー
▲第3回高知インターネット教育セミナー

(3)D-day(Dreamnet Day)

 “DREAM NET”プロジェクトでは,県内全ての公立学校をインターネット(教育ネット経由)に接続できるように整備しているが,D-dayは,このプロジェクトと連携し,子どもたちが学校で自由にインターネットを利用できる(遊べる)環境をボランティアの手により作り,情報リテラシーの育成を図ろうとする取り組みである。

 2回目となる今年度は,高知工科大生による「D-day '99実行委員会」が中心になって準備をし,工科大生や一般ボランティア約300人が,県内22の小学校に企業から無償で提供されたパソコン141台を設置した。

 なお,今年からは,パソコン設置校に対して,パソコン操作の研修など継続した支援活動を実施していくように計画している。

(4)その他

 主な取り組みのその他として,“DREAM NET”プロジェクトにおける施策で,県内最初の本格的な校内LANが導入された県立安芸高等学校での取り組みを少し紹介する。

①フロート型防災システム実験

 このシステムは,平常時には,学校内・学校間通信システムとして機能し,災害時には,被災地情報ネットワークシステムとして,被災者に必要な生活情報・行政情報等を提供できる教育と防災の共用システムである。

 実験は,平成9年10月に,安芸市・安芸高校・NTT高知支店が共同で着手し,被災地情報ネットワークシステムの開発・改良,防災オペレータの指導者(学校の教員)の養成及び防災教育の実践から構成され,平成10年6月に,安芸市総合防災訓練の場で,実施された。

 情報化された学校が,災害時に情報受発信拠点として機能するかを検証するための実験でもあり,その有効性が実証された。

 今後,この成果が,本県の総合防災情報システムの開発に反映されることが期待されている。

②孫600人プロジェクト

 地域社会との連携や高校生の社会参加へのアプローチとして,校内LAN等の情報環境を利用した地域交流の取り組みの一つで,生徒が電子メールを通じて,老人福祉施設やワークセンターなどのボランティア施設と交流を図るものである。

 同校の生徒が約600人いることから,見出しのような名称が付けられた。

 なお,生徒はメール交換のほか,直接施設を訪問して,お年寄りにパソコンの操作方法を教えるなど,日ごろ接することが少ないお年寄りと交流するよい機会となっている。

孫600人プロジェクト概要
▲孫600人プロジェクト概要
4.今後の取り組みと課題

(1)設備の充実

 教育ネットへの接続と校内LANの整備は,内閣総理大臣決定のミレニアム・プロジェクトの一つである「教育の情報化」での目標が実現できるように実施していく。なお,教育ネットへの接続については,目標どおり13年度までには完備される。また,現在のところ,平成13年度中には,全ての県立学校に校内LANが整備される予定である。

(2)教員の情報リテラシーの育成

 前述のミレニアム・プロジェクトや,内閣総理大臣直轄の省庁連携タスクフォースであるバーチャル・エージェンシーにおける「教育の情報化プロジェクト」では,平成13年度までに,全教員が情報活用能力を持つことが目標とされているが,本県の場合は,オールティーチャーセミナーや校内研修の充実等で,実現を目指す。

(3)高等学校の新教科「情報」に向けて

 来年度から各都道府県で実施される教科「情報」に関する現職教員等講習会の講師を委員とした新教科研究部会を2月に発足させ,講習会の円滑な運営を図るとともに,今後の教科「情報」への取り組み等を研究していく。

(4)情報化への組織・体制

 本年度,県立高等学校の情報担当者会(仮称)を開催した。

 情報化が進むにつれ,情報担当者の負担が増加するなどの声もあり,今後,この会で情報交換等を行い,諸課題を解消していくなど,情報化への対応の一つとしていく。

(5)情報環境の効果的活用

 情報環境が完備されてくると,その環境をいかに効果的に活用していくかということが課題となってくる。

 この課題を解決していくためには,教育用データベースの作成・充実や使いやすい教育用コンテンツ及び教材ソフトの開発などが必要である。

 また,情報環境等を効果的に活用できる人材の育成も必要である。

  教育の情報化は,今後ますます急速に進んでいくと思われるが,本県では,この情報化の波に,ここでも紹介した“DREAM NET”プロジェクトを中心に,今後も対応し,情報教育を推進していくように計画している。

  また,「KOCHI 2001 PLAN」のもと,産学官民との連携も取りながら,また,国の情報に関する事業とも連携を図りながら,いろいろな取り組みを実施し,新学習指導要領での情報教育へも対応していければと考えている。

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