ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.4 > p10〜p13

教育実践例
世界の高校生と環境問題を考える
富山県立大門高等学校 江守 恒明
emori@daimon-h.tym.ed.jp
1.「21世紀スクールハウス」プロジェクトの交流

 この活動は,本校がインターネットに接続された1995年7月,アメリカ・オレゴン州・サウスセラーラム高校の先生から届いた1通の電子メールから始まる。

  「21世紀スクールハウス」は,地域の活動を通して地球環境問題を提起し,これに挑戦しようとする世界6カ国の高校生がインターネットを利用し,意見や情報交換を行いながら交流を深める国際グループである。

 「Local Action」
 「Community Education」
 「Global Collaboration」

を3つの柱としてふだんの活動を行っている。そして,2年に1度世界の高校生が一堂に集まり,地球環境問題についてグローバルな視点から意見交換を行うとともに,高校生の立場で提言を行う『高校生による国際環境サミット』(以下サミットと表す)を実施している。ここでは,寝食を共にし,様々な活動や議論を通して,国際交流と国際理解を深めることを目的としている。一方,長期的な目標としては,この企画そのものが21世紀の教育のモデルになることを目指している。

「21世紀スクールハウス」ホームページ
▲「21世紀スクールハウス」ホームページ
http://www.21cs.org/

活動方針
▲活動方針

2.テーマは「環境」
 環境問題はいまや世界共通の問題である。サミットでは,高校生が考えた【環境に関する権利と責任】の宣言文とその解決策を作り上げることが目的である。各学校は,あらかじめ各国で最も関心の高い環境問題に関するテーマを設定し,その歴史的背景や現状を踏まえ,実際の活動を通した調査研究から各々の権利と責任の条文を作成し持ち寄る。前ページに第1回の前文,上に第2回の各国のメインテーマを示した。

Preamble

 We, the future leaders of the world, in an effort to balance social equity, economic prosperity, and ecological integrity, establish that the environment has rights needing to be respected and that the citizens of the world have responsibilities toward the environment and the community that must be fulfilled. People of the world must have access to information, an active voice in government; private industry and the government must contribute to solutions for environmental problems and people need to employ effective measures to create sustainable life styles. We seek to combat the problems of land degradation, deforestation, toxic waste disposal, energy and resource use, rapid urbanization, and corporate and social responsibility, for the benefit of the earth and all its inhabitants.


▲第1回サミットの【環境に関する権利と責任】前文
3.第2回サミット(オーストラリア)の活動内容
 連日ハードスケジュールが組まれ,疲れたが充実した日々であった。いくつかの活動を紹介する。 環境体験ツアーが行われたHills Forestの森は,パース市の水瓶としての湖を持ち豊かな自然をはぐくんでいる。ここでは,自然に触れるいくつかのプログラムがあった。生まれて間もない小動物に触れ,命の尊さと希有な動物を守り共に生きていくことや自然と共に生きてきたアボリジニー文化の体験などもあった。特に,印象に残ったのは『すべての人が森を守るということを理解することが大事なのである』ということであった。森林の入り口には,靴の裏についた汚れを落とす場所があり,ブラシで落としてから木の門をくぐり,森の中に入っていくことであった。人間の髪の毛1本でも入れてはならないという姿勢を示すことで,改めて自然の壊れ易さを考えさせられた気がした。

生後5ヶ月のカンガルーを抱いて
▲生後5ヶ月のカンガルーを抱いて

アボリジニー文化の体験
▲アボリジニー文化の体験

靴の汚れを落とす
▲靴の汚れを落とす

  メイン会場となった西オーストラリア州議事堂内では,環境大臣主催のレセプションが立食で行われ,環境大臣から歓迎のスピーチをいただいた。高校生の会議に,自ら議場に出向かれた気さくな大臣が印象的であった。
各国研究発表が行われた後,国ごとのテーマ別分科会(解決策を議論する)を設け,そこに各国より数名の生徒が参加した。そして問題点や解決策を出し合い議論を深めた。分科会は3日間続けて行われ,次の全体会議で使用するディスプレイの制作も行った。

環境大臣(中央)とともに
▲環境大臣(中央)とともに

分科会
▲分科会

ディスプレイ制作の準備
▲ディスプレイ制作の準備

  全体会議が州議事堂内の議場で行われた。各分科会の代表が壇上に上り,手作りのディスプレイとパワーポイント(プレゼンテーションソフト)を利用し,各分科会での『権利と責任』の条文,解決策のプレゼンテーションが行われた。その後,全員によって宣言『環境に関する権利と責任』及び宣言についての解決策が採択され,州の環境大臣へ提出された。

  閉会式典に先立ち手作りの夕食会が高校内で開かれ,準備やホストもすべて高校生とその家族による温かいもてなしであった。閉会式は,大学の先生によるパフォーマンスを交えた環境問題の講演から始まり,アボリジニーのダンス,各国の閉会スピーチと続いた。次回開催国の日本代表に大会旗が渡され式が終了した。

全体会議前の参加者(州議事堂前)
▲全体会議前の参加者(州議事堂前)

アボリジニーのダンス
▲アボリジニーのダンス

日本班のディスプレイ
▲日本班のディスプレイ

第2回参加5ヶ国

・「実践をとおして認識した環境問題」(大門高校,日本)
・「持続可能な都市の生活様式」(ウォーンブロ高校,オーストラリア)
・「エコツアーをとおして持続可能な未来へ」(環境学習高校,イスラエル)
・「10代若者に関する虚像と実像」(アウトリーチ高校,アメリカ)
・「湿地帯の減少」(ナミリャンゴ短期大学及びセントメリーズ・ナマグンガ高校,ウガンダ)
・(レシーフェ高校,ブラジル)都合により参加できず(1999.9.27〜10.6 オーストラリア・西オーストラリア州・パース)


▲第2回の各国のメインテーマ

1日目 午前 環境体験ツアー(Hills Forestにてグループ活動)
午後 環境体験ツアー(Hills Forestにてグループ活動)
環境大臣主催レセプション(州議事堂にて)
サミットへの道(NACC集会室にて)
2日目 午前 軽いゲーム,前文委員会,「権利と責任」推敲委員会
午後 立法手続きの説明,開会式準備(WCHSにて)
晩餐会,開会式,歓迎レセプション(西オーストラリア大学にて)
3日目 午前 各国研究発表(各国30分)イスラエル,日本,ウガンダ
午後 同上 アメリカ,オーストラリア 立法手続き練習(WCHSにて)
買い物(パース中心街),キングス・パークよりパースの夜景
4日目 午前 分科会(解決策討議),専門家の情報提供・助言(2名)
午後 分科会(解決策討議)(WCHSにて)
クルージング(スワン川を下り,河口のフリマントル港まで往復遊覧船の旅)
5日目 午前 分科会(解決策のまとめ)
午後 分科会 (ディスプレイ制作と発表準備)
ディスプレイ制作と発表準備,コンピュータ室開放(WCHSにて)
6日目 午前 ディスプレイの仕上げ,閉会式準備(WCHSにて)
午後 解決策のプレゼンテーションと採択(州議事堂にて)
閉会式(WCHSにて)

▲サミットの開催日程
4.サミットの活動を学校全体に広げるための工夫

 サミットに参加した生徒は20名だけであった。しかし,彼らの活動が学校全体へと広がる活動となることを目指し,グループ内のみの活動とグループで企画したものを学校全体や地域に働きかけ協力をあおぐ活動の両方を行った。また,各教科より選出した教員で「国際環境サミット推進委員会」を作り,サミットに向けて生徒の活動支援と学校全体の環境教育の在り方も協議した。 ごみ班,水班,緑班の3つのグループに分かれて地域活動を行った。リサーチを進める中,5月から7月までに毎月多くの生徒を巻き込めるイベントを開催することにした。5月ごみ班は,全校生徒に「ごみの意識調査」のアンケートを実施し,その集計をもとにごみの分別化を学校全体に広げるキャンペーンを実行した。その中から,ペットボトルのリサイクル運動を提案し,地域と連携して活動をはじめた。また,県内の氷見松田江浜で,6校の高校生とともに総勢90人で海岸清掃を行ない交流を深めた。6月水班は,学校近くの庄川の水質及び水生昆虫の調査に出かけた。7月緑班は,リサイクル活動の一環として,学校近くの飲食店を中心に使用済みの割り箸を回収し洗浄した後,王子製紙(株)米子工場に郵送した。また,グリーンマークの収集活動を生徒会と共に行い,森の大切さを生徒にアピールした。これらの活動には,多くの生徒がボランティアとして参加し,身近に環境問題を考えてもらう機会となった。また,活動後すぐにWebページを制作し,多くの人にもアピールした。

割り箸回収作業
▲割り箸回収作業

  サミット参加者は,放課後に週2回(英会話,環境1日づつ),夏休みは毎日活動を行った。英会話の学習は,集中セミナーや合宿を行い他校のALTなどの外国人講師を多数招いた。また,ふだんのミーティングでもなるべく英語で説明・指示するようにした。環境学習では,講演会や施設の見学,インターネットによる情報収集,学習会などから環境に関する知識を深めた。「市政バスツアー」にも参加し,環境施設を見学した後,市役所助役と面談があった。ごみ問題等における市政の現状を聞き,自分たちが活動している中での疑問点を投げかけた。菅沼宿泊(合掌作りの家の宿泊)では,登山,自炊,星の観察など自然の中での共同作業を行い,チームワークの絆を強くすると共に,そば打ち体験,手漉き和紙体験など日本文化を知ることも行った。

外国人講師の講演
▲外国人講師の講演

「南極の環境」講演会
▲「南極の環境」講演会

  このように私たちはたくさんの活動を行ってきた。環境問題を頭で考えるのでなく,まず身近にできる活動から実践を行い,大きな環境問題を捉えることができると感じた。

5.おわりに

 開会式のスピーチ,研究発表のプレゼンテーションなど日本における準備は完璧であった。しかし,分科会になると全く意見を言うことができず,英語の壁が重くのしかかった。しかし,分科会の進め方について夜の教員のミーティングが開かれ,「ホワイトボードを利用し議事をまとめたらどうか」「ブレーンストーミングで少人数での意見場面を取り入れたらどうか」など各国の教員からたくさんのアイデアが議論され実行に移された。結果として議事進行がゆっくりになったが,他国の高校生も理解しやすく中身のある議論ができた。国境を越えて教員が協力した結果であった。

  私たちは,これから始まる「総合的な学習の時間」の進め方として,この活動から多くのことを学んだ。教科の枠を越え,専門性を生かした教員ひとり一人の貢献と知恵を出し合うことが高等学校では必要ではないだろうか。

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