ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.40 > p30〜31

プロジェクト学習へのアプローチ
著作権をどう教えるか─4
「著作権の現場から…コンテンツ開発における著作権」
今回のポイント
 社会の第一線で著作権に関わるお仕事をされている方をゲストに迎えてインタビュー形式でお話をうかがうシリーズの三回目です。今回は,音楽や放送に関する著作権の実務処理に携わっておられる谷奥孝司さんにお話をうかがいました。
今回のゲスト
谷奥孝司(たにおくこうじ)さん
株式会社毎日放送事業局事業部専任部長,経営戦略室部長,株式会社ミリカ・ミュージック常務取締役
大学卒業後,社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に14年間勤務。演奏権・貸与権・映画録音権などの実務および訴訟事件などを担当。1996年,その手腕を買われ,株式会社毎日放送に入社。著作権処理のスペシャリストとして辣腕をふるう一方で,映画や番組制作,CD・ビデオ制作,音楽イベントなどのプロデューサーとしても幅広く活躍。主な参加映画作品に,市川崑監督「どら平太」,阪本順治監督「顔」,「KT」,「ぼくんち」,三池崇史監督「カタクリ家の幸福」。
  谷奥孝司(たにおくこうじ)さん
—放送局での著作権の取り扱いとは,どのようなものですか。
 「放送局での著作権というと,著作権料の支払いと著作権による収入の二つに分かれます。つまり,自らが放送する番組で使用する著作物に対する著作権料の支払い,すなわち侵害行為にならぬよう許諾の対価を支払う(守りの)著作権が一つ。これは,例えば番組で使用する楽曲の音楽著作権・レコードやCDを使う著作隣接権(レコード製作者と実演家の権利),脚本家や放送作家などの文芸の著作権などです。そして,放送局が有する著作物に対する著作権料,すなわち収益を産む(攻めの)著作権がもう一つです。放送番組や映画は著作物であり,それを元にDVDや本を製作したり,テーマ曲を着ウタにしたり,キャラクターを商品化したりするなど,著作権を活用した事業展開を進めています。そもそも広告収入を主としている民間放送局では,不況の煽りで収入が減少状況にあり,前述のような収入は放送外収入と呼ばれ今後の重要な収入源と考えられています。」

—番組制作上では具体的にどのような処理になりますか。
 「まず基本的に,放送局は著作権などの権利処理については,著作権等の他人の財産に対して,許諾を求め使用することが大前提です。ただ,放送という目的では一部著作権法上,権利者の権利行使が制限される規定があります。例えば,ニュース番組などにおいては,報道引用といって,ニュースとして必要なモノとして,現場で映り込んでいるものは,そのまま放送します。また,著作権法第四十四条で,著作物は放送目的であれば,一時的に固定できるとあるので,番組に利用するために録音・録画し,編集する工程では,いちいち許諾を求めて著作権料を支払うことはありません。
 私は,一時固定・報道引用・包括契約・協定を拡大解釈してしまう現場プロデューサーが無断使用してしまい,侵害事件に発展しないよう指導・教育も行っています。」

—学校関係で放送局に著作権の問い合わせなども多くあるのでしょうか。
 「学校の先生から放送局に問い合わせをいただくことも多数あります。例えば,先生が自分自身で録画した番組を自分の授業で生徒達に視聴させるというのは,原則認められている範囲内です。しかし,学校を離れて先生方の研究会で再生したり,費用の発生している会場で視聴したりすることは,違法になると考えられます。ただ,残念なことに,問い合わせてこられた先生にこのことをお話しすると,『では,実際にひっかかりますか?』という質問をいただくこともあります。これには,『見つからなければいいんでしょ』という意図が感じられます。教育に携わる方には,こういうところはきちんと襟を正していただきたいなと思います。」

—ネットワーク化やディジタル化といったことの影響は感じられますか。
 「さまざまなものがディジタル化したことで,著作物のコピーが簡単にできるようになりました。これは,さまざまなソフトを制作販売している業者には死活問題となっています。また,音楽業界では先細りの現状があります。昨今のディジタル機器の普及で,音楽CDの売り上げは激減しました。今後ますます,著作物の利用について,個人のモラルが問われることになってきていると思います。」

—音楽業界も様変わりしてきているのですね。
 「日本では昨今,雇用問題が深刻化しているというニュースをよく耳にしますが,大手レコード会社では,すでにかなり以前に何百人ものリストラを行ったところもあります。CDが売れない影響はすでに各方面に及んでいます。今までのように,大手のレコード会社=音楽業界といった図式は終わってしまっていると言ってもよいでしょう。
 また,例えば,ミュージシャンになりたいと思っている人には大変厳しい時代になってきています。現在第一線で活躍するプロのミュージシャンには,ストリートライブからたたき上げで出てきた人たちもいます。その多くは現在なら世に出ることができていないでしょう。「ストリート」と呼ばれている路上ライブ演奏は,条例などで取り締まられる傾向にあり,ますます露出のチャンスは失われています。ノルマを課せられたライブハウスに出演して手売りしたり,様々なサイトに楽曲をアップしたりしているのですが,簡単にコピーされたり無料ダウンロードされたりしてしまうので,権利収入につながりません。しかも,以前ならインディーズ音楽CDの流通も確立し,メジャーと遜色ない展開が期待できていたのですが,今やその多くは採算が取れず,減少の一途をたどっています。音楽に限ったことではありませんが,創作活動に携わるアーティストが報われず正当な収入が得られないようであれば,文化全体が衰退していくのではないでしょうか。」

—では,最後に高校生にぜひ知って欲しいこと,考えて欲しいことをお聞かせ下さい。
 「著作権に関わるモノ,音楽や映像などは,財産であると共に,著作権者の人格でもあると思います。どんなものにも作り手がいます。その作り手をリスペクトすることを忘れないで下さい。そして,著作物を利用する際には,良い意味でブレーキをかけて欲しいと思います。」

—どうもありがとうございました。
授業での展開事例
目的:著作権についての意識を高める。
展開:著作権にまつわる海外の事例を示し,自分の考えを書かせる。記述した内容を互いに共有して,話し合いをさせる。

この実習で利用するサンプルデータ(Microsoft Officeファイル)は,こちらからダウンロードしてください。
ワークシート1
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