3.メディアの意味 |
では,「メディアの意味」を理解させる学習は,どうあるべきなのだろうか。これを辞書的な意味の理解に終わらせてしまっては,意味がない。
英語のメディア(media)は,メディウム(medium)の複数形であり,辞書的な意味としては,「(伝達・通信・表現などの)手段, 媒体, 機関」,「媒介物, 媒質, 媒体」,「中位,中間,中庸」,「中間物」などと定義されている。また,水野(1998)は,私たちがメディアという言葉を使う時に指し示すものを次のように整理している。(※注2)
- 何らかの「情報」を創出・加工し,送出する「発信者」
- 直接的に受け手が操作したり,取り扱ったりする「(情報)装置」
- そのような情報装置において利用される利用技術や情報内容,つまりソフト
- 情報「発信者」と端末「装置」あるいは利用者(受け手)とを結ぶ「インフラストラクチャー(社会基盤)」もしくはそれに準ずる流通経路
このように,「メディア」という用語は,それが指し示すものやその用語が用いられる文脈によって意味を変える多義的なものである。そのため,メディアの意味を理解するためには,「送り手と受け手の中間にあって作用する媒体」というような抽象的な概念として捉えるとともに,それにあてはまる具体的な事例を知っておく必要がある。
さらに,メディアが人の社会的な営みに対してどのような影響力を持っているかということなど,メディアの特性を理解しなければ,メディアの意味を理解したとは言えないだろう。例えば,メディアの意味を理解するために次のような「メディアの特性」について考える必要があるだろう。
(1)機能的な特性
もの・装置としてのメディアは,種類に応じた機能的特性を持っている。例えば,携帯電話での通話は,音声を用いた双方向のコミュニケーションである。また,テレビは映像と音声で,新聞は写真と文字で表現された一方向のコミュニケーションで,一度に多数の人に向けて発信される。他のメディアも一方向性・双方向性,同期・非同期,あるいは,速報性,一覧性,保存性など,それぞれに特徴がある。そのため,自分が情報を得たり,発信したりするときには,特性に応じて適切なメディアを選択することが重要である。
(2)社会的影響
私たちは日常的に多くの時間をメディアとの接触に費やし,情報を得たり,発信したりして相互に影響を与えあう。私たちが「現実」として捉えている世の中の事象や一般常識,規範や価値観などもメディアを介して得た情報によって形成されたものであることは少なくない。「現実」の認識や行動の意思決定をする判断材料もメディアに依存することは少なくない。
例えば,メディアは,「こういう生き方が美徳である」というような価値観や「男なら(女なら)こうあるべき」といった社会的な役割を規定しさえもする。さらに,メディアは,政治家を選ぶ選挙,政策・制度の告知などについても果たす役割は大きく,社会形成に直結するものであると言える。それだけ,メディアは社会的な影響力が大きい。
(3)意図と解釈
人に物事を伝えるためには,情報の取捨選択・編集が求められる。そして,メディアは社会的・文化的・経済的・技術的影響を受けながら,送り手の意図によって構成される。送り手は,うまく伝わるように受け手を想定した情報の表現をする必要がある。ただし,それを解釈するのはあくまでも受け手であり,送り手の意図した通りに受け手が解釈してくれるとは限らない。悪意がなくても相手を不快にさせたり,傷つけたりしてしまうことも起こりうる。
(4)商業性
特に産業としてのメディアは,取材に必要な経費,機材の購入・保守費,人件費などを得るために収入が必要となる。多くのメディア産業は受信料,販売収入,広告収入で成り立っている。いずれにしても,受け手にとって価値ある情報を提供するという努力が送り手に求められるが,その商業性は無視できない。特に利益第一主義に陥ることが原因で報道の公正性が保たれなくなったり,少数の人にしか価値のない事柄は取り上げられなくなったりする危険性にも注意する必要がある。
(5)表現の形式
メディアは独自の表現形式を持っているため,伝えたい情報の内容は同じであっても伝えるメディアが異なると印象は変わる。例えば,同じ内容のニュース,天気予報でさえも,伝える人の印象や伝え方で,全く違ったものに感じることがある。また,メディアが持つ独特の表現形式自体に,人は面白味や心地よさを感じることがある。情報を受け取る側は,そのような形式も含め自分が適切と思うメディアの選択を行っている。
以上のような特性から「メディア」を捉えてみると,送り手と受け手の関係性,表現の意図や構成,それを規定する社会的・文化的背景までも含めて捉えなければ,メディアの意味を理解したことにならないと言えるだろう。これらのメディアが持つ特性を理解するためには,送り手と受け手の関係性を体験的に理解し,社会の在り方を考えることが重要である。
それには,実際にメディア制作や情報通信技術を用いたコミュニケーション経験を積むことが有効であろう。メディア制作を通じて行われる協同的な問題解決の場面において,自ら思考し,他者との対話を通して乗り越えていくという経験が実社会で活きて働く力になるのではないだろうか。
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