ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.45 > p16〜p19

教育実践例
マインドマップを利用した問題解決の授業
─日常生活における問題解決─
大阪府立桃谷高等学校 野部 緑
1.はじめに
 本校は単位制であり,情報A,B,Cをすべて設置しており,3科目とも選択可能である。情報Bでは他科目との差別化を図るため,情報の科学的な理解や問題解決,モデル化とシミュレーションなどの指導に,さまざまな試みを行ってきた。その中から,問題解決の授業についての試みを記述したい。
2.日常生活における問題解決の問題点
 情報科においては,情報Bに限らず,問題解決は重要な単元として位置づけられているが,多くの教科書では「Webページを利用して情報を入手し,調べた情報を加工するのに,コンピュータを使う(主に表計算アプリ)」というものが多い。その結果,コンピュータを利用するということが前提になっているためか,品物を購入するとか,どこかへ行く計画を立てるという問題(設定)が多い。
 だが,日常生活ではコンピュータを使わず,計算もしない問題も多い。そのようなコンピュータを使わないケースであっても,解決のためには,さまざまな条件を考えることが有効である。そこで,「問題解決のための課題を日常生活から見出し,計算ではなく,情報の整理にマインドマップを使う」という授業を試みた。
3.情報Aでの問題解決の授業
 問題解決は,情報Bのみで取り扱うべきものではない。情報Aや情報Cでも,問題解決を取り上げる意義は大きい。今回の授業を行う以前に,情報Aでは「アルバイトを探す」という課題を取り上げ,授業を行った。取り扱う時間は1時間(50分)のみである。したがって,情報の整理や加工,フィードバックについては詳しく行わず,「問題は身近にある」ということ,「情報の入手先はコンピュータがなくても可能であること」を知ることを目的とした。

(1)課題について

 今回は「アルバイトを探す」という課題を設定した。アルバイトを禁止している学校もあるが,本校では禁止されていない。そのため,多くの生徒はアルバイトをしているか,またはしていたことがあり,生徒にとって身近なテーマとして取り上げることが可能であった。
 授業では,次の2点について考えさせた。
1)どこからアルバイトの情報を探すか。
2)自分が決める場合は何を条件とするか。

(2)情報の入手について

 生徒が挙げた項目は,以下の通りである。
・アルバイト情報誌
・ケータイで探す
・ネットで探す
・店の貼り紙
・口コミ(友達から)
・新聞の折り込みチラシ
 特に,アルバイト情報誌と答える生徒が多い。駅などで容易に入手できるということもあるだろう。この答えからインターネットを利用する以外にも情報を入手できることに気付かせることは比較的容易であった。さらに,情報の入手先による違い,検索のしやすさ,比較のしやすさ,信憑性などについても触れ,考えさせた。

(3)条件について考える

 自分でアルバイト先を決める場合,何を重視して決めるかということを挙げさせた。
・時給(給料)
・職種(販売,接客,ホール,など)
・通勤距離
・勤務条件(週どれぐらい働かなくてはいけないか)

(4)媒体による違いを検討する

 これらの条件を聞いた後,実際に,条件に合うものを探しやすい媒体について再度考えさせた。その結果,以下のような意見が出た。

「アルバイト情報誌」
  • 情報量は多いが探しにくい。
  • 情報は古いかもしれない。
  • コンピュータがなくてもみることができる。

「ケータイ」
  • 情報が新しい(更新している)
  • 検索しやすい

「Webページ」
  • 検索しやすい
  • 並べて比較しやすい

「口コミ(友人)」
  • 店の雰囲気などを聞くことができる。
  • 内容を信じられる。

(5)まとめ

 問題解決の場合,実行後に振りかえるという作業も必要であるが,今回は情報の収集とそれぞれの特徴について重点をおいたので,そこまでは行っていない。むしろ,「問題解決」といっても身近であり,また,情報を探す方法もいろいろあって,コンピュータに限らないこと,それらの方法には長所と短所があることを知ることを目的とした。
4.情報Bでの問題解決の授業
 情報Aの授業では,情報の収集と媒体の特徴について取り扱ったが,情報Bではさらに情報の整理についても試みた。
 課題としては,やはり身近なものをということで,次の2つについて考えさせた。
1)週末に友人と待ち合わせて買い物に行く。
2)CDを買いたいがお金がないのでどうするか。
 授業としては,問題について,条件や解決策を考えるということに対して1時間。この考えたことを整理し,比較するのに1時間の計2時間である。

(1)5W1Hを利用して問題を考える

まず1限目の最初に「週末に友人と買い物に行く」という問題について,まず何を決めなければいけないかという質問をしてみた。
生徒の反応は,次の通りである。
・どこへ行くか
・何を買うか
・誰といくか(友人以外)
・待ち合わせ場所
・予算
・店は何軒まわるか

 このように,答えはかなり多岐にわたった。そこで,「何が決まっているのか」「決まっていないことは何か」という情報を整理する為に5W1Hで整理させた。
 表にした後,少しわかりやすくするため,どのように出かけるかは省き,「どこに」と「いつ」という2つの項目に重点を置いて,それらを決めるためには,どんな条件を考えなければいけないかということを列挙させた。
・何を買うか
・何軒まわるか
・どこまででかけるのか
・友人との家の距離
・買い物以外はどうするのか?
・買うものは決まっているのか
・予算は

 最初の質問の答えと同じものもでてきていることで,決めなければいけない条件や問題には段階があることに生徒たちは気が付き始めた。最後に,どのように調べるかということについて話して,こちらの課題は終了した。

(2)解決法の長所・短所を考える「CDを買いたいがお金がない」

 これも,身近な例である。CDでなくてもよいが,高校生にとって値段的にも無難なものとして,CDとした。
 この問題はどのように解決するかということについて,考えさせた。生徒らは次の項目を挙げた。
・お金を借りる。
・働いてお金をためる。
・中古で買う。
・買わない(あきらめる)。
・安くなるまで待つ。
・いらない。
・CDを売りに行ってお金をつくる。
・お小遣いをもらう。
・レンタルショップで借りる。
・友人にCDを借りる。
・ネットでダウンロードする。
 これらの項目についての利点・欠点を検討させた。
 この課題では,利点・欠点を考えることで,人によって解決策は違うということを理解させる。コンピュータで問題を解くのとは違い,日常では解決策に「唯一の正解」がないことも多いということに生徒が気付くことが,この授業の大事なポイントである。

(3)マインドマップ※注1を使った情報の整理

 2限目は,前回の解答を整理するということについて授業を行った。
 課題1については,「いつ」「どこで」について,それぞれどの条件があてはまるか,マインドマップを使って考えさせた。課題1をマインドマップにしたのが,図1である。
課題1のマインドマップ
▲図1 課題1のマインドマップ

 課題2については,マインドマップをいきなり使うのではなく,前回の答えを場合分けして,表に整理をした(表1)。

自分で稼ぐ バイトをする
いらないものを売る
お金を借りる 親に借りる
アコムで借りる
友達にお金を借りる
安く買う 中古で買う
安くなるまでまつ
ネットでダウンロード
借りる CDを借りる ツタヤで借りる
友人に借りる
買わない
▲表1 課題2の答えの場合分け

 この整理表をもとに,マインドマップを作り,さらに,長所短所をいれてみようということで,作成されたのが,図2である。
課題2のマインドマップ
▲図2 課題2のマインドマップ

 これらの2つのマインドマップの図を見ると,1限目に考えたものより,条件や解決方法が増えている。
 例えば,課題1では店の様子が増えている。ここに例として出した生徒以外でも,買い物の種類に「限定品」かどうかといった項目や,「買い物の後どうするか」といったことが増えていた。
 課題2も同様で,「貰う」という項目が増えたり,生徒によっては「働く」という中に,「親の手伝いをする」や,「安く買う」という項目に「オークシ ョン」が入ってきたりしていた。
 このように,単に考えを整理するだけでなく,新たな条件や解決法を掘り起こすのに,マインドマップは役立つという傾向が見られた。
5.アンケート結果
 授業後,アンケートを行った。
その結果について記述する。
1)「情報の整理の仕方」について「わかった」が7人,「少しわかった」が5人であった。理由として,「小さなことを疑問に思えばそれを表にすればもっとたくさんの答えが見えてくる」「グループに分けると見やすく,わかりやすくなることがわかった」などがあった。
2)「表とマインドマップのどちらが整理しやすいか」を聞いたところ,12人全員が「マインドマップ」と回答した。その理由には「枝分かれだと思いつきやすい」「いっぱい枝が増えるのでいろんなアイディアがうまれる」「図になっているのは自分の頭を刺激してくれるような気がするから」「マインドマップだと思いついたものをどんどん付け加えやすいから」などがあった。
3)「出来上った図表はどちらがよいか」という項目では,「マインドマップ」が6人,「表」が5人であった。表の方が,見た目が綺麗であるというのが主な理由である。
4)「情報の整理のために使ってみたいか」という質問に対しては,10人が「思う」または「少し思う」であった。理由としては「見やすい」「紙でした事があるから興味があった」「整理したいときに便利」という回答があった。
6.まとめ
 以前,情報整理をするときは,紙ベースで分類わけをするということを行った。今回はそれを発展させて,問題解決の授業において,マインドマップでの情報の整理を試みた。作成されたマインドマップは段階の整理が不十分であるが,一方で,作成をすることで新たな項目を思いつくこともあり,問題解決にとっては役立ったといえると思う。
 もっとも,これについては,生徒の身近な題材を取り入れたことで,考え易いということもある。マインドマップを使わない1限目の時点でも旅行の計画などを考えさせるより,多くの意見が出ていた。題材を考えることも重要である。
 これらのことから,問題解決の授業にマインドマップを利用し,情報の整理について学ぶことは有効であろう。このときの注意点としては,マインドマップを作成する前に,ある程度,情報をまとめるということを体験させておくことである。そうしないと,生徒が「どうしてよいかわからない」という状況になる。紙ベースでの利用,表を使った整理などをしながら,授業での活用を考えていきたい。
注1:マインドマップの作成には「FreeMind」を用いた。
FreeMind活用クラブhttp://www.freemind-club.com
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