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ICT・EducationNo.48 > p12〜p17

教育実践例
統計処理的な手法を用いた問題解決
北海道札幌北高等学校 奥村 稔
1.問題解決の学習における統計処理的な手法についての考察
(1)情報科における問題解決

 平成25年度から施行される学習指導要領では,問題解決という考え方が情報科の中で重要な位置を占めている。
 まず「社会と情報」では,「(4)望ましい情報社会の構築」の中で,「(ウ)情報社会における問題の解決」として「情報機器や情報通信ネットワークなどを適切に活用して問題を解決する方法を習得させる。」と記述され,解説においてその内容が詳細に示されている。
 一方の「情報の科学」では,「(2)問題解決とコンピュータの活用」と「(3)情報の管理と問題解決」において,学習指導要領の記述の半分近くを問題解決の考え方が占めている。
 両科目では,問題解決を学習する時間数も扱う程度も異なったものになるだろう。しかし,問題解決の基本的な流れや手法を学び,いくつかの実習を通してその理解を深めていくプロセスとしては,それ程の違いはないのではないだろうか。

(2)問題解決の学習類型と統計処理的な手法

 情報科における問題解決の学習プロセスを,類型化してまとめてみた。「情報の科学」の記述によると,問題解決の学習プロセスは以下のように整理することができる。「(2)問題解決とコンピュータの活用」から[0]〜[2],「(3)情報の管理と問題解決」から[3],さらに「社会と情報」を含めた両科目の記述から[4]としたものである。

[0]問題解決の基本的な手法
[1]アルゴリズムによる処理手順の自動化
[2]問題のモデル化によるシミュレーション
[3]情報通信ネットワーク(データベース・コラボレーション)の活用
[4]統計処理的な手法の活用

 問題解決の学習を行う以上,[0]の学習は避けて通ることはできないので,学習のプロセスとしては,[0]を最初におくことになる。そして,残りの[1]〜[4]をどのようにオプションするかによって,いくつもの学習タイプを考えることができる。
 本稿では,学習指導要領「第3款 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」で言及されている数学科との関連を「[4]統計処理的な手法の活用」を通して図り,情報科に与えられる授業数を考慮しつつ,最もシンプルな[0]+[4]という学習タイプの授業デザインについて考察する。

(3)数学科における統計処理的な手法の扱い

 必履修科目の「数学I」では,「(4)データの分析」において,「統計の基本的な考えを理解するとともに,それを用いてデータを整理・分析し傾向を把握できるようにする。」としている。
 「ア データの散らばり」では,「四分位偏差,分散および標準偏差などの意味について理解し,それらを用いてデータの傾向を把握し,説明すること。」としている。また,学習指導要領解説では,箱ひげグラフにも言及している。
 「イ データの相関」では,「散布図や相関係数の意味を理解し,それらを用いて二つのデータの相関を把握し説明すること。」としている。
 「数学A」と「数学B」は選択履修科目であり,さらにそれぞれの科目でも内容が適宜選択される。
 その中でも,「数学A」における「(1)場合の数と確率」は従前どおり多くの学校で履修されることであろう。この単元では条件付き確率,そして確率の乗法定理まで触れている。
 「数学B」では「(1)確率分布と統計的な推測」として,従前の「数学C」の内容がまとめられた。「確率変数とその分布,統計的な推測について理解し,それらを不確定な事象(期待値など)の考察に活用できるようにする。」とある。
 具体的には,「ア 確率分布」として「(ア)確率変数と確率分布」と「(イ)二項分布」,「イ 正規分布」,「ウ 統計的な推測」として「(ア)母集団と標本」と「(イ)統計的な推測の考え」をそれぞれ扱う。

 (4)情報科と数学科とで関連した統計処理的な手法

 「数学I」で扱う「データの散らばりや相関」は必修の分野であるので,これらは情報科の学習においては前提知識として考えたいところであるが,学習のタイミングとそのレベルがどの程度かについて,数学科との充分な連絡調整が必要であることはいうまでもない。数学科における学習が年間の指導の最後の方なのではないかと想定すれば,やはり情報科では理解のために充分な時間をかけた方がよいと思われる。また,少しでも学習内容や時期が数学科と重複することが考えられるのならば,情報科ならではの観点を持った教材の準備が求められよう。
 「数学A」の「(1)場合の数と確率」は数学科でも重要な内容なので,情報科では特に大きく扱う必要がないものと考えられる。
 「数学B」で扱う内容は,数学科では選択されることは少ないのではないかと考えられる。しかし,この内容を学ばない限り,問題の統計処理的な理解はできても,その後が続かない。問題を解釈して解決策を見出すことを他の方法に依存せざるをえなくなり,統計処理的な手法による問題の解決に至ることができない。
 情報科としては,「統計処理的な手法を用いた問題解決」という一連のプロセスを学習するという目的から,ぜひともこの内容を情報科ならではの授業としてデザインしてみたい。

 (5)情報科が担うべき統計処理的な手法を用いた問題解決

 これまでの考察から情報科では,まず一般的な考え方として「問題解決の基本的な手法」を扱い,次に統計処理の基本的な内容として「データの散らばりや相関」を,教科の特性を生かした形で扱う。そして最終的には「確率分布と統計的な推測」を問題解決に対して応用的に扱うことになる。
 最初の段階である「問題解決の基本的な手法」については,どの教科書でも触れるであろうし,指導書や各種参考資料,専門の文献等もあるので,それらを参考にして授業のデザインに役立てることはそれ程難しいことではないように思われる。しかし,そこで注意しなければならないのは,座学を主体にした知識詰め込みの学習に陥らないことであり,最終的な問題解決のゴールを見据えた目的意識を常に持っておくことである。そのためにはいつも,学習する内容は次への伏線を可能な限り張っておくような工夫を行いたい。
 以降の「データの散らばりや相関」と「確率分布と統計的な推測を問題解決に対して応用的に扱う」ことに関しては,昨年度からの実践と,それを受けた今年度の実践の経過を紹介することで,授業のデザインについて具体的に考えていくことにしたい。
2.統計処理的な手法を活用した問題解決の授業実践例
(1)本校での履修形態

 本校では授業の1コマが65分であり,情報科として「情報C」を履修し,第1年次で毎週1コマ,第2年次で隔週1コマを実施している。
 65分の授業は展開を工夫することによって,一般的な50分2コマの連続授業に迫る効果を上げることができ,第1年次で教科書の内容をほぼ終えることができる。それを受けて第2年次では,総合的な実習を中心に据えることが可能となる。隔週1コマしかない授業も,その間に個人的な課題をこなすための時間ととらえれば,結果的にはなくてはならない時間的余裕にさえ感じられるようになる。

(2)統計処理的な手法に係わる学習(第1年次)

 第1年次の最後には,「メディア・リサーチ」と銘打って,テレビの報道番組をビデオ録画するなどして,その報道のされ方や視聴者の受け取り方について仮説・検証型の調査研究を行う。
 生徒個々が自ら立てた仮説に従って調査項目を設定・調査し,それに対して表計算ソフトを用いて簡単な統計的処理を施す。そこで得られたデータの特徴を,表やグラフに整理し表現することで,仮説を考察・検証し,最終的にレポートとしてまとめるのである。
 ここでの「簡単な統計的処理」とは,表の編集や効果的なグラフ作成などを通したデータ傾向の把握である。

(3)統計処理的な手法に係わる学習(第2年次)授業例(1)

 第2年次は主に総合的な実習であり,そのテーマは毎年度異なったものを設定している。
 例えば昨年度(平成22年度)は,1年次から意識的に授業に取り入れてきた環境学習を踏まえ,「環境問題の真実」と題した。環境問題として社会で論じられていることの何が正しくて何が間違っているのか,問題は単純なものではなく,いくつもの課題が複雑に絡み合っているのではないかなどを立証するために,身近な環境問題の意識調査としてアンケートの設計からテスト,実施まで行い,その分析はテキストマイニングの手法を用いて行った。
 授業では,生徒がテキストマイニングのソフトウェアに不慣れなまま分析に入ったり,そもそもテキストマイニングがどのようなことを行っているのかを理解できていなかったりと,教員側がどこまで生徒をフォローすべきかが課題として明らかになった。
 テキストマイニングの処理というのは一種の統計処理なので,この実習はこれだけで「(ある種の)統計処理的な手法を用いた問題解決」といえる。しかしながら,数学科との関連を考慮した,つまり一般的な統計的な手法を踏まえたアプローチとはいえない。今後また別の機会をとらえて,一般的な統計手法と,応用的なさまざまな手法(例えばテキストマインニング)との効果的な学習の関連について考察してみたい。

(4)統計処理的な手法に係わる学習(第2年次)授業例(2)

 積み残してあった「データの散らばりや相関」と「確率分布と統計的な推測」を問題解決に対して応用的に扱うことを踏まえて,今年度(平成23年度)は以下のような授業が進行中である。
 第2年次の年間授業数は,ほぼ15である。本稿執筆時(夏休み前)には5・6回目までを実施したところである(表1)。
単元授業で扱う内容
「データの散らばりや相関」1いろいろな平均
2その他の代表値
3データの散らばり具合
4相関分析
5回帰分析
6統計量要約グラフとクロス集計
7総合的な実習
統計処理的な手法を活用したアンケートによる仮説・検証レポート8アンケートの設計
9プレテスト
10本調査
11データの作成
12分析と仮説の検証
13レポートの作成
「確率分布と統計的な推測」14二項分布と正規分布
▲表1 年間授業計画

 順を追ってそれぞれの授業の内容を説明する。

・「データの散らばりや相関」に該当する内容

1)いろいろな平均
 相加(算術)平均・相乗(幾何)平均・調和平均を扱った。相加・相乗平均の関係については数学科で学習しているにもかかわらず,平均といえば相加平均しか生徒は思い浮かばない。
 調和平均も加えて,それぞれの平均が日常生活のどのような場面で活用でき,意味や関係を視覚的にどのように確かめられるかを学んだ。

2)その他の代表値
 生徒のほとんどは,テスト結果の参考値として平均値しか思い浮かばない。その平均値の落とし穴を回避するために度数分布表を作成したり,中央値や最頻値との関係をヒストグラムから確かめたりした。

3)データの散らばり具合
 ヒストグラムでデータの散らばり具合を観察し,それを数量的に表現するための分散を学んだ。分散の考えに至るプロセスを,散らばり具合を表すアイディアの改良という観点から考察し,分散的な量を把握することを重視した。そこから導かれる偏差値は,本校の生徒にとってはとても身近な値だが,その意味をきちんと知るとともに,それによってデータを間違って解釈しないような配慮をした。

4)相関分析
 コンピュータを利用することで散布図が簡単に描けるようになった。そのスキルを基に,データの散らばり具合の特徴を観察し,それをどのように数量的に表現したらよいかを考察した。
 結果的に相関係数は,(共)分散や標準偏差を使った式として複雑に表現される。しかし,これまでに学習した分散や,それに至るまでの思考プロセスがイメージとして頭の中にしっかり残っていると,理解を助けて納得も容易かと思われる。
 相関係数を解釈するには,処理するデータの特性も関係するので,一概にその強度は判断できない。統計的な手法を適切に活用するためには,経験値というものも必要だということが新鮮な知見として得られた。

5)回帰分析
 回帰分析は推測統計の領域に入るのだろうが,相関係数を学んだ関係上,扱うことにした。
 そもそも相関がないのに回帰曲線を求めても意味がないので,散布図や相関係数を振り返る。散布図からは,データの状況を観察し,ある直線を想定することでデータの散らばり具合を表現することができないかを考察する。ここでの考察は,授業で最後に扱う最小二乗法への伏線となるように配慮する。
 回帰曲線を計算する式を理解することはなかなか難しいので,天下りに与えた式を眺めてから,表計算ソフトを利用して実際に定義どおり計算する。その後,関数機能を用いて結果を確かめた後,グラフ機能によって回帰曲線が簡単に描けることを扱う。表計算ソフトのグラフ機能には思いの他たくさんの有用なオプション機能があることに生徒は驚いた。
 回帰曲線を求める最小二乗法は,図によって考え方を示すに留めるが,今日ではWeb検索をすればいろいろな解説に触れることができるので,生徒各自の探求項目として指摘しておく。

6)統計量要約グラフとクロス集計
 これまで多くの統計量を扱ってきたので,関連するデータを要約するために誤差グラフや箱ひげグラフとして表すことを扱った。
 箱ひげグラフの導入にはWeb上にある株価チャートを用いたが,株価チャートそのものに教員がどれだけコミットしているかで面白みも変わると感じた。また,クロス集計は表計算ソフトの得意とするところだが,どのような項目の関係性に注目するのかという視点が重要であることは,いくら強調してもし過ぎることはないだろう。

7)総合的な実習
 授業ではなるべく身近なデータを例として準備し,実習に楽しんで取り組めるように心掛けていても,このあたりまで来るとどうしても授業が単調に感じられる心配がある。ここまでの内容で,データの変動の状態(特徴や傾向)を把握したり,その変動の原因を調べたりすることができるようになるので,簡単な仮説・検証型の総合的な実習をここで取り入れるのもよい。
 例えば,生徒にとっての身近なデータといえば,テストの成績であるかもしれない。匿名のデータとして,クラスごとの分布や比較,科目間の相関や個人の推移などを扱うことはできないだろうか。生徒個人の勉強に向かう姿勢が,統計的に戦略的なものになることが期待できるかもしれない。

・統計処理的な手法を活用したアンケートによる仮説・検証レポートに関する内容

 ここからは,夏休み明けに予定している内容である。

8)アンケートの設計
 アンケート設計に関する基本要素を確認した後,質問項目を考えるにあたっての要点を押さえた。その上でアンケートの設計を,生徒同士で意見交換をしながら行い,質問票を作成する。 
 生徒が学校生活の中で行っているアンケートというのは,例えば球技大会の種目希望アンケートのようなもので,単なる多数決の域を出ていない。クロス集計を含めた統計的な手法を有効に生かすためには,アンケート設計の段階において基本的な知識を基にした試行錯誤が必要である。昨年度の実践でも,プレテストを実施したうえでアンケート項目の改善を行ったが,目に見えて明らかな向上があった。

9)プレテスト
 次の3段階のプレテストの実施を検討する。
[1]作成者が自分で回答する
[2]実施グループで回答する
[3]少人数から回答を得る
 授業時間数を考慮して,適当な段階(規模)でのプレテストを行えばよいと考えている。どのような段階のプレテストを採用するにしても,少なくともここでの「設計の問題点を把握して修正する」というプロセスは明確に意識しなければならない。

10) 本調査
 一般的にいって,質問票を回収するまでには照会に対応するなどの体制が必要であるが,授業でそのことに言及はしても,実習のプロセスとしてデザインする必要はないと思われる。

11) データの作成
 集計にあたっては,回答者の属性や回答内容に対して数値化できなければならない。集計した後に数値化の方法を考えるようなことにはならないよう,アンケートの設計段階で,想定される回答内容に適した数値化を考えておかなければならない。また,無回答に対する対応も事前に想定しておくことが求められる。
 通常は表計算ソフトを活用することが考えられるが,より高度な処理をするためには,リレーショナルデータベースの利用も考えられる。しかし,学習指導要領では,問題解決にあたってリレーショナルデータベースの利用までは特に求めていないので,ここで無理をして扱う必要はないだろう。

12)分析と仮説の検証
 ここでは,7)の段階で一度行った総合的な実習が生きてくる。これまでに学んだ統計処理的な手法を有効に活用しようと,さまざまな状況を想定して分析の仕方を考えてみる。いくつもの方法を検討した上で,最善と思われる手法を用いて分析し,仮説を検証する。
 7)の段階で実際に総合的な実習を行ったかどうかによって,ここでの扱い方に工夫を加えてみることができる。生徒の習得の程度17に応じて補足説明やちょっとした実習を追加することで,この段階での活動の充実を図りたい。

13) レポートの作成
 調査の趣旨を述べ仮説を提示し,調査の方法と結果を示したら,ロジカルな分析を行う。この分析段階においては,第1年次での基本的な学習がものをいうことになる。生徒の手元には,第1年次からこれまでの授業で配布したすべての参考資料がポートフォリオされている。ロジカルシンキングの方法については,改めて生徒にその資料の存在を指摘しておきたい。
 結論として仮説を検証できたら,まとめとして今後への展望を述べさせたい。「問題解決の基本的な手法」の中で扱っているはずではあるが,問題解決はただ一度の試行によってうまくいくものではなく,ほとんどの場合は何度も繰り返しながらスパイラルな様態において改善されていくものである。問題解決の能力は,その場の状況に適した一過性の単なるスキルではなく,日常的に持ち続ける私たちの生活態度であると意識づけたい。

・「確率分布と統計的な推測」に該当する内容

14) 二項分布と正規分布
 確率分布と統計的な推測について扱うにあたっては,現段階ではいろいろと難しい面があると感じている。
 1つには,確率分布がもつ理論や意味そのものの難しさである。さまざまなデータの分布をビジュアルに示すことで,感覚的な理解には到達できるかもしれない。
 2つ目は,「推測する」という概念の難しさである。社会の状況が変化することで,その先の将来を予測することが,どれ程重要であるかは,社会的な経験が少ない高校生の段階では理解が難しいかもしれない。
 3つ目はやはり,数学的な理解が困難であり,理解したとか納得したとかいう実感に乏しいことであろう。情報科においては,数学的な理論を深追いするべきではない。統計だからといって何が何でも「科学的=数学的」な理解を前提とするのではなく,「問題解決のツールとしての統計処理」というとらえ方ができるように,割り切った覚悟も必要なのではないかと考えている。
3.情報から知性へ
 年度はじめのガイダンスにあたる授業で,情報科という教科の目標を私なりに次のように話をする。
 情報(Information)を目的に沿って収集したものがデータ(Data)であり,さらにそれに適切な処理を施して,問題解決のための解釈ができたとき,それは知性(Intelligence)といえるものになるのではないだろうか。単に情報を扱おうとするのではなく,そんな知性に近づく道を探ろう。
 情報処理という言葉が何気なく使われてしまうときがある。処理の結果を無自覚,無批判に利用してしまわないように,そしてよりよい問題解決に確実に近づいていけるようにしたい。その手法の一つとしての統計的なものの見方や考え方を,身近で分かりやすい例を通して生徒に示してやりたいと考えている。
 学習指導要領が改訂されるのを契機に,今の私はこのような試みの中にいる。多方面からのご指摘やご教授を頂きたい。
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