ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.48 > p18〜p21

教育実践例
岩手県立高田高等学校の情報Aの授業実践
─教材『情報サイト』を活用した情報モラル教育─
岩手県立高田高等学校 三田 正巳
1.はじめに
 本校は,岩手県陸前高田市に位置する全日制普通科および海洋システム科併設の高等学校である。各学年約180名,5クラス(普通科4クラス,海洋システム科1クラス)である。1年生で「情報A」を2単位設定している。
 3月11日の東日本大震災により,校舎3階まで津波が押し寄せ,施設設備が全壊した。現在は北に20kmほど離れた大船渡市の仮校舎で授業を再開している。


▲図1 震災後の高田高校の様子
2.手作りのコンピュータ室
 1ヶ月遅れの5月2日から新学期が始まった。生徒が利用するコンピュータもない状況であったが,国内だけでなく,世界各地からたくさんの支援をいただき,生徒用コンピュータやLAN構築のための機器を揃えることができた。
 1年生の情報の授業では,LAN構築およびコンピュータ設定のすべてを生徒の実習で行った。


▲図2 コンピュータの梱包開封


▲図3 LAN ケーブルの接続

 コンピュータ室内の電源コードの配線,OSのセットアップ,ハブの設置,LANケーブルの敷設,IPアドレスの設定,ユーザ登録,アプリケーションソフトのインストール等を実習として行い,授業環境を整えることから始まった。約2ヶ月をかけてコンピュータ室の環境を整えることができた。


▲図4 OS のセットアップ
3.教材『情報サイト』の紹介
 生徒の携帯電話所持率がほぼ100%である中,携帯電話の利用マナーなど,情報モラルの継続的な指導が求められている。
 そこで,知識の伝達に偏ることなく,操作も合わせて指導する体験型の教材として岩手県立総合教育センターで開発した『情報サイト』を活用することにした。
 この教材はサーバサイドアプリケーションとして開発されており,コンピュータ室内のサーバにインストールすることで,実際のWebサービスと同様,ブラウザからさまざまな教材を利用でき,教室(コンピュータ室)という「安全」な環境の中で擬似的に「危険」な体験などができる。以下にその教材の一部を紹介する。

(1)有害サイト


▲図5 「有害サイト」

 ネット上で遭遇する有害サイトの「18才以上ですか?・はい/いいえ」ボタンをクリックすることで,不正請求ページが表示される。実際に自分の手でクリックして,不正請求ページが表示された時の対応を具体的に指導することができる。

(2)掲示板


▲図6 「掲示板」

 コンピュータ室内限定で利用できる掲示板である。各自の意見を書き込む注意点と合わせ,利用マナーや情報発信の責任について指導することができる。

(3)チャット


▲図7 「チャット」

 リアルタイムの情報交換が可能である。掲示板と違い,投稿された話題が時間の経過とともに変化していく特徴を理解させることができる。

(4)占いサイト


▲図8 「占いサイト」

 サイト内の占いのコンテンツを利用することで,個人情報が簡単に収集されてしまうことを体験できる。自ら個人情報を入力してしまいがちなことに気づかせたい。

(5)ネットショッピング


▲図9 「ネットショッピング」

 Webページを利用した商品購入を体験することができる。メール機能を利用することで,会員登録や購入確認のメール送信が可能で,電子商取引のしくみを指導することができる。

(6)ネットオークション


▲図10 「ネットオークション」

 ネットオークションにおける商品の出品や入札・落札を体験することができる。各自が商品を出品し,落札期限が経過すると自動的に落札者が決定するため,クラス内でネットオークションを疑似体験できる。

(7)フィッシングサイト


▲図11 「フィッシングサイト」

 いわゆる「フィッシング詐欺」の手口を疑似体験できる。氏名や電話番号,口座番号などの個人情報を入力することで安易に情報が収集されていることを認識させることができる。自分が被害に遭わないように危険回避の具体例を指導する際に有効である。

(8)管理者ページ


▲図12 管理者サイトの一部

 「管理者ページ」では,ユーザの登録・削除や各ツールの詳細設定,アクセス記録や掲示板・チャットの利用履歴の表示,蓄積データの閲覧・削除等,授業のそれぞれの段階で指導者をサポートすることができる。
 この教材の特徴は,実際のインターネット上のWebページで被害に遭わずに,ネットの怖さを体験できることである。生徒が操作する「利用者ページ」と指導者が操作する「管理者ページ」で構成されており,ネットのしくみを理解させるために,「管理者ページ」内の通信記録を提示することもできる。従って,この教材を活用する指導者の裁量や工夫次第でさまざまな活用方法があることも特徴の一つである。
 この教材を各学校で利用するためには,サーバ機へのインストールが必要である。動作環境は以下のとおりである。サーバはWindows Server 2003,2008及びIIS6.0,IIS7.0である。クライアントはWindowsXP,Vista,7で動作確認済みである。
 教材は岩手県立総合教育センター情報教育担当のWebページ上から無償でダウンロードすることができる。また,教材『情報サイト』を活用した指導事例集も無償でダウンロードできる。※注1
4.授業実践
 本校での教材『情報サイト』を活用した情報モラル指導では,前述のWebブラウザを活用したものを応用して,無線LAN対応携帯電話の実機を用いた。


▲図13 無線LAN 対応携帯電話セット

 NEC製N900iL(50台),専用アクセスポイント,給電ハブ,Webサーバを接続することにより,コンピュータ室内で携帯電話を端末にして,前述の教材を活用することができる。なお,使用機器は,岩手県立総合教育センターから借用したものである。
 授業は,特に個人情報の取り扱いについて重点をおき,プロフィールサイトの作成を通して,その注意点を再確認することとした。教材『情報サイト』内の「プロフィールサイト」を活用して,2時間の授業を実施した(表1)。
時間授業内容
第1時事前アンケートへの回答
プロフィールサイトの作成
プロフィールサイトの閲覧
第2時不適切な表現の確認(掲示板への投稿)
個人情報に関する意識確認アンケートへの回答
まとめ
 教材「プロフィールサイト」は,インターネット上のサービスと同様,会員登録から始まり,IDとパスワードで管理ページへログインできる。その後,あらかじめ登録してある質問項目に回答すると,自分のプロフィールサイトが完成するというものである。


▲図14 「プロフィールサイト」TOP ページ


▲図15 プロフィールサイト作成例

 本校の場合,校内への携帯電話の持ち込みは許可しているが,利用は放課後のみという規則である。当初,生徒は授業中に携帯電話を使うことに違和感があったようであるが,次第に操作に没頭し,私語一つない状態となった。


▲図16 授業の様子(その1)


▲図17 授業の様子(その2)


▲図18 授業の様子(その3)

 同じ内容でコンピュータを利用した授業の場合と比較して,携帯電話を利用して授業した方が,明らかに生徒の集中に違いがあることに気づく。また,携帯電話を利用した授業では,生徒の素(す)の状態を垣間見ることができる。インターネットとの接点として,生徒にとって最も身近な端末が携帯電話であることは間違いないであろう。
5.おわりに
 携帯電話に関する指導は,今や学校全体の取り組みとなっているが,さまざま機会を捉えて指導する必要があることは言うまでもない。これだけ普及が進んでいる状況においては,危険なものから遠ざけるのではなく,あえて積極的に近づけて指導することが必要であると思われる。情報の授業で取り扱う範囲として,インターネットのしくみや操作と絡めた情報モラル指導は効果的であると思われる。
 1年生の生徒を対象にアンケートを実施した結果,4月の段階での携帯電話の所有率は99.4%であった。例年と比較すると,かなり早い時期に携帯電話を手にしていたことが明らかになった。東日本大震災の影響もあって,保護者が買い与えるということが多かったようである。公共交通機関が十分に復旧していない今,ほとんどの生徒がスクールバスによる通学をしており,登下校の際の保護者との連絡手段として必要になっていると思われる。
 このような状況の中で,入学して間もない時期に指導できたことが,プラスの方向に進むことを期待したい。
注1:岩手県立総合教育センター情報教育担当教材システム『情報サイト』
http://www1.iwate-ed.jp/tantou/joho/moral/joho_site/index.html
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る