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ICT・EducationNo.49 > p22〜p25

情報の科学
「情報の科学」の授業をどう組み立てるか
─ネットワークと問題解決を組み合わせ,情報の科学的な理解を深める─
富山大学 黒田 卓
1.はじめに
 教科「情報」の新設から10年が経過した。平成21年3月の学習指導要領の改訂では,共通教科「情報」としてその科目構成が変更され,平成25年度からいよいよ新しい教育課程がはじまる。この10年の間にも,わたしたちを取り巻く情報環境は大きく変化しており,共通教科「情報」に期待される内容も変わってきた。
 本稿では,とくに「情報の科学」に着目し,授業のポイントと教科書の活用について検討する。
2.「情報の科学」の内容
(1)学習指導要領の内容
 学習指導要領解説では,「情報の科学」のねらいを次のように述べている(図1)。

情報社会を支える情報技術の役割や影響を理解させるとともに,情報と情報技術を問題の発見と解決に効果的に活用するための科学的な考え方を習得させ,情報社会の発展に主体的に寄与する能力と態度を育てる。

▲図1 「情報の科学」のねらい

 「情報の科学」は「情報B」の後継科目と思われているが,内容的には情報通信ネットワークやさまざまなメディアを活用した情報の創出,分かりやすい表現,伝達,問題発見・解決といった内容が新たに盛り込まれるなど,より一層学ぶべき内容が増えている。したがって,実質的には新しい科目と見るべきであろう。
 とくに,「情報B」にはなかったネットワークを含めた情報システムのしくみに関する学習が加わったこと,そして,問題解決がより重点的に扱われるようになった点が大きなポイントであろう。

(2)履修にあたって
 新学習指導要領では,実習の時間数に関する規定やいわゆる学習内容の「はどめ規定」がなくなり,指導の内容や方法についての自由度が高くなった。反面,学習指導要領に示されている内容をどのように教えるのかを,生徒や学校の実情に合わせて検討する必要がある。
 履修年次についても,原則として同一年次での履修とする記述があり,他教科との関連を検討し履修年次を決定するとある。しかしながら,情報モラルをはじめ,早期の指導が求められる内容も情報の授業の中で取り扱うことなどを考えると,1,2年次に開設することが望ましい。
 あるいは,必修として「社会と情報」を1,2年次のいずれかに開設し,3年次に選択で「情報の科学」を置くなどのカリキュラムも十分に考えられる。

3.「情報の科学」教科書の特徴
(1)二編に分けた構成
 年間2単位,70時間という限られた時間数で,これだけ多くの学習内容を学ぶためには,生徒の実情に合わせて取り扱う順番や実習の内容を組み立てていく必要があるだろう。
 日本文教出版の「情報の科学」の教科書は,学習指導要領の内容を再構成し,ネットワーク編と問題解決編の二編構成となっているのが大きな特徴である(図2)。中学校「技術・家庭科」での学習を受け,コンピュータの動作のしくみ,情報のディジタル化,ネットワークや情報システムのしくみをネットワーク編で学び,それらの学習を活かしながら問題解決編で問題解決の手法や情報機器の活用を学べる構成になっている。
日本文教出版「情報の科学」構成

 序 章 情報社会に生きるわたしたち
  第1節 情報社会と問題解決

○ネットワーク編
 第1章 コンピュータによる情報の処理と表現
  第1節 コンピュータと情報処理
  第2節 情報のディジタル化

 第2章 ネットワークがつなぐコミュニケーション
  第1節 メディアとコミュニケーション
  第2節 ネットワークの動作としくみ
  第3節 情報セキュリティ

 第3章 情報システムが支える社会
  第1節 情報社会と情報システム
  第2節 安全な情報社会を目指して

○問題解決編
 第4章 問題の発見・分析と解決の方法
  第1節 問題解決とは
  第2節 問題解決のための方法
  第3節 問題解決の実践

 第5章 問題の解決と処理手順の自動化
  第1節 基本的なアルゴリズムとプログラム
  第2節 いろいろなアルゴリズム

 第6章 モデル化と問題解決
  第1節 モデル化とシミュレーション
  第2節 情報の蓄積・管理とデータベースのしくみ

 第7章 情報通信ネットワークと問題解決
  第1節 グループで行う問題解決
  第2節 課題解決学習実践例

▲図2 日本文教出版「情報の科学」の構成

(2)情報モラルの取り扱い
 「情報の科学」においても重要な内容である情報モラルやセキュリティについては,学習のさまざまな段階で取り扱っている。たとえば,序章において個人のPCのセキュリティ対策や著作権について,小・中学校での学習の復習的な内容を,第2章ではユーザーとして守るべき情報モラルについて,そして第3章では情報システムの構築や情報社会を支えていく一員として知っておきたい技術や法律知識について書かれている。

(3)58個の実習・章末問題
 授業の中で実習を取り入れやすくするために,二編を通じて58個の実習(PRACTICE)が配置されている。実習(PRACTICE)は各節,項の内容に対応しており,学習内容の説明の後,実習に取り組みながら確認を行ったり,実習の結果を踏まえながら学習することができるようになっている。また,各章には章末問題が置かれており,学習内容の確認が行えるようになっている。授業ではこれらをうまく活用したい。

(4)専門用語を使い,資料性を高める
 情報の科学的な理解を深める「情報の科学」では,できる限り専門的な用語で学習することも重要である。そこで,重要用語は太字で強調し,用語の定義や説明を側欄に記載するようにしている。巻末の索引欄からもたどることができるので,家庭での調べ学習などにも活用でき,資料性の非常に高い教科書となっている。

4.教科書を活用した年間指導計画の例
 標準的な年間指導計画だけでなく,生徒の実態などに合わせて大胆な組み立てを試みてもよい。ここでは教科書を活用した例として,システムのしくみを中心に,問題解決的な手法を用いて学ぶ方法と,問題解決の手法を中心に,その道具としての情報システムのしくみを学ぶ方法の2通りを提案したい。

(1) 情報システムのしくみを中心に,問題解決的な手法を用いて学ぶ「情報の科学」
 1年次に「情報の科学」を設置した学校などでは,中学校での学習も考慮し,情報システムを中心とした「情報の科学」が実施しやすい。中学校の「技術・家庭科」での学習内容を発展させながら学習を進めていく。具体的には,教科書のネットワーク編を中心とした指導計画の中に,問題解決の手法を取り入れた実習を組み入れていく方法である。5章〜6章の内容を1〜3章の実習などに取り込んでいくことが想定される。
 たとえば,1章2節の情報のディジタル化で,5章の内容を取り込み,基数変換や文字コード表を作成するアルゴリズムを考え,プログラミングで実施するということも可能であろう。教科書で利用しているプログラミング言語,JavaScriptは組み込み機能として基数変換や文字コード出力などの機能を有している。
 2章のネットワークサービスでは,6章のデータベースのしくみを組み込むことが考えられる。普段利用しているネットワークサービスの多くは,データベースによって支えられていること,データベースにどのようにデータが記録されているのかを知ることにより,ネットワークサービスを利用する際の,その有効性や安全性を考えていく。また,p.141のコラムで扱われているXMLデータベースは,高校生もよく利用している携帯音楽プレーヤのデータ管理で利用されている技術である。リレーショナルデータベースと合わせて学ぶことで,親近感をもって学べるのではないだろうか。
 このように,ネットワーク編の内容をベースに,問題解決編の内容を実習などに取り込み,年間の授業を組み立てることができる。

(2) 問題解決の手法を中心に,その道具としての情報システムを学ぶ「情報の科学」
 問題解決は新学習指導要領においてより重点的に扱うように求められている。共通教科「情報」の中心的な学習内容である。問題解決は情報科だけでなく,他教科においても活用できる。そこで,ある程度他教科での学習も進んだ2年次に「情報の科学」を開設しているならば,問題解決の学習を軸にして,情報通信ネットワークのしくみを学習するといった組み立てが有効であろう。
 学ぶという過程は,ある意味で問題解決の過程そのものである。生徒自身が自らの知らないこと,学ぶべきことを解決すべき問題として認識し,さまざまな手法を用いながら学習を進め,目標に向かって進むことを「情報の科学」の学習を通して展開していきたい。
 1章のコンピュータのしくみや情報のディジタル化については,生徒の探究課題として設定し,個人やグループで発表を行う形式で学習を進めてはどうだろうか。ポイントとなる事項を解説する場面で,教科書をうまく活用できるであろう。受験科目ではない「情報の科学」では,参考書などがほとんどないため,Webを活用した調べ学習が必須となるであろう。その際,2章や3章で取り扱われているさまざまな情報サービスのしくみや情報モラル,情報の信憑性,著作権などの知的財産権について,適宜課題として取り上げながら授業を構成することが想定できる。
 教科書では,生徒も学習経験が少ないと思われる問題解決やアルゴリズム,モデル化とシミュレーションといった内容は,生徒自身が実際に活動を行いながら学習を進められるように例題形式となっている。まずはこれにしたがって知識と技能を身につけ,それらを活用しながらさまざまな問題解決に取り組めるようになっている。
 人間は日常的に問題解決を繰り返しながら生活している。しかしながらあまりに日常的な行為であるために,その手順や用いる手法について,意識化することはほとんどない。やみくもに問題解決を行おうとして,無駄が多く発生したり,成果を上げることができなかったりすることも多い。教科書の4章では,これらを比較しながら問題解決の代表的な流れを身近な例を用いて解説している。また,問題解決におけるさまざまな手法が紹介されており,生徒自身がこれらの手法を実際の問題解決に用いる学習も当然考えられるだろう。
 また,アンケート調査などは小・中学校でやった経験をもっている生徒も多いと思われるが,サンプリングの方法,アンケート用紙を作成するときの注意点,集められたデータの集計方法,分析方法などについても4章にかなり詳細に記載されている。表計算ソフトを利用すると,簡単にきれいなグラフが作成でき,生徒もあまり考えずに利用している場合が多いが,統計の考え方をきちんと学習することにより,より正確に情報を表現する方法やメディアなどで利用されているデータの扱い方を批判的に読み解く能力を養うことができるであろう。
 アルゴリズムの学習ではプログラミングを通して理解を深める工夫がなされている。JavaScriptは現在でも多くのWebサービスで利用されているものであり,今後普及が予想されているWeb標準技術であるHTML5でも,動的Webページ作成のためのプログラミング言語として,その可能性が広がりつつある。特別なアプリケーションや開発環境の必要がなく,WebブラウザとOSに標準で添付されているエディタソフトがあれば利用できる。Webベースの技術であり,OSにも依存せず,ほぼすべての学校のPCで利用できる。最近ではデバッグなどを簡単に行える開発環境も揃ってきており,Webブラウザのadd-onやオープンソースのソフトウェア,ソフトウェアメーカーの提供するフリーソフトとして利用できるものも増えてきた。巻末資料で,JavaScript参考資料も用意されており,学習の際に利用できる。
 探究的な学習活動を進める上において,探究の手順,方法などを意識的に考えさせるような指導を行うことにより,生徒にアルゴリズムを意識させたり,集めたデータの整理にデータベースを活用したりする場面をつくり出すことが可能であろう。
 また,場合によってはシミュレーションを取り入れながら,変化を予測したり,最適な手段を選択したりする方法を学習させることもできる。これらの学習課題や方法は,7章2節の課題解決学習実践例が利用できる。
 もちろん,他教科の学習内容や学校行事などを事例として取り上げた独自の課題を設定するなど,生徒や学校の実情に合わせた課題を用いた学習が多くの学校で展開されることにも期待したい。

5.より学びを深めるために
 これまでの「情報B」の履修状況からみると「情報の科学」は理科系の生徒の履修が多くなることが予想される。家庭ですでにインターネットを利用し,Webページを作成した経験をもった生徒が履修することも考えられる。日本文教出版の「情報の科学」の教科書では,日常的に利用している技術やそこで使われている用語などについても取り扱われているほか,ある程度情報について詳しいと思っている生徒にとっても,より専門的な知識を学べる充実した内容となっているので,よりハイレベルな課題へ挑戦させることもできる。
 この教科書で学ぶことで,これからの情報社会や情報システムを構築していく人材となることを目指してもらいたい。
6.おわりに
 近年高校生や大学生の「情報離れ」の現象が問題となっている。ある程度使えるという中途半端な自信から,きちんと学ぶ必要性を感じなくなってきているのだろうか。情報システムの多くがブラックボックス化してしまうことで,見かけ上は使いやすくなったように思われても,いざというときにまったく使えないものになってしまうこともある。東日本大震災でも,そのような現象はたくさん見られた。
 これからの情報社会を支える人材を育てる科目として「情報の科学」が実践され,学んでよかったと思われる科目になることを期待したい。
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