4.中学と高校との交流の試み |
ここまで技術科のCSや教科書,さらに実践動向を概観してきた。技術科教育に20年以上関わってきた筆者から見ても,技術科の授業は変わろうとしつつある。その一方で,本誌読者の方々であればよくご存じのように,教科「情報」でもさまざまな実践や研究がなされている。問題は,両者の交流や連携がほとんど見られないということである。これには学校段階や各教員のバックグランドの違いなどさまざまな要因が考えられよう。中学校技術科と高等学校工業科の教員は,技術という共通項があるため,学会や民間研究会なども含めて一定の交流がある。筆者も某県の年次研修として,技術科の教員と工業科の教員の合同の授業研修会に毎年関わっている。校種を超えて授業を見合ったり,共に議論したりすることは,相互に多くの刺激をもたらしている。こうした試みが技術科と教科「情報」の間でできないだろうかと考えている。
そこで本年1月に,筆者が取りまとめをしている日本産業技術教育学会のロボコン委員会主催,情報コミュニケーション教育研究会(ICTE)協力の下,中学校・高等学校の情報教育交流会を開催した。ICTEとしても中学校の技術科との本格的なコラボレーションは初めての試み(※注7)である。
例えば,長野市立東部中学校の土田教諭からは身近な機械の省エネと制御をテーマにした実践が報告された。フローチャート式言語でプログラミングできるロボットカー教材を用いているが,単に走らせるだけでなくロボットカー自体を制御ユニットとし,エスカレータ模型を制御する課題に取り組んだ。その際に省エネの制御を理解させると共に,子どもに配慮した制御プログラムを考えさせるなど,目的意識を明確にしたプログラム制作が特徴であった。また,宇都宮大学院生の鈴木氏からは,技術の基本的な概念として安全に着目し,LEGO MINDSTORMS NXTを用いて,自動ドアをモデルに使用者の安全を考えた設計・プログラムを体験させる実践も報告された。前節で紹介した授業例と同様に,プログラム自体の高度さではなく,制御技術と社会の関連や開発者としての視点を持たせた実践は,今後の方向性として重要であろう。ほかにも,簡易なものづくりから制御までを接続した実践や,LEDの制御による水耕栽培など幅広い実践が紹介された。
▲図3 中学校・高等学校情報教育交流会の様子
一方,高校では,神奈川大学附属中・高等学校の小林教諭から,教科「情報」での問題解決とコンピュータの活用において,ARCS動機づけモデルを適用しながら,センサーロボットの制御に取り組んだ実践が報告された。特に,宇宙エレベータへの取り組みは参加者の目を引いていた。
参加者の高校の教員からは,技術科での実践が進んでいることに驚いたことや,自身の情報の授業にぜひ参考にしていきたいといった声をいただいた。こうした機会を増やしていく中で,情報や知見を共有し,相互に議論し合うことが,今後の技術科,教科「情報」双方にとって役立つであろうと考える。
その一つのヒントが共通の題材にあるのではないだろうか。研究会では,教材体験をしてもらう時間を設定したが,中・高の教員同士が熱心に情報交換をしたり,意見を交わしたりする姿がみられた。ロボットという共通の題材,具体物があることの効果だと考えられる。 |
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