ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.8 > p14〜p17

教育実践例
体育の授業や部活動指導に役立てる情報教育
早稲田大学本庄高等学院 田邊 潤
jutanabe@mn.waseda.ac.jp
1.はじめに
 本校では,全員が早稲田大学に進学する附属校という関係から,1 9 9 8 年に東京の大学本部と埼玉県本庄市にある学院パソコン室,図書館,各教科研究室にL AN 回線がひかれた。それ以来各教科で情報教育との連携を模索し始め,私の専門教科である体育科でもパソコンをはじめとするいくつかの情報機器やインターネットを,指導場面でどのようにしたら有効に生かしてゆくことができるかを考え,いくつかの試みをしてきた。

  他教科に生かす情報教育ということで,現在までの体育科と部活動での実践例について紹介してゆきたい。
2.指導に役立つ連続写真の作成
 近年はビデオカメラの進歩により,スポーツ指導においては撮影したビデオを選手がその場で見ることができるようになり,連続写真の果たす役割は限られたものになってきている。しかしながら,スポーツ場面における連続写真は,技術指導に効果のあるものとして古くから珍重され,専門書や雑誌等に紹介される一流選手の連続写真を選手や指導者が参考にするという形で利用されてきた。

  連続写真を作成するのは一般のカメラでは難しく,現像や焼付けなど,手間隙のかかるものであったが,デジタルカメラの進歩により手軽に行えるようになった。

  そこで,デジタルカメラによる教材制作として1 9 9 8 年に生徒達を題材にしたスポーツ場面の連続写真制作を行った。これは,後に紹介するE メイルによるスポーツアドバイスに添付するためのものでもあった。

  なお,当時のデジタルカメラでは毎秒4 コマ撮影できるものが最高で,何回かの動作を行わせたものを組み合わせて一連の動作を作り上げた。そのため,撮影できるスポーツ種目も限られたものであった。現在では,毎秒3 0 コマ撮影できるものも発売されているので,多くの種目で簡単に連続写真が制作できるようになってきている。

走り高跳びの一連の動き
▲走り高跳びの一連の動き

野球ピッチング動作
▲野球ピッチング動作
3.Eメイルによる陸上競技技術アドバイス
 体育の授業や部活動の指導において,教師や生徒がより専門的な情報が欲しい場合に,手軽にその種目の経験者からE メイルを通じてアドバイスをもらえるようにしようと企画したものである。発信側としては本校の生徒,受信側としては所沢市にある早稲田大学人間科学部の鈴木秀次研究室のスタッフの方々に協力してもらうという形で1 9 9 8 年から実践した。高校生からの質問内容は,添付の連続写真などから判断できるような技術的なポイントに関してのもので,これは後に動画の添付として発展していった。特にスポーツの動作は動きのテンポや間合いなど,静止画では判断しにくいものが多く,当時動画送信用に便利ということで買ったシャープVN- EZ1 というモデルは非常に役立った。

早稲田大学人間科学部の鈴木秀次教授とスタッフ
▲早稲田大学人間科学部の鈴木秀次教授とスタッフ

シャープVN- EZ1
▲シャープVN- EZ1

棒高跳び選手の質問とアドバイス

質問:助走からポールを突っ込み空中動作に持って行く間で動きの欠点はあるでしょうか。高校一年 1 6 5 c m ・6 2 kg (1 0 0 m 最高記録1 1 秒9 )

  アドバイス:助走は良く走れていると思います。ポールの突っ込み動作にも遅れはなくスムーズで,右手を高い位置に保って踏み切りに入っているのは素晴らしいです。ただ,空中動作で胸を張ってしまう動きは損ですので直して行きましょう。

  鈴木先生はこの動画を同郷で日本の棒高跳び指導の第一人者である香川県立観音寺第一高校の詫間茂先生にE メイルで送り,詫間先生からも貴重なアドバイスを得ることができた。こうして,離れていても一流コーチのアドバイスが受けられるというスポーツ選手にとっての夢が,E メイルの利用で実現できることがわかった。

  手軽に動画撮影が可能になった1 9 99 年には,部活動の練習指導後教員室に戻り,パソコンを立ち上げ,コメントをつけ,動画を添付してE メイルを送信するという作業がわずか1 5 分ほどでできるようになり,このシステムが将来生徒間だけで運用できるようになることも確信できた。

  スポーツの指導者は実際に動作を見て実地に指導してゆくことを基本とし,複雑な情報機器の操作やデータの分析に時間を取られたくないと考えるのが一般的であり,私もその一人である。その点で,今回の実践においては,本校の数学科の半田亨先生に時々指導していただくことで,短時間に操作手順を習得することができた。半田先生は,この実践には無くてはならない存在であり,このような連携が,今後他教科と情報科を結びつけるうえで重要になってくるのではないかと私自身考えている。





半田先生
▲半田先生
4.動画を見ながらのテニス指導
 この例は,選択体育授業の硬式テニスの中で熟練者からのアドバイスをもらうという形で実践された。生徒側からは素振りの様子を撮影した動画と質問文を発信し,鈴木研究室からは熟練者の素振りと手軽にできる練習例が送られてきた。この実践で面白かったのは,パソコンの画面を見ながら素振り練習のリズムをおぼえられた点で,パソコン室では狭かったので図書室のパソコンで素振りのリズムを体験させた。動画の場合,実際の動きのリズムもわかりやすい。また,映画のように大きな画面に映し出すことで,E メイルアドバイスもさらに有効に役立てることができるであろう。また,「ワン,ツー,スリー」等の声も同時に再現できることもリズム習得には都合が良い。練習法についても動画だとわかりやすく,このような練習内容を数多く集めたCD 等を製作するのも,教科教材として面白いと考えている。



5.スポーツ障害へのアドバイス
 スポーツをしている選手達にとって,故障はつきものである。実際に授業や部活動でも,捻挫や骨折,靭帯損傷などの重いものから,肉離れや突き指,シンスプリント(ランナーによく見られるすねの痛み)など幅広い部分の怪我は日常的におこるものである。このような怪我への処置はもちろん医者へ行くのが第一であるが,故障後のリハビリや故障予防法などで熟練者の経験談は非常に参考になる。そこで,選手達の痛む個所や特定の痛みの様子などを撮影し,E メイルアドバイスをもらった。
アドバイスを送る側は医者ではないが,同じ経験をした選手として非常に役立つアドバイスを返してくれた。

ラグビー部員の相談

質問:練習で走っていたら,両足のすねの内側に痛みを感じるようになりました。この部分一帯を押すとととても痛いです。どうしたらいいでしょうか。

  アドバイス:あなたのような下腿部の痛みは若いスポーツ選手には特に多く,「シンスプリント」と呼ばれています。しかし,痛みをおして走っていると疲労骨折につながる可能性もあるので,痛みがひどいうちは走らずに他の部分の強化につとめてください。リハビリとしては,足首の可動域を広げるためのストレッチと下腿の筋力強化が大切です。

6.情報機器を利用した体育指導の今後の発展
 今後は,インターネットを利用して他校とデータの交換を中心とした地域別の体力測定評価や,特定種目を設定したネット体育祭等の企画も海外との交流を含めて考えてゆきたいと思っている。
7 .まとめ
 今回紹介した例では,体育の授業や運動部の指導場面で直接グランドにパソコンを持ちこむようなことはしていないが,屋外でのパソコン利用は気温や風などの環境条件による影響も大きく,今後もあまり勧められないであろう。しかしながら,今回の実践で指導に役立てる資料の作成や生徒の学習意欲を高める工夫として「情報教育」がスポーツ場面において生徒や教師にとって非常に役立つことは実感することができた。

  パソコンの操作や写真制作などについても,私やクラスの生徒,陸上部員などが様々なかたちでかかわりを持ちこの実践を進めて来た。今後はこれらの実践を踏まえ,2 0 0 3 年度からの新カリキュラムに合わせて「総合科目」の中で「体育」と「情報」を合わせた新しい教材を体系づけて考えてゆきたいと思っている。
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