対談
チョコレートプラネット
長田庄平さん
早稲田大学教授
大泉義一さん
見たことないビーサン
大泉:聞き手が「会いたい人に会う」というのがこの『十人虹色』のコンセプトでして、私は家族一同、YouTubeの視聴・登録はもちろん、DVDも持っているぐらいチョコレートプラネットが大好きなので、今日はたいへん羨ましがられながらこちらに参りました。
長田:それはうれしい!
大泉:特にコント「業者」が好きで。
長田:あれは最高傑作だと(笑)。
大泉:小道具という面から見ても、すばらしい。
長田:いい仕事してます。
大泉:ネタは長田さんがつくられているんですよね。小道具を使うコントは、小道具のアイデアありきでネタができるんですか。それともネタが先?
長田:両方ありますね。例えば「業者」はネタをつくってから、それに合う小道具を考えました。一方で、誰も見たことのない形の小道具をつくったことが……。
大泉:「地元」のネタですね?
長田:そうです。あれは奇妙な形のビーチサンダルを先につくって。
大泉:「あの形」🅰(笑)。
長田:はい(笑)。「あの形」を先に思いついて、あれをどうしたらネタにできるかなと考えました。「パンダ」のネタも、ちょっと気持ち悪いパンダ🅱をつくりたいと思って、ネタを練り上げていきましたね。
大泉:実は図画工作でも、今おっしゃったような両方のアプローチがあるんですよ。
長田:そうなんですか!
大泉:ネタが先なのは、絵や立体や工作に表す。心に思いついたことを、例えばストーリーとして表現していくんです。道具が先なのは、造形遊びに表す。これは材料や場所などが先にあって、それに触れて操作することから思いついたことを表現していくんです。何だか、長田さんのネタづくりと似てますよね。
🅰 「あるよ、ビーサン!」
「俺の知ってるビーサンじゃねえよ」
🅱 「アレ、俺の知ってるパンダじゃないスよ」
はじまりはイカの着ぐるみ
大泉:自分で小道具をつくろうと思ったのはどうしてですか。
長田:まぁ、仕方なく(笑)。最初はお金がなかったからですね。外注したらとんでもない金額になるので。
大泉:なるほど。
長田:かなり初期に、イカと人間のクォーターというネタがあって、イカの着ぐるみ🅲を使いたいなと。でもイカの着ぐるみなんて売ってない。業者に頼めば当然お金がかかる。そうなると自分でつくるしかなくて。それでウレタンを買って、切ったり貼ったり。
🅲 イカと人間のクォーターというネタ大泉:さすがに今は外注ですか。
長田:そうですね、今はだいぶ外注です。やっぱり忙しいのと、外注の方がクオリティ高いので。とはいえ、ニュアンス的な造形の場合は自分でつくります。
大泉:ニュアンス的というのは?
長田:設定を業者に正確に伝えられない場合ですね。例えば「わらび舞妓ちゃん」🅳。わらび餅のゆるキャラという設定なんですが、全部ビニールで中の人が透けて見える。あれは完全に自分でつくりました。
大泉:あの、四角くて半透明のキャラですね!
長田:けっこう試行錯誤してつくりました。業者にお願いしたら、できませんと言われてしまって。
大泉:どのあたりが難しいんでしょう。
長田:わらび餅の半透明な、すりガラスのような感じがなかなか既製品では出せなくて。それで、自分でクリアなビニールに塗装して、透け具合を細かく調節しました。そこがおもしろさの鍵になるので。
大泉:だからこそ、こだわるんですね。
長田:「業者」のポテチクリーナー🅴も、ポテトチップスの袋がこう、ゆっくりとスライドしていく、そのスピードをめちゃくちゃ調整しました。
大泉:あのゆっくり加減がいいんですよね。素早くシュッと切るんじゃダメで。
長田:速すぎてもダメだし、ゆっくりすぎてもダメ。少しずつギア比を変えながら(笑)。
大泉:試行錯誤をされたんですね。
長田:そう。一番おもしろいスピードを探って。まぁ、そこは芸人としての感覚ですね。
🅳 「はんなり~はんなり~」わらび舞妓ちゃん
🅴 コント「業者」に登場する自作小道具
「ポテチクリーナー」
自分がキラリと輝く角度
大泉:長田さんは図画工作ってお好きでしたか。
長田:めっちゃ好きでした。ウチが町工場で、おじいちゃんがいろんなものをつくってたのも見てましたし。
大泉:図画工作って、子どもの好きな教科としては上位にくるんですよ。でも、Adobe社が世界の中高生を対象に行った調査で「創造力」について尋ねたところ、他国に比べて日本では「自分には創造力がない」と回答している子が多かったんです。
長田:うーん、それは謙遜なんじゃないですか? 国民性だと思いますね。だって創造力って曖昧なものじゃないですか。それに、創造力がないと思っている日本人のいろんな作品が、世界で評価されていたりもしますよね。俺だって、自分がクリエイティブかと問われたら否定しますよ。でも、だからこそ、どうしたら勝てるか、どういうアプローチなら自分が輝けるかを戦略的に考えて、実行していくというのが楽しいんじゃないかと。
大泉:なるほど。創造力なんて気にせずに、まずはいろいろやってみて、自分なりのアプローチを探すんですね。
長田:いかに客観的に自分を見られるかも大事ですね。下に見すぎてもダメだし、上に見すぎてもダメ。自分というものを、世間からズレないバランス感覚で捉えて、自分に合った戦い方を探す。
大泉:どうしたら自分を客観的に見られますか。
長田:やっぱり周りの人の意見を聞いて、自分の今いるポジションをしっかりと見ることでしょうね。俺もショーレースで勝てなかったり、ひな壇で活躍できなかったりする。そんなときはアプローチ方法を変える。そこからモノマネ……例えばIKKOさんとか和泉元彌さんとか、TT兄弟とかにたどり着いたわけです。
大泉:チョコプラは持ちネタの幅が本当に広いですよね。いろいろやってみて見つける。
長田:でもそこにはね、運というか、偶然の要素も入ってくるんです、絶対に。だからこそおもしろい。自分じゃできないと思っていても、できるときもある。チャンスもある。諦めずに何でもやってみた方がいい。
大泉:運という要素を忘れずに、ですね。
長田:そう。運なのか実力なのか、何がよかったのか。そこを分析していくことも忘れずに。
全然、迷っていい!
長田:俺だって正直、のらりくらり生きていければいいんですよ。芸人になるって言っても、別に芸人で頂点を取ってやる! って意気込んで始めたわけではなくて、何となく、人生の暇つぶしみたいな(笑)。
大泉:そもそもどうして芸人に?
長田:バイトをしながら将来のことを考えたときに、実家の工場を継いで、そのまま普通に年を取って、結婚して死んでいくのか……と、何となくレールのようなものが見えてしまった。俺はすごく頭のいい人間でもなければ、ヤンキーでもない。ごくごくフツーに生きてた。だから、そのままそのレールに乗っかっていったら、俺の人生って語れるものがないなって。
大泉:そんなことないように見えますけど。語れるものとは。
長田:年取っておじいちゃんになったときに、孫に話せるようなエピソードトークがないなぁって(笑)。それで、1回東京に出てみようかと。
大泉:東京で何をしようと?
長田:決めてなかった。でもお笑いは好きだったんで、芸人でもやってみようかなと。もちろんやる気はある方がいいんでしょうけど、でもどこかでスイッチが入ると思うんですよ。それに、もし入らなくてもそんなに問題ではない。仮に俺が普通の生き方をしていても、何の問題もないわけで。いろんな人がいていいと思いますね。強制的にやる気とかそういうのを求めるのって、あんまりよくないのかなって。
大泉:それはすごく勇気がもらえるお話ですね。迷っていいんですね!
長田:全然。迷っていい!
松尾さんは味方ですか?
長田:無駄なことなんてないと思うんです。今まで生きてきた中で、すべてが今の自分の要素になっている。何もやっていないことですら無駄じゃない。それはそれで武器になる。武器にするかどうかですよね。自分で使うかどうか。
大泉:誰しも武器を持ってる。
長田:絶対持ってる。勉強できないならできないことを武器にして、どう戦っていくかを考える。勉強ができないからこそ、できるようになるシステムを考えつくかもしれない。それはたぶん、勉強ができる人には思いつかない。
大泉:確かに。
長田:日本の教育は型にはめる教育だっていうじゃないですか。でも俺は悪くないと思うんですよ。型にはめられているから、パンって出てくるものもある。不都合な中にイノベーションがある。
大泉:不都合な中にイノベーション。創造力がないという謙虚さも、もしかしたら日本の強みになるんですね。
長田:そう、強みになる。武器になる。うまく戦えば評価にもつながる。認められるってうれしいことなので。
大泉:人は思ったよりも人を褒めたり、認めたりしないそうですね。
長田:俺も売れない時期はあったんですけど、やっぱり先輩や同期の中に「おもしろい」って言ってくれる人がいたから頑張れた。誰か1人でも認めてくれる人がいれば、それが糧になる。誰か一人でも味方がいれば、とても頼もしいんです。
大泉:相方の松尾さんは味方でしょうか。
長田:あいつは味方なのかよくわかんない(笑)。パートナーなので。でもまぁ、味方っちゃあ味方ですよね。
大泉:今日お話しできて、本当によかったです。最後にお聞きしますが、長田さんは、図画工作の応援団になってくれますか?
長田:もちろんです! 応援してますよ。
吉本興業の東京社屋にて。TT兄弟のポーズというリクエストにも笑顔で応じてくださったお二人。感謝です!