高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

北日本新聞創刊140周年記念 エッシャー 不思議のヒミツ
2024.06.20
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.075>
北日本新聞創刊140周年記念 エッシャー 不思議のヒミツ
富山県美術館

北日本新聞創刊140周年記念
「エッシャー 不思議のヒミツ」展 ポスター
 富山県美術館は国内外有数のコレクションを所有し、アートとデザインを紹介する美術館です。今回は企画展、コレクション展それぞれの見どころや注目作品について、担当の学芸員の方々にお話を伺いました。

――「エッシャー 不思議のヒミツ」展で展示されている、《描く手》や《昼と夜》は、教科書でも取り上げています。教科書では作品を通してエッシャーの錯視のテクニックや、不思議な世界の表現に注目しています。
 「エッシャー 不思議のヒミツ」展において、《描く手》や《昼と夜》はどのように紹介していますか?展覧会の特徴とともに教えてください。

 《描く手》は、二次元(平面)で描かれているものが、三次元(立体)のようにみえる面白さがある作品です。紙から手が浮き出てもう一方の手を描くというユニークなアイデアが見どころです。見る人が自然とこの作品世界にひきこまれるように、エッシャーは、画鋲で貼られた何気ない紙や、手が飛び出してきたのを強調するように手の影を濃く描くなど、工夫を凝らしています。エッシャーは独特な視点でありえない風景を表現しています。
 《昼と夜》は、オランダの広大な田園地帯を鳥たちが飛んでいる作品です。一つの形が次第に別の形へと変化していく、メタモルフォーゼの技法を駆使し、画面中央を境目に、左側は昼間に飛ぶ黒い鳥、一方右側は夜に飛ぶ白い鳥が描かれています。本作はエッシャーの作品の中でも、代表的な作品の一つです。

《描く手》1948年制作 リトグラフMaurits Collection, Italy
All M.C.Escher works © 2024 The M.C.Escher Company, Baarn, The Netherlands.
All rights reserved mcescher.com

《昼と夜》1938年制作 木版 Maurits Collection, Italy
All M.C.Escher works © 2024 The M.C.Escher Company, Baarn, The Netherlands.
All rights reserved mcescher.com

――富山県美術館では20世紀美術を中心に、国内外の様々な作品を鑑賞することができます。「コレクション展 第1期」で見ることのできる、オススメの作品を教えてください。

ジャクスン・ポロック《無題》
 黄色い下地に、赤、青、グレーなどの絵の具が塗られ、その上から黒いエナメル塗料の線が、網のように画面を覆います。一見、無秩序のように見えますが、エナメル塗料は画面から大きくはみ出すことはなく、画面構成が意識されていることがうかがえます。作者のポロックは、抽象表現主義という動向を代表する画家で、床に広げたキャンバスに、絵の具を垂らす「ポーリング」と呼ばれる技法を用いて抽象絵画に新境地を開きました。本作からはその初期の試行錯誤が伺えます。

《無題》1946年[メゾナイト板・油絵具・エナメル・新聞コラージュ 60.5×48cm]
ジャクスン・ポロック[アメリカ・1912~56年]

アルベルト・ジャコメッティ《裸婦立像》
 台座から棒のようなものが立ち上がっています。近くで見ると、頭部や両腕、足を確認することができ、人の姿が表されていることがわかります。ジャコメッティは、キュビスムやシュルレアリスムの影響を受けた後、細長く引き伸ばされた人物像を制作しました。モデルを見つめれば見つめるほど対象の細部しか見えなくなり、全体を見るためにはモデルを後退させなくてはならないという葛藤のなかで、消え入りそうなほど小さな人物像を制作しました。

《裸婦立像》1950年頃[ブロンズ・着色 21.0×7.2×5cm]
アルベルト・ジャコメッティ[スイス・1901~66年]

――教科書ではポスターを通して、効果的にメッセージを伝えることについて取り上げています。デザイン・コレクション展第1期「プレイバックIPT!:音楽」もまた、ポスターを展示しています。今回の展示では、どのような視点でポスターを展示していますか?注目したいポイントとあわせて教えてください。

 2024年は富山県美術館が3年に一度開催しているポスターの国際公募展「世界ポスタートリエンナーレトヤマ(IPT)」が開催される年であることから、これまでのIPT入選作の中から音楽にまつわるポスターを展示しました。
 そこには、誰もが名前を知っているようなミュージシャンのコンサートや、レコード、CDの発売告知もあれば、音楽の教科書に顔と名前の出ているような音楽家のイメージを、デザイナーが自身のグラフィック作品として表現した作品、レコードジャケットのデザインを多く手掛けたデザイナーが制作したポスターなどがあります。あらゆる切り口から、音楽を視覚的に表現することについて様々な方に興味を抱いてもらえるような構成を意識しました。

デザイン・コレクション展第1期
「プレイバックIPT!:音楽」展示風景

展覧会情報

■『北日本新聞創刊140周年記念 エッシャー 不思議のヒミツ』
会期:2024年4月27日(土)~6月30日(日)
会場:富山県美術館 展示室2、3、4
公式サイト:https://tad-toyama.jp/exhibition-event/18109
休館日:毎週水曜日
開館時間:9:00~18:00(入館は17:30まで)
観覧料:一般:1,500円(1,200円) 大学生:1,000円(800円) 高校生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金

【関連作品 教科書掲載情報】

  • 令和4年度版「高校生の美術1」p44.
    昼と夜[木版・紙/39×68cm]
    1938 M.C.エッシャー[オランダ・1898~1972]
  • 令和5年度版「高校生の美術2」p20.
    描く手[リトグラフ・紙/28.4×33.4cm]
    1948 M.C.エッシャー