高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

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大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024
2024.10.02
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.077>
大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024
photo Kanemoto Rintaro
 「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」は、2000年から続く世界最大級の国際芸術祭です。新潟の大地で作家や地域の方々が一緒になって作る芸術祭は、人を魅了し、世界中から多くの人が訪れるそうです。今回は芸術祭スタッフで、作品制作の担当をしている長津さんに、教科書にも掲載している関口光太郎さんの作品をはじめ、芸術祭の注目ポイントについてお話をうかがいました。

――教科書では関口光太郎の《サンダーストーム・チャイルド》を掲載し、新聞紙などの身近な素材で制作することを取り上げています。関口光太郎は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」でもまた新作、《除雪式奴奈川姫》を展示します。《除雪式奴奈川姫》の注目ポイントは何でしょうか。作品の魅力と共に教えてください。

長津:作品のアイデンティティの1つでもある壮大なスケール感と、細部の繊細さのギャップはもちろんですが、その注目ポイントはやはり、作品のストーリー性にあると考えています。《除雪式奴奈川姫》は地元の伝承と、ユーモラスな発想がかけ合わさってうまれました。
 関口さんが芸術祭の下見に来られたのは、年末でした。大地の芸術祭の開催地は2~3mも積雪する豪雪地です。雪がふりしきる中、関口さんは「除雪車が格好いいなと思って、気になっているんです」とおっしゃっていました。その言葉をきっかけに、除雪車のオペレーターや、展示会場である奴奈川キャンパスの近くに住む地域の方のもとに訪れました。
 「なぜ奴奈川という地名になったのか」と問いかけたところ、地域の方は作品の主題になった「奴奈川姫伝説」のお話を聞かせてくれました。そこから関口さんが考えたテーマは「いやな求婚者から、除雪しながら逃げる奴奈川姫」でした。作家担当者である私自身、芸術祭開催地の越後妻有で生まれ育ったのですが、地域の伝承と雪国の技術が面白く組み合わさるなんて考えもしませんでした。その後、地域の皆さんには制作のお手伝いもしていただき、作品の完成を大変喜んでくださいました。
 もう1つ注目ポイントをあげるならば、作品に体験要素が組み込まれていることです。《除雪式奴奈川姫》が展示されている奴奈川キャンパスは、「子ども五感体験美術館」をテーマに作品を展示しており、「木」、「光」、「音」といった要素を体験していただける施設です。その中でも《除雪式奴奈川姫》は、「紙」を体験できる部屋として位置付けられています。本作品は、雪の表現として大量の新聞紙を床に敷き詰めました。来場者はそこに潜ったり、駆け回ったりしながら、新聞紙の「豪雪」を楽しみます。さらに会場内には、関口さんが普段から愛用しているメーカーのガムテープが置かれ、来場者は「新聞紙×ガムテープ」の作品を制作することができます。会場には、奴奈川姫を先導する鹿も一緒に展示されているのですが、それは地元の小中学生約120名と一緒に制作したものです。

関口光太郎《除雪式奴奈川姫》2024年
Photo by Nakamura Osamu

――「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」は、今回で9回目になります。その中でも今回は「歓待する美術」というテーマを掲げ、芸術祭を行います。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」の見どころは何でしょうか。芸術祭の特徴と合わせて教えてください。

長津:今回の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」の見どころは、アーティストが地域に深く入ることで生まれたさまざまな化学反応を、芸術祭の節々に感じられるところにあると思います。
 前回の芸術祭は2022年、感染症に細心の注意を払いながら開催しました。その時は準備期間も含めて移動や交流が制限されていましたが、今回はその反動もあってか、地域のあちこちで作家の活発なリサーチが行われました。地域の皆さんはそれに勇気づけられ、張り切って作品のお手伝いや、お客さんのおもてなしをしてくださります。海外からも多くの方が越後妻有を訪れますが「言葉は通じなくても、何を言っているのか分かるんだねえ」と、空き家を改修した作品兼レストランで働くお母さんが教えてくれたのが印象的でした。全国的に進行する高齢化は越後妻有も例外ではありません。芸術祭によって普段よりも多くの方が足を運び、たくさんの地域資源の価値が見直されることで生まれた化学反応は、「地域が元気になる」ということでした。

Photo by Nogawa Kasane

 大地の芸術祭は第1回の開幕から4半世紀が経過しますが、今も変わらずたくさんの人の手と、想いによって開催することができています。大地の芸術祭のロゴマークは黄色の逆三角形のかたちで、「自然」、「芸術」、「人」という越後妻有のアートフィールドそのものを表しています。芸術祭にお越しの際には、ロゴマークの意味でもある、作品が、人が、里山が、元気いっぱいに一丸となって皆様をお迎えする様子を存分にお楽しみください。

大地の芸術祭 ロゴマーク

――「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」では、311点もの作品を見ることができます。その中でも学生に向けて特に紹介したい作品や、イベントがあれば教えてください。

長津:学生のみなさんに特に紹介したいのが、「作家が参加するワークショップやイベントに参加する」ことと、「地域の方やスタッフと話してみる」ことです。
 大地の芸術祭の作品の多くは、越後妻有地域(新潟県十日町市・津南町)の壮大な自然環境と、そこで暮らす人々の営みから学びを得て制作されています。トリエンナーレの会期中は地域のあちこちで作家やスタッフが活躍していますので、作品鑑賞はもちろんですが、皆さんだけの体験を通して芸術祭を楽しんでいただきたいと思います。公式サポーター「こへび隊」の活動に参加するのもお勧めです。
 地域内での交流を経ると、地域のそこかしこが美しく、作品ではないものまでアートであると思えるようになってきます。
 美術館の均質な空間では体験しえない「大地」を味わってみてください。

大地の運動会
Photo by Nakamura Osamu

展覧会情報

■『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024』
会期:2024年7月13日(土)~11月10日(日)
会場:越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)760㎢
公式サイト:https://www.echigo-tsumari.jp/
定休日:火曜日、水曜日
観覧料:作品鑑賞パスポートや作品ごとの個別鑑賞券などご用意しています。
備考:企画展や作品の特別開館、イベントなど詳細日時は内容によって異なります。

【関連作品 教科書掲載情報】

  • 令和4年度版「高校生の美術1」p65.
    サンダーストーム・チャイルド[新聞・ガムテープ/315×240×470cm]
    関口光太郎[群馬県・1983~]