ROOT(算数・中学校 数学)

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PISA調査の問題から示唆される活用力育成のための指導のポイント
2010.05.28
ROOT(算数・中学校 数学) <No.01 創刊号>
PISA調査の問題から示唆される活用力育成のための指導のポイント
活用力をつける より

RooT No.01表紙

1.はじめに

 昨今、活用力の育成が叫ばれていますが、「活用」と言いますと、真っ先に全国学力・学習状況調査のB問題が思い浮かびます。ただ、こうした学力調査が実施されることになった背景には、いわゆる、「PISAショック」があったようにも思います。
 PISAショックとは、OECDが15歳児を対象に行っている国際学力調査(PISA調査)において2003年調査の結果が2000年調査の結果より落ちたことを受けて関係各所に広まったショックのことを指します。例えば、2000年調査における「数学的リテラシー」の順位は、参加32ヵ国中1位だったのですが、2003年調査では、参加41ヵ国中6位となってしまい、こうした結果は、当時の学力低下論争にある種の「とどめ」を刺した感もあったように思います。
 詳しく見てみますと、数学は6位だったのですが、実は1位グループには入っていましたので、そうした「相対的な」順位の低下に関しては、慎重に議論すべき問題だったでしょう。しかし一方で、我が国の指導がPISA 調査で求められているような力を伸ばしていないとすれば、それはそれで問題のようにも思えます。とすれば、実際のPISA 調査の問題を分析し、現在、社会で求められている力はどのようなものなのかを検討しつつ、「活用力の育成」に関してどういった示唆を引き出せるかについて議論してみることは、興味深い作業でもありましょう。

2.PISA 調査の問題の具体例

 PISA 調査では、その調査領域が、例えば「数学的リテラシー」とあるように、学校で学習した単純な知識・技能の習得状況を問うような問題が出題される訳ではありません。様々な状況で知識・技能を活用する能力を問われる問題が出題されます。また、各問題では、「数学的な内容」「数学的プロセス」「数学が用いられる状況」という3つの側面が考慮されます。特に「数学が用いられる状況」に関しては、実生活で生徒が遭遇するような状況として、「私的」「教育的」「職業的」「公共的」「科学的」という5つが設定されており、全国学力調査B問題に比して、かなり幅広い問題状況が想定されていることが分かります。
RooT No01_02 ここでは、数学が用いられる状況としては「公共的」、すなわち、生徒が生活する地域社会における文脈が問題状況となっている問題の1つである「盗難事件」問題を紹介いたしましょう。あるTVレポーターがこのグラフを示して、「1999 年は1998 年に比べて、盗難事件が激増しています」と言いました。
 このレポーターの発言は、このグラフの説明として適切ですか。適切である、または適切でない理由を説明して下さい。

国立教育政策研究所(編)(2004).『 生きるための知識と技能2:OECD生徒の学習到達度調査(PISA) 2003年調査国際結果報告書』. p.119.
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 なお、この問題の完全正答率は11.4%で、OECD平均の15.4%と比べてみても、かなり低いものと見てよいでしょう。

3.活用力育成のために

 全国学力調査B問題でも、こうした「データやグラフからある種の判断を求め、その判断の理由を問う」問題は継続的に出題されています。ところが、自らの考えを整理して、例えば「判断とその理由」を数学的な表現を用いて説明しなければならないような問題では、正答率が低くなるようです。そして、まさにこの結果から、活用力育成のための指導のポイントが示唆されます。それはすなわち、数値的なデータからある種の判断を求め、その理由を表現させ、できれば表現を洗練・工夫することで他者の納得を導くような活動を数多く授業に取り入れることが重要だということでしょう。
 また、この問題自体からは、「問題の文脈を作る状況を広く考えるべきだ」というもう1つのポイントが示唆されます。我々が「活用」を考える場合、直前に学習した知識・技能を超えない範囲で、それが使われる日常的な問題を考えてしまいがちです。しかし、そうした制約にとらわれ過ぎると、問題状況がいびつになりかねません。「盗難事件」問題のグラフの問題点は、記述統計の指導では必ず取り上げられる話題ですが、レポーターのグラフ解釈に対する批判的意見を述べる場合には、算数・数学の範囲を超えて、メディア・リテラシーに関わる議論にも踏み込まざるを得なくなります。しかし、それでもあえて「社会のリアルな問題を取り上げる」という目的意識を優先させて学習課題を選択・構成することは、算数・数学と社会との繋がりを感じ取らせるために、また「活用しようとする態度」の育成のために、重要な指導のポイントになってくると思うのです。

4.おわりに

 ここではやや特殊なPISA調査の問題を取り上げ、そこから示唆される活用力育成のための指導のポイントを2点述べました。しかし、実は我々教師が最も意識すべき指導のポイントは、日々の算数・数学の授業を「既習事項の活用」という観点から構成し、児童・生徒にもそうした意識付けをはかるという所にあるのではないかと、密かに思っています。


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