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ベルサイユの子(2008年・フランス)

こんな時代だからこそ、
ほんとうに必要なもの

画像:ベルサイユの子(2008年・フランス)

 パリの冬。5歳の男の子エンゾ(マックス・ベセット・ド・マルグレーヴ)と母親ニーナ(ジュディット・シュムラ)は、工事現場で眠りにつく。
 朝、ニーナは新聞で、介護施設の求人記事を目にする。何らかの事情で、この母子はホームレス寸前であることが分る。夜、安いホテルに泊まろうとするが、断られてしまう。
 ホームレス支援の福祉士の世話で、母子は、パリ郊外のベルサイユにある施設で一夜を過ごす。

 映画「ベルサイユの子」(ザジ・フィルムズ配給)は、ホームレス、失業問題といったフランスの一面を、静かに淡々と描く。ことはフランスだけの問題ではないだろう。なにか今の日本の現実と重なって見えてくる。

 翌朝、母子はパリに戻る途中で道に迷う。ホームレスの中年男ダミアン(ギョーム・ドパルデュー)は、ベルサイユ宮殿近くの小屋に住むホームレスたちの一人。ニーナは、ぶっきらぼうなダミアンと話すうちに、ダミアンの人柄の良さを感じ取る。
 朝、ニーナは、エンゾを残して、ベルサイユからパリに向かう。ダミアンは、子どもを押し付けられたことに怒りながらも、やむを得ずエンゾの面倒を見始める。
画像:ベルサイユの子(2008年・フランス) ホームレス村には、いろんな人間がいる。刑務所から出所してきた者もいれば、妊産婦もいる。法律は自分で決めろ、とエンゾに語りかけたり、刑務所には入るなよ、とも言ったりする。また、俺の知っているのは、空腹、乾き、憎しみ、軽蔑だけ、と語る男もいる。夜、ホームレスたちが人生を語り、手拍子で踊る。エンゾはやっと、うれしそうに笑う。
 ホームレスたちは、ドラム缶の風呂に入り、ふざけて遊んだりする。土を掘り、畑作りを手伝うエンゾ。エンゾにミルクを飲ませるダミアン。ダミアンは、エンゾを抱いて寝てやる。

 ニーナはパリで老人介護の職に就いている。老女の体をていねいに拭く。あなたは素晴らしいわと、老女に誉められたりする。施設では「ドミノ」を歌う職員にあわせて、老人とダンスするニーナ。
 ある日、エンゾと別れた場所にやって来るニーナだが、小屋は移動していて、見当たらない。
 エンゾの頭を洗い、新しい小屋を作るダミアン。咳のひどいダミアンを心配するエンゾに、人を呼んでこいとダミアンは訴える。エンゾはベルサイユ宮殿に飛び込み、警備員に救いを求める。
画像:ベルサイユの子(2008年・フランス) やっと退院することになったダミアンは、医者から小銭をもらい、待っているエンゾと再会する。
 ダミアンはエンゾの将来を考えて、喧嘩別れしていた父を訪ねることにする。父は若い後妻をもらって、うまくいっているようである。ダミアンは何とか職に就こうと、解体作業の現場で働き始める。
 この先どうするつもりか? と聞く父に、ダミアンは自分の子として、学校に入れさせる、と答える。書類にサインするダミアン。乾杯する4人。俺の息子、とダミアン。
 エンゾは学校に通い始めるが、初めのうちは、おはようの挨拶もできないでいる。ダミアンは、扱いのひどい仕事をやめてしまう。学校、仲間に溶け込めないないエンゾは、一人でボール蹴り。
 旅支度をして、出かけるダミアン。7年が経過する。エンゾは13歳になっている。母親から手紙が届く。ダミアンは7年間、エンゾをほったらかしである。手紙には、「風に飛ばされそうな小さいあなただったが、風に飛ばされたのは私。あなたの質問に答える、来て」とある。もうすでに、成長したエンゾである。初めて、自らの意思で、自分を捨てた母と会おうとするが…。

 映画は、ことさら主張はしない。ありうる現実を描くだけである。エンゾが愛くるしく、可愛く思えば思うほど、現実の厳しさが身に沁みてくる。
 起伏の激しいドラマではない。他人であっても、人と人のつながりの大切さが、浮かび上がってくる。同時に、このような現実が、フランスにもなお存在していることが、みてとれる。

●2009年5月2日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開