学び!とESD

学び!とESD

ESDを支える原則とは 「ハーモニーの教育」から学ぶ(その1)
2020.12.15
学び!とESD <Vol.12>
ESDを支える原則とは 「ハーモニーの教育」から学ぶ(その1)
永田 佳之(ながた・よしゆき)

 「国連ESDの10年」(2005-2014年)を経て、ESDはセカンド・ステージに入りました。上記の10年間、持続可能な開発や教育について議論を重ねてきたので、次の5年はそれまでの知見を活かしてもっとアクションを起こしましょう、ということでGAP(グローバル・アクション・プログラム)が打ち出されました。その5年間も2019年に終止符が打たれ、今年からSDGsの実現を標榜したESD for 2030という新たな「10年」がスタートしています。
 ユネスコではGAPの終盤にポスト「10年」の段階を「スケールアップ」の時期であるという表現がよく使われていました。これまでの延長線上で拡充をしていくという戦略です。ところが、GAPを経た今、ESDは「スケールアップ」から「バージョンアップ」の時期を迎えたと言えます。すなわち、それまでとは異なる次元のフェーズに入ったということです。このことはESDの名称の一部ともなっている「開発」そのものを捉え直すというラディカルな姿勢が内包されたESD for 2030という文書の節々に現れています(詳細はこの「学び!とESD」シリーズのVol.7~Vol.9をご覧下さい)。
 上記に「バージョンアップ」と言いましたが、従来の制度や慣習を捉え直して新たな方向性へと進むときに重要となるのはバックボーン、つまり拠り所となる「原則」です。国連総会で決議された「持続可能な開発のための教育:SDGs 達成に向けて」(通称 ‘ESD for 2030’)という文書には次のくだりがあります(4.18項)。

重要なことですが、「伝統的」な持続可能性の価値観が今後も関連づけられるように批判的なものの見方が求められます。確かに、自動センサー付のビルでは電気を消すという行為そのものが不要となり無くなるかもしれませんが、エネルギーを節約するという価値はこれからも続きますし、重要であり続けるべきだと言えましょう。テクノロジーのお陰で持続可能性にまつわる問題の多くを解決してきたし、解決できるのだ ― このような幻想を私たちが抱くにつれて、皮肉にも、持続可能性の原則を教えるという使命はよりいっそう取り組むべき課題となるのです。

 ここで強調されているのは「持続可能性の原則」です。なぜ、とりたてて原則が強調されているのでしょう。それは、新型コロナウイルス感染による現況を見てもわかるように、たとえ科学技術が発達したとしても予測困難な時代に生きていく人間が右往左往するときに立ち戻れる原点が必要だからです。そこに戻れば、自分たちにとって本当に大切なことは何なのかを諭される ― そんな原点です。
 特にESD for 2030の第4項の後半で強調されているのはテクノロジーとの〈付き合い方〉です。私たちの予測を遥かに超えて急速に技術開発が進む現代社会であるからこそ、人類を持続可能な未来へと導く拠り所が必要になるのでしょう。では、どのような原理が求められているのか ― 残念ながら、ESD for 2030にはこの説明はありません。それは私たちに課せられた探究の課題なのです。
 興味深いことに、「ESDの10年」にはこうした原理は共有されなかったにも関わらず、実践知が重んじられたグローバル・アクション・プログラムの5年間をふり返ると、各国の優良事例には「持続可能性の原則」を見いだすことができます。
アシュレイ小学校 イギリスの公立小学校であるアシュレイ小学校は長年にわたり学校全体でESDを実践し続け、ユネスコ/日本ESD賞の候補として英国から選ばれた優良実践校であり、「ハーモニー原則」にのっとった「サスティナビリティ 革命」を展開してきました。「ハーモニー原則」とは、英国のチャールズ皇太子が提唱してきた原則であり、建築や都市設計のみならず、教育にも影響を及ぼしている原則です。サリー州にあるアシュレイ小学校は、見た目は英国にある「普通の公立校」ですが、その実践はまさにポスト・コロナ時代の教育のあるべき姿を示唆していると言えるでしょう(詳細は『ハーモニーの教育:ポスト・コロナ時代における世界の新たな見方と学び方』山川出版社を参照)。次回は、その具体的な原理と実践を紹介します。