学び!とESD

学び!とESD

ESDを支える原則とは 「ハーモニーの教育」から学ぶ(その2)
2021.01.15
学び!とESD <Vol.13>
ESDを支える原則とは 「ハーモニーの教育」から学ぶ(その2)
永田 佳之(ながた・よしゆき)

これからのESDにとって重要な〈原則〉

 前号では、ESD for 2030の文脈で「原則」が重要視されていることを述べました。原則とは、ものごとを進めるに際して前提とされるべきルール、もしくはいざという時に立ち戻れる根本です。ポスト・コロナ時代の教育像がなかなか描けない中、ESDも持続可能な未来に向けて歩む際の羅針盤として原則を確認することは重要な作業であると言えるでしょう。
 「国連ESDの10年」の当初より、ESDは持続可能な未来に向けて既存の教育をシフトさせていく営みでしたが、どちらかいうと持続可能性というビジョンと参加型などの学習アプローチや批判的思考などの思考スキルが強調され、原則は検討されてきませんでした。そんな中、ここで紹介するアシュレイ小学校は一貫して持続可能性の原則のもとにブレない実践をしてきたESDの貴重な事例です。

「ハーモニー原則」が支える優良実践

 アシュレイ小学校は英国のサリー州にある中規模の公立小学校です。同校では公教育の体系にありながら、「サスティナビリティ革命」と呼ばれる刷新的なチャレンジが子ども主体で続けられてきました。ナショナル・カリキュラムに則りながらも、持続可能な未来につながる食やエネルギー等のプロジェクトを中心とした問題解決学習が展開され、生徒たちは好奇心旺盛に〈学びの旅〉を愉しんでいます。
 この実践は「6つのハーモニー原則」、つまり「多様性の原則」「循環の原則」「相互依存の原則」「適応の原則」「健康の原則」「ひとつらなりの原則」に支えられています。これらは森などの自然界に見出せる特徴です。自然を真の教師として捉えた末に見出された諸原則はナショナル・カリキュラムを根底から包み込むように学び全体の基盤を成しています。
 アシュレイ小学校では、持続可能性につながるこれらの原則と共に、人間界に調和をもたらす「公正」や「信頼」「ケア」等の価値観が全学年で体系的に織り成されています(図1参照)。

図1 出典:筆者作成

 こうした体系のもとで探究的な「問い」を中心に据えたプロジェクト学習が各学年で展開され、半期ごとに「グレートワーク」という発表会で子どもたちの学習成果が保護者や地域の人々と共有され、持続可能な未来の創り手はパブリックの場で「祝福」されるのです(図2参照)。実際に同校を訪問した時に筆者が目にした子どもたちの積極的な学びの姿勢や作品の質の高さや幸せそうな子どもたちの笑顔が忘れられません。ここでは紙幅の関係で伝えきれませんが、詳細は下記の参考図書をご覧ください。

図2 出典『ハーモニーの教育』

 冒頭で述べた「10年」で多くの課題も明らかになりました。ユネスコの専門委員会のメンバーとして各国のESDを評価する作業に15年近く従事してきましたが、そこで分かってきたESDの課題の一つは断片化や矮小化です。総合的な学習の時間で環境問題を扱っているからESDであるとか、グリーンカーテンを作ったからESDであるとか、問題解決学習に取り組んだからESDである、と各国で主張されてきました。
 しかし、1つのアクションやプロジェクトに挑戦すればよいというわけではなく、持続可能な未来につながる学びを学校全体の活動を通して定着させていくという使命をこれからの10年、ESDは帯びていると言えます。つまり、取って付けたようなESDではなく、それに取り組む人や組織全体にESDの価値観やビジョンが当然のものとして内在化し、全ての活動にそれらが反映されることを目指さなくてはなりません。「10年」の当初からの優先課題の一つであるホールスクールアプローチ(学校まるごとESD)が強調されるようになった背景には、こうした課題をどうにかしたいという想いがあります。ここで紹介したアシュレイ小学校は世界的に見てもホールスクールの代表的な事例であり、そこには「持続可能性の原則」が重要な役割を果たしているのです。

【参考文献】
リチャード・ダン著(永田佳之監修・監訳)『ハーモニーの教育―ポスト・コロナ時代における世界の新たな見方と学び方』(山川出版社)

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