学び!と共生社会

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医療的ケア児とインクルーシブ教育
2021.09.27
学び!と共生社会 <Vol.20>
医療的ケア児とインクルーシブ教育
大内 進(おおうち・すすむ)

 前号では、8月23日に公布された「学校教育法施行規則の一部を改正する省令」において、教育上特別の支援を必要とする児童の学習又は生活上必要な支援に従事する職員についての規定が明確にされたことを紹介しました(*1)。その中には、「医療的ケア看護職員」も含まれています。また、この9月18日から、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年法律第81号)」(*2)も施行されています。
 そこで、これまでの号でも触れてきたところではありますが、今回は、上記二つの法令に関連付けて「医療的ケア児」に焦点を充てて、詳しくご紹介させていただくことにしました。

背景

 少子化が進み、生まれてくる子どもの数が減っているにもかかわらず、医療の進歩により新生児集中治療室等での治療を必要とする子どもの数が増えてきています。それに伴って、急性期の治療後においても命と健康を保持するために「日常的な医療的ケアと医療機器が必要で、気管切開部の管理、人工呼吸器の管理、吸引、在宅酸素療法、胃ろう・腸ろう・胃管からの経管栄養、中心静脈栄養等を受けている」(*3)医療的ケア児と呼ばれる子どもたちも急速に増えてきているのです。

医療的ケア児の実態

 医療的ケア児の様態は多様です。いわゆる重症心身障害児については、これまでも特別支援教育の対象として、様々な支援がなされてきました。しかし、歩けたり会話できたりする医療的ケア児は最近まで想定されていませんでした。そうした子どもたちがいよいよ学齢期を迎え、適切な就学先が見つからない、あるいは、本人や保護者の意向に即した学校選択ができないなどの課題が各地で出てきました。残念なことに就学先に関しては訴訟も散発しています。また就学できても、人工呼吸器をつけている場合はたんの吸引を欠かすことができない、胃ろうの場合は食事に手助けが必要となるなどの専門的な支援が必要となり、そのために保護者が付き添いを求められなど家庭に大きな負担がかかるという課題も各地で顕在化してきました。医療的ケア児の実数は、2018年の調査では、0~4歳で7,023人、5歳~9歳で4,761人、10~14歳で4,090人、15~19歳で3,838人、計19,712人となっており、その値は年々増加しています(*3)。医療的ケアを必要とする児童へ対応としては、支援する職員の配置、医療器具等の環境の整備が大きな課題となってきました。

法令の整備

 そうした実態を背景に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年法律第81号)」(*2)が成立したのです。この新法では、医療的ケア児が在籍する学校や保育所などに看護師らを配置することが定められました。これを受けて、学校教育法施行規則の一部を改正する省令(*1)においても、「医療的ケア看護職員」の規定が明示されたということになります。
 学校における医療的ケア看護職員については、その省令に次のように記されています。

1.医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年法律第81号)において、学校に在籍する医療的ケア児が保護者の付添いがなくても適切な支援を受けられるようにするため、学校の設置者に対して、看護師等の配置等の措置を講ずることが求められているなど、学校現場への配置の必要性が高まっている医療的ケア看護職員について、医療的ケア児の療養上の世話又は診療の補助に従事する職員として、施行規則第65条の2に規定するものであり、その具体的な職務内容は、主に次のものが考えられること。
 ・医療的ケア児のアセスメント
 ・医師の指示の下、必要に応じた医療的ケアの実施
 ・医療的ケア児の健康管理
 ・認定特定行為業務従事者である教職員への指導・助言
2.医療的ケア看護職員は、保健師、助産師、看護師、准看護師(以下「看護師等」という。)をもって充てること。

今後の展望

 今後、国や自治体によって人材の配置や育成が進められていくことになりますが、先進的な取り組みをしている地域において人材が集まらないという悩みが示されています。勤務が不安定で待遇条件もよくないことなどが起因しているようで大きな課題だといえます。
 また、医療的ケアを必要とする児童にとって、長時間かけての通学は大きな負担です。学校選択も課題です。人口が多い地域で特別支援学校が近隣にあれば負担も少なくてすみますが、特別支援学校が遠方にしかない場合は大きな負担となってきます。米国小児科学会雑誌では、こうした子どもたちの支援の要素の一つとして「インクルーシブ教育:教育の機会」をあげています(*3)。立派な施設設備がなくても、本人や保護者にとって制約の少ない条件で学校生活が送れるように配慮していくことも対応策の一つだと思われます。すでに我が国でも、地域の小学校、中学校に通うケースも出てきています。教育委員会や小学校・中学校がどのように対応していったらよいか、こうしたケースに学びながらシミュレーションしておくことも大事なことではないか思われます。
 なお、医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律では、都道府県に医療的ケア児支援センターの設置を求めており、その対応も進められています。

*1:学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行について(通知)
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/mext_00034.html
*2:医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年法律第81号)
https://www.mhlw.go.jp/content/000801675.pdf
*3:中村知夫 医療的ケア児に対する小児在宅医療の現状と将来像 Organ Biology, 27(1), 21-30, 2020
https://www.jstage.jst.go.jp/article/organbio/27/1/27_21/_pdf/-char/ja