学び!とPBL

学び!とPBL

地域課題に挑む生徒たち①
2019.07.22
学び!とPBL <Vol.16>
地域課題に挑む生徒たち①
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.地方創生イノベーションスクール2030・東北クラスターのスタート

 2015年8月、地方創生イノベーションスクール2030・第1回東北クラスターが福島県・国立磐梯青少年交流の家で開催されました。
 本スクールは、これから2017年夏まで展開するプロジェクトのスタートに位置するもので、次のようなねらいを設定し、ワークショップはこれらに即して組み立てられました。

①東北クラスターのチームを作ろう。
・自分のチームはもちろん、他地域の生徒同士、先輩・後輩、先生や大人も含めてチームになろう。
②先輩から学ぼう。
・OECD東北スクールで実際に活動した先輩たちと交流し、プロジェクトを進めていくポイントを知ろう。
③プロジェクトの目的を知り、見通しを持とう。
・「地方創生」や「イノベーション」「2030年」の意味を知り、プロジェクト全体のゴールに向かって何をするか考えよう。
④2030年の未来を想像し、その頃の自分の姿を思い描こう。
・これから大きく変化する世界・地域社会の姿を推測し、その頃自分はどうなっていたいか、想像してみよう。
⑤他地域のイノベーションの事例を知ろう。
・地域の中でどのような活動をして、どのように変えたのか実例を知り、自分たちのプロジェクトを組み立てる参考にしよう。
⑥自分たちの地域創生プランのアイディアを練って、発表しよう。
・自分の地域をどう変えたいのかを明確にし、どのような戦略で地域創生プランを進めていくかしっかり話し合おう。そして周りの人を納得させるような発表をしよう。
⑦当面のアクションプランをつくろう。
・スクール全体をふり返り、自分たちの地方創生プランの強み・弱みを明らかにし、地域でどのように活動するか、考えよう。
⑧何ができて、何ができなかったかふり返ろう。
・最終日に、未来への手紙を書きます。これは今回のスクールのまとめともなります。

図1 チームビルディングの野外活動 参加者は、福島市内の二つの中学校から集まった中学1・2年生の福島市チーム、この4月に開校したばかりの、同じ福島県のふたば未来学園高校の1年生、和歌山市の日高高校からも3名の生徒と先生に参加していただきました。スクールをサポートするのは、いくつかの企業や福島大学の学生、そしてOECD東北スクールのOB・OGも多数参加していました。
 さらに、このスクールは、OECD日本イノベーションネットワーク(ISN)に加盟する先生方、研究者の研修会を兼ねていました。ですから、上の階で生徒たちがワークショップを行い、先生方が下の階で研究会を行い、時々先生方が上に上がってきて生徒たちの動きを見る、というある意味理想的なスクール・研修会となりました。

2.スクールに集まってきた生徒たち

 福島市チームが二つの学校から構成されているというのは、東北スクールの教訓からです。個別の学校にお願いすると、学校の中の様子が外から見えなくなり、協働的なプロジェクトを進める上で障害になるのでは、という考えからでした。二つの学校の生徒たちで合同チームを作ることによって、活動場所や日程調整など手間は何倍もかかりますが、また逆に二つの学校の違いがよく見え、その違いを克服する様子が目に見えるようになります。
図2 福島市は中学生のチーム しかしながら、スクールに参加してきた福島市チームの生徒たちの多くは中学1年生で、ほんの4ヶ月前まで小学生だった子どもたちです。中学校でスクールへの参加希望者を集め「オーディション」をして選抜された強い意志を持つメンバーということでしたが、高校生たちと一緒に議論したり、活動したりすることができるのか、非常に不安でした。
 スクールの初日は野外炊飯でスタートしました。混合チームで炊事を行うことでチームビルディングを行うことが目的でした。このような生活集団をつくることはPBLを進めていく上で極めて重要で、これも東北スクールから学んだことです。
図3 福島県の人口推計(国土交通省) このスクールの到達目標は「地域の活動を構想して計画を練る」ということです。二日目からワークショップが始まり、まずOECD東北スクールの先輩たちから直接話を聞きプロジェクトのイメージを広げて質問する活動、次に自分たちの地域の課題を発見する活動につなげていきます。人口動態や今後AIやロボットの進歩によってなくなる職業、大震災による被害状況など様々な資料を配付し、ジグソー法に似た形で学習を進めます。生徒たちの目の色が変わったのは、県ごとの人口予測地図でした。この資料は日本全国の各県の県土を1kmのメッシュに区切り、その中の人口が今後20年間でどのように変化するのかが記されており、生徒たちは自分が住んでいる地域の未来の姿を想像します。「これはたいへんだ!」という声も聞こえてきます。
 地図から予測されるような人口減少が起きたら、自分たちの地域はどうなっていくのか、生徒たちは想像をめぐらせます。生徒たちは2日間自分たちの活動を構想して、最終日に全体の前でプレゼンを行い、OECDから出席している田熊アナリスト、新聞社の編集者、大学の教員らからコメントをもらうことになっていました。

3.生徒たちの地域課題の受け止め方

 問題の受け止め方は地域によって大きく異なります。原発事故の被災地から来ているふたば未来学園高校の生徒たちは、震災前に比べて大きく人口が減少してしまい、いかに人々に町に戻ってきてもらうか深刻な問題です。いろいろなアイディアはないわけではないのですが、あまりにも大きな現実の重さに想像力も萎縮してしまいます。「企業誘致しかない」という考え方からなかなか離れられません。
図4 タブレットやスマホで資料を探す 福島市チームもまた原発事故の影響を受けており、自分が避難生活を送っていたり、友達が転校していってしまったりという経験をしています。「福島市の人たちに笑顔を取り戻す」というのが、チームの目的となりましたが、そのためにやることというと「あいさつ運動をする」「ゴミ拾いをする」など、実際に今やられていること以上の活動を考案することができません。
 唯一、福島と同じように急激な人口減少が進行する和歌山県の和歌山チームは「老人に優しい町づくり」に焦点を絞り、高校と老人施設、自治体や企業、大学とどうつなげていくかという議論が進みます。
 最終日、それぞれのチームが審査員を前にプレゼンを行いました。それぞれの地域への思いがよく現れているものでしたが、「世界では若者の発案で光合成をする人工のグリーンカーテンが開発されている。若者だから考えられる自由な発想がもっと必要」といったコメントが出されました。
図5 最終プレゼン 生徒たちの感想では「自分の地域をこんなに考えたことはなかった。とても大切なことをたくさんの人たちから学んだ」「自分の意見をこんなに話したことはなかった。このワークショップに参加して自分が変わったような気がする」「たった4日間しか過ぎていないのに、もう一年間も一緒に学んだような感じがする。これからも一緒に頑張っていきたい」といった発言がありました。和歌山チームの皆さんが別れを惜しみ、朝から涙を流していたという話を聞き、胸が熱くなりました。
 しかしながら、これが本当にプロジェクトに発展していくのか、不安を残した船出となりました。