学び!とPBL
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探究学習の課題設定について、千葉先生が前回、地域の独自性と他地域での汎用性についても書かれていました。ここからの3回は、2011年の震災・原発事故によって避難を経験した地域独自の探究学習とその課題設定について紹介したいと思います。
仮設の学校<三春校>
福島県双葉郡富岡町は、全町避難後、町から約60km離れた福島県三春町で幼稚園・小中学校機能を集約した仮設校舎を設置しました。「富岡小中学校・幼稚園<三春校>」と呼ばれたこの仮設校舎は、2011年9月に開校し2021年3月末に閉所するまで約10年間、「曙ブレーキ工業株式会社三春工場」の敷地と事務棟を借りて運営されてきました。工場敷地とその事務棟を利用した校舎は、一般的な学校校舎と大きく違うところがたくさんあります。例えば校舎の中に家庭科室や理科室などの特別教室がなかったり、教室から窓の外を見ると「安全第一・品質第一」と大きく掲げられた工場が間近に見えたり。一般的な学校に通ったことがある人ならば、三春校の校舎といわゆる “普通の学校” の違いが色々見えてきます。ですが、幼い頃に避難し、幼稚園や小学校低学年から三春校に通う児童や生徒にとっては、この三春校が “日常” です。そして年数が経過するにつれ、三春校に通う小中学生の中にも震災・原発事故の記憶がない子どもたちが増えていました。
「三春校アーカイブプロジェクト」
こうした中、「4年後に三春校が閉所となる」ことが町の方針として決定された2018年から、「ふるさと創造学」の取り組みとして、小学5年生による三春校の歴史を記録に残すための映像制作活動がスタートしました。2021年の閉校までの4年間、毎年、作品のテーマやインタビューを行う相手や質問内容を考え、マイクとカメラを持ちインタビュー撮影を行い、映像構成などを講師や担任の先生たちと一緒にすべて自分たちで考え進めます。時にはインタビューが思うようにいかず2度3度とやり直したり、幼稚園や中学校など全校生や先生方を巻き込んで三春校に対する思いを聞いたりと、試行錯誤を繰り返しながら1年かけて作品をつくります。
4年間で4作品。「ぼくらの三春校~伝えたい歴史、届けたい思い」(2018)、「つなげよう三春校の歴史、明日という未来へ」(2019)、「かけがえのない三春校への思い」(2020)、「ありがとう私たちの三春校、思い出を未来につなげよう」(2021)が完成しました(*1)。それぞれに三春校を映す視点は違っていますが、共通する根底にあるテーマは「自分たちが通う学校がなぜ “仮設校舎” と呼ばれているのか」「なぜ自分たちは三春校に通っているのか」、そして「もうすぐなくなる自分たちの大好きな学校での思い出を記録に残したい」ということ。毎年1年間かけて映像制作に取り組む中で、「自分たちは何のために映像作品をつくるのか、何を伝えたいのか」を考え悩む中で、何度もこのテーマに立ち返ります。そうすることで、自然とインタビューの質問内容も、撮影したいことも決まっていくものです。
そして映像制作を通して、5年生は仮設校舎を設置することになった経緯や富岡町の人たちの思いを知り、次第に自分の言葉で学校や友達、先生方への思いを伝えられるようになっていきました。
探究活動というと、何か問題や課題を解決することに目を向けることが多いですが、自分たちが今いる場所の歴史やそこができた理由を知ることも、大切な “探究” だと思います。震災・原発事故によって避難を経験した地域の、避難先仮設校舎だからこその探究学習活動です。
*1:Voice of Fukushima YOUTUBEチャンネル「富岡第一・第二小中学校三春校アーカイブ」
https://youtube.com/playlist?list=PLYfIO6rtOL6oF-hwM44dneoL5j_83xGfy&feature=shared
福島大学教育推進機構 特任助教
2009年より秋田放送でラジオ番組の中継リポーターを務め、2011年以降、地元福島で臨時災害放送局の運営に携わる。代表を務める一般社団法人ヴォイス・オブ・フクシマでは、福島県民の声のアーカイブ活動を展開。また、小中学生に向けたインタビュー取材を通じた地域理解教育に取り組み、福島県内外で教育活動にも参画している。