学び!と美術

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図画工作の授業(1)~教科書の使い方
2016.06.10
学び!と美術 <Vol.46>
図画工作の授業(1)~教科書の使い方
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 「図画工作の教科書は、作品が掲載されているだけで、よく分かりません」
 いえいえ、最近は、どの会社の教科書も、近年の教育課程改訂の流れを反映し、目標や学習方法などが見開き2ページの中に分かりやすく配置されているのです。資質や能力を発揮する子どもの写真も掲載されており、先生にとって「子どもをどのように見ればよいか」という点で参考にもなります。今回は、図画工作の教科書を読むコツを解説しましょう。

1.「どれどれ、来週は何だったっけ……」

 まず、教科書を開きましょう。目次やページ左上などで「造形遊び」「絵」「立体」「工作」「鑑賞」のどれに当たるかが確認できます。

2.「どんな題材なのかな……」

 左上に書いてあることを読みましょう。①題材名、②題材名の上の文章、③題材名の下の文章の三つを読めば授業の概要は分かります(※1)。例の場合、お話しをもとに、子ども一人一人の「すきなところ」から学習が始まることが分かります。

3.「この学習でどんな力が伸びるの?」

 ページの中で「意欲や態度」「発想や構想」「創造的な技能」「鑑賞」の4観点がおさえてあります。例の場合、まず子ども自身が「好きな場面を選ぶこと(発想)」、そこを「工夫して描く(構想や技能)」がポイントであることが分かります。「先生が選んだ場面を描かせる」「先生が何をどのように描くか決める」のではないようですね(※2)。

4.「さて、どうやって始めよう」

 題材にもよりますが、多くの場合、左上にスタートの場面が掲載されています。例の場合、まず、真っ白い画用紙を真っ黒に塗りつぶすことから始まるようです。そこから右下を見ていけば、おおむねのプロセスが分かります。工作のつくり方や仕組みを説明しているケース、用意すべき材料や用具が解説されているページなどもあります。

5.「作品例はどうやって取り扱うのかな」

 掲載されている作品例と同じ構図、同じ場面を描くのが学習ではありません。作品例は「こう描けばいい」というお手本ではなく、「その子が何を感じたか、何を考えたか」という結果です。例であれば、この子が「大根を抜く場面を選んだこと」「選んだ場面を表すために『何を』『どの位置に』『どのように』描くか工夫したこと」が分かります。おそらく、他の子は違う場面を選び、異なる工夫をしたと思います(※3)。

6.「活動中は何が大事なのかな」

 「活動中にどんな姿が現れるのが望ましいのか」「どんな様子に注目すればいいのか」などは案外先生方が迷うところです。これについては、教科書の子どもの写真やコメントがとても参考になります(※4)。
 例の場合、真っ黒にした画用紙を消しゴムで消した後に、お花のような色を加えています。でも、その上からまた消しゴムで消しています。自分の表したい形をはっきり浮き出させようとしているのでしょう。真っ黒になった手、集中する視線などから、発想したことを実現しようとして、自分なりに技能を発揮している様子が伝わってきます。

7.「終わったら、どうまとめればいいのかな」

 学習を終えた時に、どのような姿になればよいのか考えることは大事です。例の場合、形という視点で面白さや楽しさを感じられるようになる、言い換えれば「自分の身の回りの世界を新しい視点で見ることができるようになる」ということがゴールのようです。

 子ども用の教科書であっても教師の読み方によっては深いところまで読み解くことができます(※5)。国語や算数でも「教材研究は、まず教科書から」です(※6)。図画工作科でもしっかりと教科書を研究したいものですね(※7)。

 

※1:それぞれの意味は教師用指導書に説明してあります。
※2:「場面」といっても、カメラで切り取ったような一瞬ではありません。低学年では、異なる時間や空間が一枚にまとめられることがあります。
※3:ある児童画展の審査で、何枚めくっても大根の向き、人や家の位置など同じ構図の絵が出てきたことがあります。「教科書の作品のように描きなさい」と言ってしまったのでしょうか……。
※4:図画工作科の教科書で「子どもを見る目」を鍛えることができます。
※5:教科書に解説が記入してあるいわゆる「赤本」や、指導案例が載っている教科書の参考資料などを活用すれば、他のアプローチの例、時間配分の例などを確かめることもできます。
※6:国語では教師が詩や物語文を全文試写することもあります。図画工作でいえば、教科書のような作品を教師がつくってみることに該当します。
※7:「ごんぎつね」を読まないまま、国語の授業に入ることがあり得ないように、図画工作でも教科書を研究して授業に入ることが大事です。