学び!と人権

学び!と人権

女性差別と教育
2022.02.07
学び!と人権 <Vol.09>
女性差別と教育
森 実(もり・みのる)

 女性差別撤廃条約 第1条には、「この条約の適用上、『女子に対する差別』とは、性に基づく区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、女子(婚姻をしているかいないかを問わない。)が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう」と定められています。この定義それ自体にも、考えるべき重要な点が含まれています。たとえば、「効果又は目的を有するもの」と定めており、たとえ行為者が意図的に女性の権利行使を阻害しようとしていなくても、結果的にそうなるのであれば、それは女性差別であることになります。他にも論点とすべきことはさまざまに含まれます。
 今回からは、2回にわたって女性差別と教育について考えたいと思います。2回で女性差別と教育について考えるというのは、かなり無理があります。そこで、ここでは、世界経済フォーラムという団体が毎年発表しているジェンダーギャップ指数を手がかりにします。ジェンダーギャップ指数で日本は、2021年には156カ国中第120位 という結果となっています。つまり、日本の男女平等順位は156か国中第120番目だということです。この結果について、学生からは「自分の実感とは異なる」という声も少なからず出てくるのですが、民間企業で働いている人たちに聞くと、多くの場合、「そうだろう」と答えます。このようなズレはどこから出てくるのでしょう。また、このズレをどのようにとらえればよいのでしょう。

女性差別への国際的な取り組みの深化

 日本政府の法務省は17にわたる人権課題を挙げていますが、女性の人権はそのトップに上がっています。国際的にも、女性差別は重要な課題としてあげられており、女性差別撤廃条約や女性への暴力防止など、活動が展開されています。
 女性差別に関連する世界的な取り組みは、大きく次のような領域に分けられます。

<女性差別への取り組み領域>

1.政治的権利(選挙権、被選挙権、議員の女性率など)

2.経済的権利(労働権、就職差別禁止、男女賃金格差、非正規雇用や管理職における女性率など)

3.教育への権利(入学試験の差別禁止、教育内容における女性差別、男女就学率・進学率格差、識字活動など)

4.健康に関わる権利(感染症などの罹患率、スポーツへの参加状況、平均寿命男女格差など)

5.性的関係に関わる権利(性暴力、セクハラ、DV、デートDV、ポルノ、買春、痴漢など)

 また、取り組みは、次のように深まってきました。

<女性差別への取り組みの深まり>

第1段階:政治的権利などフォーマル(公的)な面での権利
第2段階:労働や教育など経済・社会面での権利
第3段階:家庭・恋愛・性暴力などインフォーマル(親密)な面での権利

 ですから、上の領域1-5は、第1段階から第3段階へというおおよそ取り組みの深まりにも対応しています。
 アメリカやイギリスなどで女性参政権が認められたのは20世紀に入ってからです。これが第1段階の典型といえるでしょう。さらに、1975年の「国際女性年」(国際婦人年)をきっかけに、国際的に「男女の性別役割分業」の考え方やそれに根ざした社会制度こそが女性差別の土台であることが広く認識されるようになりました。「男女の性別役割分業」とは、「男は外で働き、女は家庭で家事育児」という考え方や、それに対応する社会制度のあり方、また「男らしさ」や「女らしさ」の刷り込みや強制などという問題です。これが第2段階の特徴かもしれません。1990年代になると、女性への暴力、とりわけ性暴力が広く注目されるようになってきました。1993年12月20日には、国連総会で「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」が採択されています。こうした動きは、第3段階を象徴するものだと言えます。
 第3段階ではまた、「男女」だけではなくさまざまな性 のありかたが大きく取り上げられるようになりました。民族的マイノリティや第三世界の女性たちの権利 を重視するようになった点にも特徴があります。いわゆる差別の交差性 (intersectionality)という問題です。加えて、「男性の特権性 」や「男性性(男らしさ) 」という問題提起も重要な位置を占めます。これら第3段階でクローズアップされるようになった事柄は、第2段階から問題提起されていたものです。
 同時に、それぞれの領域や取り組みの深まりのなかでは、「機会の平等」(形式的平等)から「結果の平等」(実質的平等)へと進んでいます。賃金格差や教育格差は以前から問題とされてきた事柄であり、今なお解決していません。取り組みが深まるなかで、女性差別をなくすためのポジティブアクション (積極的施策)が登場しました。たとえば、国会議員の選挙におけるクオータ制 (割当制)、大学への入学における特別措置、移動・交通手段における女性専用車両などなどです。
 なお、映画のなかには、こうした女性解放に向けた取り組みを反映した作品がさまざまに あります。また、お隣の韓国では、若い作家によるフェミニズム文学 が盛り上がっています。

日本における課題

 さきの世界経済フォーラムは、ジェンダーギャップ指数を算出する枠組みとして、4つの領域を提示しています。それぞれの領域について男女平等なら1、まったく平等でなければ0となります。平等であればあるほど1に近くなるということです。領域とそれぞれの具体的指標は、次の通りです。ここには、さきに5番目の領域としてあげた「性的関係」に関わる項目がありません。

(1)経済活動への参画と機会(給与、雇用数、管理職や専門職での雇用における男女格差)

(2)教育(初等教育や高等・専門教育への就学における男女格差)

(3)健康と生存(出生時の性別比、平均寿命の男女差)

(4)政治的権限(議会や閣僚など意思決定機関への参画、過去50年間の国家元首の在任年数における男女差)

(内閣府男女共同参画局資料より)

 日本では、この4領域のなかで、「健康と生存」「教育」の2領域には大きな格差はありません 。しかし、「経済活動への参画と機会」「政治的権限」という領域では、男女に大きな格差 があり、ギャップ解消が進んでいません。
 より具体的にみれば、「経済活動への参画と機会」では男女の賃金格差と管理職の女性率が問題です。賃金格差では、とくに女性に非正規労働が多く、ここに格差の大きな原因があります。加えて、正社員同士で比べても男女に賃金格差があります。2020年から2021年の間に世界的には賃金格差が0.613→0.628と改善しているのに、日本では0.672(67位)→0.651(83位)と開きました。
 もうひとつの「政治的権限」については、日本では女性の元首(首相)がまだ出てきていません。また、国会議員に占める女性の比率も低いままです。国会議員の女性比率が世界平均指数では0.298→0.312とアップしているのに、日本は0.112→0.110、順位は135位→140位と下がっています。「政治的権限」全体では147位で、世界のワースト10になっています。
 このように全体状況を見ると、学生の間で「第120位は意外」という人がやや多い理由の一端もわかります。ひとつは、教育という領域が日本では比較的平等化が進んでいるからでしょう。小中高校に通う人たちにとっては、男女の不平等を感じにくい面があるのです。それに対して、働いている人たちの間では、職場の男女不平等が深刻で、実感をともなって理解しやすいという状況だといえるでしょう。このことは、女性差別に関わる教育のあり方にも示唆するところがあります。
 しかし、それとは異なる問題もあります。それは、高校までの学校で、多くの子どもたちは社会にある女性差別について十分学ぶ機会をもてていないのではないかということです。比較的平等だといわれる学校教育それ自体にも、管理職の男女比教育内容や教員の在り方制服 など、重要な面での差別や不平等があります。それぞれの学校の教職員の間で、自分たちの学校における女性差別がどのように議論されてきたでしょうか。
 念のため述べれば、世界経済フォーラムという団体は、女性差別をなくすために生まれた団体ではありません。構成メンバーは、主として世界の財界人や経営団体などです。つまり、日本という国は、世界の財界人から「女性差別国」と言われ続けていることになります。

DVや性暴力をめぐる課題

 近年の動きで重要なのは、DV性暴力 をめぐる課題です。
 DVはドメスティックバイオレンス (domestic violence)の略称です。ドメスティックとは、ここでは家庭内のという意味合いです。ただ、夫婦間のという意味合いだけではなく、交際しているパートナーの間での問題も含みます。バイオレンス(violence)とは暴力です。DVにおける暴力とは、①身体的暴力だけではなく、②精神的・心理的暴力、③性的暴力、④経済的暴力、⑤社会的暴力、⑥子どもを使った暴力などを含みます。それぞれの具体例は次の通りです。

身体的暴力………………殴る、蹴るなど

精神的・心理的暴力………怒鳴る、威嚇する、無視するなど

セックスを強要する、避妊しない、ポルノを見せるなど

生活費を渡さない、外で働かせないなど

人間関係や外出などを制約するなど

子どもに危害を加えると脅すなど

 一方、性暴力について、日本政府の男女共同参画局のウェブサイト によれば「いつ、どこで、だれと、どのような性的な関係を持つかは、あなたが決めることができます。望まない性的な行為は、性的な暴力にあたります」とされています。「本人が望まなかった性的なできごとは、すべて性暴力である 」という観点から性暴力についてとらえ直し、「なにげない性的な冗談」が「強かん」にもつながるのだという認識に立つことが必要だといえます。
 以上は、現代の女性差別の一端を述べたに止まります。日本でも女性差別をなくすための取り組みが積み重ねられてきました。これまでの取り組みをふまえ、このような問題があるいまの世の中で、わたしたちはどのように女性差別について学び、考えれば良いのでしょうか。わたし自身も、これまでの経験のなかでさまざまな面から女性差別について考えてきました。「問題の解決に取り組まない人は、問題の一部になる」という言葉があります。私たち一人ひとりが、自分に関わる問題として女性差別にも取り組むことが求められます。それにより、すべての人がより自由になれるはずです。

【参考・引用文献】
・外務省ウェブサイト「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」
・HUFFPOST「ジェンダーギャップ指数2021、日本は120位 G7最下は変わらず低迷」(2021.3.31)
・明石市ホームページ「LGBTQ+/SOGIEの基礎知識」(2021.11.19)
・思想館ウェブサイト「ベル・フックス『フェミニズムはみんなのもの』が訴えること」
・ヒューライツ大阪ウェブサイト 徐 阿貴氏(福岡女子大学)「人権の潮流 Intersectionality(交差性)の概念をひもとく」(2018.1)
・東京人企連ウェブサイト 出口 真紀子氏(上智大学)「マジョリティ特権を可視化する~差別を自分ごととしてとらえるために~」(2020.7)
・IDEAS FOR GOOD「『男らしさ』って何? そこから来た? 【みんなに関わる『男性性』のはなし。イベントレポート】」(2020.10.13)
・内閣府男女共同参画局ウェブサイト
・ciatr「映画で“女性”の歴史を辿る。フェミニズムを描いたおすすめ映画9選【国際ガールズデー】」(2020.10.12)
・ELLEホームページ「フェミニズム吹き荒れる! 今読むべき韓国のおすすめ女性作家12」
・日経womanウェブサイト「ジェンダーギャップ徹底解説 江田麻季子氏(世界経済フォーラム日本代表)『意図的に埋めないと日本はいつまでもギャップが』(2021.4.1)
・NHKウェブサイト「公立学校の女性管理職の割合 初の2割超も都道府県別で大きな差」(2021.12.29)
・木村 育恵氏(北海道教育大学)「教員をめぐるジェンダー研究の動向と 『ジェンダーと教育』研究の課題」(2018)
・馬場 まみ氏(京都華頂大学)「ジェンダーの視点からみた学校制服の課題 -女性差別撤廃条約の理念を軸として-」(2018)
・LEGAL MALLウェブサイト 萩原 逹也氏(弁護士)「DVの種類は6つ~知っておくべき身体的暴力以外のDVがある」(2021.8.27)
・SYNODOSホームページ 伊藤良子氏・関めぐみ氏「本人が望まなかった性的なできごとは、すべて性暴力である」(2016.10.27)