中学校 美術

中学校 美術

「私」プロジェクト -私も知らない○○な私を表す-(第3学年)
2014.04.21
中学校 美術 <No.010>
「私」プロジェクト -私も知らない○○な私を表す-(第3学年)
上越教育大学附属中学校教諭 寺田寛

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。

1.基礎データ

題材・単元名

「私」プロジェクト -私も知らない○○な私を表す-

時間数

10時間

題材・単元の
特徴

さまざまな視点から自分自身を見つめることができるよう,興味・関心があるもの,ことなどを言葉で表す活動,それらのイメージを具体化してジオラマに表す活動,自画像に表す活動を一連のプロジェクト活動として構成する。

授業環境

活動環境

美術室

人数

教師1名 生徒41名

教材や用具

コンピュータ,ディスプレイ(50型),その他,
制作に必要な用具

コンピュータ
動作環境

使用デジタル教材

提示型デジタル教材『みる美術』
西洋美術 フランス国立美術館連合 編,
その他,自作画像

OSバージョン

Microsoft Windows 7 Professional

使用周辺機器

(事前準備)デジタルカメラ,スキャナー

2.活用事例及び展開

①ねらい
 身の回りの人,もの,こととの関わりから自分自身を見つめ直し,発想,構想した自分のイメージを表現したり,主題を感じ取ったりする。

②『みる美術』利用の意図
 自分のイメージを自画像に表現するには,ただ自分自身の姿を描くだけでなく,顔や体の向き,ポーズ,色彩,線の表情,陰影のつけ方など,さまざまな造形的な要素を組み合わせる必要がある。また,自分自身の姿だけでなく,背景や余白の色みやそこに描くモチーフも大きく影響する。そこで,『みる美術』の作品登録機能,比較機能,拡大機能を活用し,作品から得られるイメージの違いや変化,それらに影響を与えている造形的な要素について意見交換を行い,作品画像の比較から表現活動に必要となる造形的な要素を確認するとともに,構想の視点をもたせることができるようにした。具体的には,『みる美術』収録作品画像,教師が準備して『みる美術』に取り込んだ作品画像を提示した。また,色彩やポーズ,背景を加工した作品画像を用いて比較の対象とし,色彩やポーズ,背景によるイメージの違いに生徒が注目できるようにした。

③評価について
[意]
鑑賞作品から得られるイメージやそれを生み出す造形的な要素に関心を持ち,自分を表す活動へのイメージを思い描いている。<活動の様子,スケッチブック>

[発]スケッチやスクラップなどを通して,表現活動に必要な情報を収集し,発想を膨らませながら活動に取り組み,さらに必要な情報を収集している。<スケッチブック,作品>

[技]活動を通して得た情報を多面的・多角的に捉え,主題を明確にしたり,表現意図を明確にして構想を練り直したりし,造形的な要素とそれらが持つ特徴や感情を生かしてイメージを表現している。<活動の様子,スケッチブック,作品>

[鑑]造形的な要素を手掛がりに作品の主題や作者が表したいイメージを捉えて,よさや美しさ,面白さを味わっている。<活動の様子,スケッチブック,作品>

④指導計画

学習活動の流れ

指導上の留意点,評価方法

※各時間の始めに,鏡を見て自分の顔をスケッチし,スケッチブックに描きためる。

○各時間の開始5分間にスケッチする活動を位置付ける。

1

○参考作品を鑑賞し,作者が表したかった自分自身のイメージがどのようなものであったか,話し合う。
○主題について考えていくことを知る。

○『みる美術』を使用してさまざまな自画像作品を提示し,以下の内容について感想を交流させる。
・作品の主題 ・作者のイメージ
・作者の表現意図 など
○自画像が描かれるに至った経緯や自画像を描く価値について考えさせ,主題設定につなげる。
<活動の様子,スケッチブックへの記述>

私らしい「○○な私」を見つける

4

○気に入った写真や雑誌の切り抜きなどをスクラップし,自分のイメージを言葉やスケッチに表す。
○自分の形を紙に写し取り,その中に自分が好きなものや関心があるもの,将来の夢などを(できるだけたくさん)書き込む。

○切り抜いた型を壁面に貼り出して,感想を交換する。
○箱の中に,自分を取り巻く世界を構成してボックスアートに表す。
○ボックスアートを鑑賞し,気付いたことを話し合う。

○イメージを膨らませる表現活動と,相互に鑑賞する活動を繰り返し設定する。
○活動を通して得られたイメージをイメージマップやスケッチでスケッチブックに記録させる。
○相互鑑賞の際,スケッチブックにまとめる際には,「どこ(何)が」「どのように」を明確にさせる。
<活動の様子,スケッチブックへの記述,作品>

1

○作品やスケッチ,制作の記録から主題「○○な私」を設定し,スケッチブックに自画像の構想をスケッチやメモで表す。
○表現方法や仕上がりのイメージなどについて,更に構想を練る。

○作品のイメージと造形的な要素の関連について注目させるために,「みる美術」で作品を提示し,比較しながら制作の視点を整理する。
○視点を基に,複数のスケッチをするよう指示し,その中からイメージに近いものを選んで構想を練らせるようにする。
<活動の様子,スケッチブックへの記述>

4

○各自の構想に沿って,自画像を制作する。
○展示した作品(型,ボックスアート,自画像)を鑑賞し,感想を話し合う。
○活動を振り返り,スケッチブックに制作のまとめを記述する。

○個々に応じて,材料の特性を生かした制作方法などを紹介するとともに,造形的な要素やその特徴を視点として助言をする。
○相互に鑑賞する活動を位置付ける。
※制作のまとめには,以下の内容をまとめさせる。
・どのようにして「○○な私」を表現したか
・自画像制作を通じて考えたことは何か
<活動の様子,スケッチブックへの記述,作品>

3.本時の展開(6時間目)

①目 標
[発]
活動を通して得た情報を多面的・多角的に捉え,主題を明確にしたり,表現意図を明確にして造形的な要素を視点に構想を練り直したりしている。<活動の様子,スケッチブック>

②『みる美術』を活用した授業の展開

主な学習活動・内容

教師の指導(○)・評価(※)


○これまでの活動を振り返りながら,自画像を制作するために必要なことについて考える。

○これまでの活動を振り返らせた後,自画像の構想を膨らませるための視点を確認する。
○『みる美術』で参考作品を示し,構図や色などによるイメージの違いについて考えさせる。

・顔の表情 ・ポーズ ・背景 ・色
・構図 など

※作品から得られるイメージの違いや変化,それらに影響を与えている造形的な要素を捉えている。


○「○○な私」という主題に設定し,表したいイメージをスケッチに表す。
○自分が表現したい主題とそのイメージをグループの仲間に紹介し,仲間からの意見を得る。
○仲間からの意見を参考にして,スケッチを見直し,更に構想を膨らませる。

○表情やポーズだけでは表しきれないイメージは,背景にコラージュなどの技法を用いて表現してもよいことを紹介し,その構想をスケッチにメモなどで書き加えさせる。
○表したい感じを伝え合う意見交換の場を設定する。その際,以下の視点を示し,スケッチに見られることを根拠として意見を述べさせる。

【紹介する人】
・主題「○○な私」とそのイメージ
【意見を言う人】
・主題がよく表れている部分…強調する
・主題の表現に不要な部分…省略,単純化する
・主題からイメージする色,形,質感など

※活動を通して得た情報を多面的・多角的に捉え,主題を明確にしている。



○表現方法や仕上がりのイメージなど,スケッチブックに構想をまとめる。
○スケッチブックに活動の振返りを記入する。

※表現意図を明確にして造形的な要素を視点に構想を練り直している。

③指導のポイント
<視点の確認><具体的なイメージの喚起>

 自画像の制作に先立ち,これまでの活動を振り返り,制作のポイントについて話し合う時間を設けた。生徒は,これまでのスケッチから,目や口の形,陰影のつけ方,コントラストによって受ける印象が変化することを感じており,自画像制作のポイントに挙げた。これらの視点について,具体的なイメージを喚起し,表現意図を明確にすることができるよう,『みる美術』の比較機能を用いて,造形的な要素が与えるイメージの違いや変化について考えさせた。比較には,シーレの「黒の壺のある自画像」と,これを教師が加工した画像を用いた。提示した画像は,原画よりも黄みを強くしたもの,背景をなくしたもの,作品中の手をなくしてポーズを変えたものなどである。作品を見比べる中で,生徒は,造形的な要素が与える影響について理解を深め,制作のポイントを整理した。



④感想等
 『みる美術』を活用したことにより,作品を構成する造形的な要素についての理解が深まった。生徒は,色や形などの造形的な要素を共通の言語として互いの作品について感想を交流していった。また,他者の意見を参考に,表現対象としての自分自身を捉え直したり,主題や表現意図を明確にしたりしながら活動に取り組んでいった。ブックマーク機能を用いて提示したい画像を登録しておけること,自作の画像などを追加登録して使用できること,多数の作品を次々と提示したり,並べて提示したりできることは,題材全体を通して,さまざまな場面で活用することができた。しかし,造形的な要素について意識が強まりすぎたために,作品の一部分に注目してしまい,全体のイメージを捉えたり,新たな発想に結びつけたりすることができずにいる生徒も少なからず見られた。造形的な要素とそれらが持つ特徴や感情についての理解は,表現の活動,鑑賞の活動どちらにも欠かせないものであるが,それらだけでは説明しきれないよさや美しさ,面白さも美術の魅力である。今後の実践においては美術の醍醐味を味わいながら,その核心に迫るような手立てを工夫するとともに,よりダイナミックな表現活動を展開できるように改善を図る。