学び!とシネマ

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子どもが教えてくれたこと
2018.07.12
学び!とシネマ <Vol.148>
子どもが教えてくれたこと
二井 康雄(ふたい・やすお)

© Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

 難病を抱えている、幼い子どもたち。病気と闘いながら、必死に生きている。ドキュメンタリー映画「子どもが教えてくれたこと」(ドマ配給)には、撮影当時、5歳から9歳までの子どもたち5人が登場する。みんな、厄介な病気と向き合っている。
 いちばんの年長は、アンブルという、きれいな金髪をした9歳の女の子。動脈性肺高血圧のため、肺動脈を広げるためのクスリを注入するポンプを、いつも背中のリュックに入れている。
 8歳になるテュデュアルという男の子は、神経芽腫という神経細胞にできるガンで、3歳のときに受けた手術のせいで、目の色が、右と左で異なっている。
 おなじ8歳の男の子のシャルルは、表皮水疱症で、皮膚に水疱ができたり、剥がれたりする。
 7歳の男の子のイマドは、アルジェリアからフランスに、腎不全の治療のために移住してきた。
 いちばん小さいのは、5歳になる男の子、カミーユで、骨髄にできた神経芽腫と闘かっている。
 映画は、5人の子どもたちの治療風景や、病院での暮らしぶりなど、どのように病気と闘っているかを、丹念に掬いとっていく。いずれも難病であるにも関わらず、子どもたちは、元気である。

© Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

 芝居の大好きなアンブルは言う。「悩みごとは脇に置いていくか、付き合っていくしかない」、「運動はあまりしてはいけないが、なんとかやっている。だって、人生を楽しんでいるから」と。
 カミーユは、サッカーが大好きで、パパとの練習に励んでいる。自分の病気のことをよく知っていて、「赤ちゃんだったときに、ママが全部、説明してくれた」と言う。
 「学校に行きたい、ただそれだけ」と言うテュデュアル。目の色が異なっている理由も、ちゃんと説明できる。
 腎不全で腹膜透析の必要なイマドは、「結婚はしない、今はまだ小さいから」などと、おとなびた物言いをするが、表情は7歳の男の子そのもの。
 週末しか家に帰れないシャルルは、「ぼくの皮膚は、チョウの羽みたいに弱い」と言う。自分の病気に、正面から向きあっている。ふだんは、同じ病気仲間のジェゾンという男の子と、病院じゅうを駆け回っている。
 子どもたちの、変化に満ちた表情や、眼差し、仕草が、とてもよく捉えられている。難病だと分かるシーンも、いくつか。ママに、消防自動車の話をしていたイマドは、透析の時間になると、ママに抱きつく。皮膚の脆いシャルルの表情は、時折、呆然としたようになる。テュデュアルはモルヒネのせいで、絵を描いていても集中できず、苛立つ。

© Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

 子どもたちのセリフの、ことごとくが、自然で、とてもいい。難病なんのその。病気と闘うたくましさに、おもわず声援を送りたくなる。
 子どもたちの周囲にいるおとなたち、ことに医者や看護士の対応が、親身である。難病の子どものいる友人によると、病状の詳しい説明や、治療方法の詳細を教えてくれないらしい。まして、患者本人の子どもが理解できるように、分かりやすく説明などは皆無らしい。フランスとの落差は、はなはだ大きい。
 監督は、アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアンという女性ジャーナリストで、ふたりの女の子を、異染性白質ジストロフィーで亡くしている。
 映画のラスト近くで流れるのは、ルノーの唄う「ミストラル・ガニャン」で、すばらしい歌詞、曲である。砂糖菓子を引き合いに出して、父親が、娘とともに人生を語るといった歌詞が付いている。直訳すると、「勝利の北風」、「当たりの北風」。これでは、なんのことか分からないが、ルノーが子どものころにあった、当たりくじ券の付いた砂糖菓子の名前が「ミストラル・ガニャン」だそうだ。
 子どもたちは、難病を抱え、ありのままの日常を受け入れながら、瞬間瞬間を懸命に生きている。常に、人生の行方を決めるのは、自分自身である。かつて子どもであったおとなこそ、じっくり見るに価するドキュメンタリーだろう。

2018年7月14日(土)より、シネスイッチ銀座ico_linkほか全国順次公開

『子どもが教えてくれたこと』公式Webサイトico_link

監督・脚本:アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン
出演:アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアル
2016年/フランス/フランス語/カラー/80分/ヴィスタサイズ/DCP
日本語字幕:横井和子/字幕監修:内藤俊夫
原題:「Et Les Mistrals Gagnants」
後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
配給:ドマ
厚生労働省社会保障審議会特別推薦児童福祉文化財
文部科学省特別選定(青年、成人、家庭向き)
文部科学省選定(少年向き)
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