学び!とシネマ

学び!とシネマ

ブリングリング
2013.12.13
学び!とシネマ <Vol.91>
ブリングリング
二井 康雄(ふたい・やすお)
cinema_vol91_01

(C)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved

 2008年から2009年にかけて、ロサンゼルス郊外のセレブたちの住む家に侵入、ブランド品や宝石、現金などを盗む事件が、実際にあった。盗みに入ったのは、まだ十代の若い子たち。被害にあったのは、パリス・ヒルトン、リンジー・ローハン、オーランド・ブルームといった、ハリウッドの映画スターや有名なモデルである。この事件を取材した女性ジャーナリストのナンシー・ジョー・セールズが、雑誌「ヴァニティ・フェア」に、「容疑者たちはルブタンを履いていた」という記事を書き、「ブリングリング こうして僕たちはハリウッドセレブから300万ドル盗んだ」(ハヤカワ文庫・高橋璃子訳)という本を書く。この記事や本から材を得て、ソフィア・コッポラが脚本を書き、映画にする。このほど公開される「ブリングリング」(アークエンタテインメント、東北新社配給)だ。
 事件そのものの描写もさることながら、若い人たちの生態を巧みに活写し、話の展開がスピーディ、たいへんに面白い。背景となるアメリカ西海岸、ロサンゼルスの、若い人たちをとりまく環境、状況が、くっきりと浮かびあがってくる。監督のソフィア・コッポラは、「ゴッドファーザー」の3作や、「地獄の黙示録」を監督したフランシス・フォード・コッポラの娘で、やはりセレブの一人である。初監督作は「ヴァージン・スーサイズ」で、良家の5人姉妹の自殺事件をめぐる話。また「マリー・アントワネット」は、当時の最高のセレブであったマリー・アントワネットをめぐるドラマ。さらに、2004年、アカデミー賞の脚本賞を受賞した「ロスト・イン・トランスレーション」では、著名なハリウッドスターの悩み、苦しみに焦点を当てた。さらに、2010年の「サムウェア」では、ハリウッド俳優が豪華ホテルで暮らすという、スターの孤独と虚無を描いた。このような映画を撮り続けているソフィア・コッポラだから、憧れのセレブたちの家に侵入した若者たちを描くのも当然のように思えてくる。

cinema_vol91_02

(C)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved

 侵入したのは、ニッキー(エマ・ワトソン)、レベッカ(ケイティ・チャン)、クロエ(クレア・ジュリアン)、サム(タイッサ・ファーミガ)という4人の女の子。男の子はマーク(イズラエル・ブルサール)である。いずれも、悪事を働いているという自覚はない。家庭は裕福ではないけれど、そう貧乏ではない。学校に行かず、家で教育を受けているニッキーは、妹といっしょに母から、ロンダ・バーンの書いた「ザ・シークレット」に出てくる“引き寄せの法則”を学んでいる。マークは、学校を退学し、自宅学習を続けていて、やっと新しい学校に通い始めたばかり。レベッカがマークに声をかけ、ファッションやブランド品について、おしゃべりを続ける。
 ある夜、レベッカは、留めてある車のドアを開け、盗みを働く。セレブたちの車は、かなりの確率でドアが開いていて、現金などが置かれているらしい。

cinema_vol91_03

(C)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved

 ナイトクラブで知り合い、仲良しになった仲間が5人になる。マークとレベッカは、インターネットで、パリス・ヒルトンの留守を知る。自宅の場所もインターネットで分かる。一度、侵入に成功した後、5人が揃って、パリス・ヒルトンの留守宅に侵入する。洋服、靴、宝石などなど、ブランド品がズラリ。味をしめた5人は、ミーガン・フォックスや、オーランド・ブルームなどの予定を調べ、その留守宅に侵入する。リンジー・ローハン宅に侵入した際の、監視カメラの映像が、警察に届けられる。捜査の手が伸び始める。
 凶悪な犯罪ではないし、悪気はないとは思う。しかし、罪は罪、当然、裁判になる。ところが、若い容疑者たちは、罪の意識が希薄。ニッキーは、事件後、「今回の件は、学びの場と思う。人間として成長し、将来は国のリーダーになりたい」と嘯いたりする。
 まだ数年前の話である。ロサンゼルス郊外の状況ではあるが、若い子たちを取り巻く家庭環境や、教育の在りようがよく分かる。テレビやインターネットの情報が錯綜し、いろんなメディアに、セレブが露出し続けている。セレブ自身がパパラッチを煽り、自らをさらに売り込むこともあるようだ。若い子たちは、おバカな金持ちの有名人から、何を盗んだって大したことではない、と考える。盗まれたセレブたちは、大量の盗難に合わなければ気がつかないらしい。
 映画を見て、さまざま思いがよぎる。若い子たちに、罪はないのかもしれない。セレブ宅への侵入盗難事件の主犯は、若い子たちではなく、彼らを取り巻く周辺の環境や、大人たちの作った社会ではないか、と。

2013年12月14日(土)より、シネクイントico_link新宿シネマカリテico_linkシネ・リーブル池袋ico_link丸の内TOEIico_linkほか全国ロードショー!

■『ブリングリング』

監督・脚本:ソフィア・コッポラ
衣装:ステイシー・バタット
音楽スーパーバイザー:ブライアン・レイツェル
編集:サラ・フラック
プロダクション・デザイン:アン・ロス
撮影監督:ハリス・サヴィデス、クリストファー・ブローヴェルト
出演:エマ・ワトソン、ケイティ・チャン、クレア・ジュリアン、イズラエル・ブルサール、タイッサ・ファーミガ、レスリー・マン
製作年:2013年/上映時間:90分/製作国:アメリカ、フランス、イギリス、日本、ドイツ合作
R15+ 原題:The Bling Ring
配給:アークエンタテインメント、東北新社