ROOT(算数・中学校 数学)

ROOT(算数・中学校 数学)

算数・数学科授業における数学的な言語活動
2013.12.13
ROOT(算数・中学校 数学) <No.12>
算数・数学科授業における数学的な言語活動
算数・数学教育における言語活動の充実
小山 正孝(広島大学大学院 教授)

1.何のための言語活動の充実か

 平成20年(2008年)改訂告示の小学校・中学校学習指導要領では,すべての教科教育を含む学校教育において,言語活動の充実が求められています。何のための言語活動の充実でしょうか。それには次のような2つのねらいがあると言われています(中央教育審議会,2008)。
 第一のねらいは,我が国の子どもたちにとって課題となっている知識・技能の活用などの思考力・判断力・表現力等をはぐくむためです。第二のねらいは,自分に自信がもてず,自らの将来や人間関係に不安を抱えている子どもたちに,他者,社会,自然・環境とのかかわりの中で,これらと共に生きる自分への自信をもたせるためです。
 第一は「知的基盤としての言語活動」,第二は「コミュニケーションや感性・情緒の基盤としての言語活動」と特徴づけられます。

(1)知的基盤としての言語活動
 第一の「知的基盤としての言語活動」の充実は,知識・技能の活用など思考力・判断力・表現力等をはぐくむためであり,各教科における教育内容の改善を図る際にこのことに留意する必要があるとの方針が示されたのです。中央教育審議会(2008)の「答申」では,各教科における思考力・判断力・表現力等の育成にとって不可欠な学習活動として次の6つのことが例示されました。

①体験から感じ取ったことを表現する
②事実を正確に理解し伝達する
③概念・法則・意図などを解釈し,説明したり活用したりする
④情報を分析・評価し,論述する
⑤課題について,構想を立て実践し,評価・改善する
⑥互いの考えを伝え合い,自らの考えや集団の考えを発展させる

 これら6つの学習活動の基盤となるのは,数式などを含む広い意味での言語です。したがって,知的基盤としての言語活動は,国語科だけの教育内容ではなく,すべての教科で取り組まれるべきものです。こうした認識のもとで,中央教育審議会(2008)の「答申」では,「学習指導要領上,各教科の教育内容として,これらの記録,要約,論述といった学習活動に取り組む必要があることを明示すべきと考える」というように,各教科における教育内容の改善への提言がなされました。

(2)コミュニケーションや感性・情緒の基盤としての言語活動
 第二の「コミュニケーションや感性・情緒の基盤としての言語活動」の充実は,「自分や他者の感情や思いを表現したり,受け止めたりする語彙や表現力が乏しいことが,他者とのコミュニケーションがとれなかったり,他者との関係において容易にキレてしまう一因になっており,これらについての指導の充実が必要である」(中央教育審議会,2008)との認識によるものです。平成20年(2008年)改訂告示の小学校・中学校学習指導要領では,各教科や道徳,総合的な学習の時間,特別活動等において,こうしたコミュニケーションや感性・情緒の基盤としての言語活動に配慮すべきことが明記されています。

(3)言語活動の充実のための教育課程の編成と言語環境の整備
 こうした2つの大きなねらいをもった言語活動の充実を図る上で,それに相応しい教育課程を編成することは不可欠です。
 そのためには,まず,教師は言語活動の重要性を認識し,各教科の目標や特質及び児童生徒の発達段階に応じて,知的基盤としての言語活動を各教科の指導計画に教育内容として位置づけ,その指導に当たってはコミュニケーションや感性・情緒の基盤としての言語活動に配慮する必要があります。そして,教科間の連携や道徳,総合的な学習の時間,特別活動等の学校教育全般にわたって,すべての教師が協力し,言語活動の充実を図ることが重要です。
 そのためにも,中央教育審議会(2008)の「答申」において言及されているように,学校内における言語活動を充実するための条件や言語環境を整備する必要があります。たとえば,学習活動において語彙を豊かにすること,言語に関する能力を高めていくための教材開発や指導方法の工夫,読書活動の推進,学校図書館の活用,メディア環境の整備及び情報モラルやメディアリテラシー(様々なメディアの働きを理解し,適切に利用する能力)の育成など,言語活動を充実するための言語環境の整備に,学校が中心となって家庭や地域と連携して取り組むことが求められます(小山,2008)。
 このように,言語活動の充実は,学校教育全般ですべての教師が協力してはじめて可能になるということを共有することが大切です。

2.算数・数学的活動と言語活動

 それでは,算数・数学教育において言語活動の充実を図るためには,いかにすればよいでしょうか。中央教育審議会(2008)の「答申」では,上述のように,算数・数学科の目標や特質及び児童生徒の発達段階に応じて,知的基盤としての言語活動を算数・数学科の指導計画に教育内容として位置づけることが求められています。こうした要求は,平成20年(2008年)改訂告示の小学校・中学校学習指導要領では,算数科における「算数的活動」,中学校数学科における「数学的活動」として教育課程の編成において具体化されていると言ってよいと思います。

(1)算数・数学的活動としての具体化
 小学校算数科における算数的活動とは,「児童が目的意識をもって主体的に取り組む算数にかかわりのある様々な活動」のことで,次のような3つの活動が例示されています(文部科学省,2008a)。

ア.作業的・体験的な活動など身体を使ったり,具体物を用いたりする活動
イ.算数に関する課題について考えたり,算数の知識をもとに発展的・応用的に考えたりする活動
ウ.考えたことなどを表現したり,説明したりする活動

 一方,中学校数学科における数学的活動とは,「生徒が目的意識をもって主体的に取り組む数学にかかわりのある様々な営み」と規定されており,指導内容としての〔数学的活動〕として次の3つの活動が例示されています(文部科学省,2008b)。

ア.数や図形の性質などを見いだす活動
イ.数学を利用する活動
ウ.数学的に説明し伝え合う活動

 こうした指導内容としての算数的活動や数学的活動は,算数・数学教育の目標である児童生徒の思考力や表現力の育成をねらったものですが,算数・数学科における言語活動の充実はそれぞれの「ウ.考えたことなどを表現したり,説明したりする活動」,「ウ.数学的に説明し伝え合う活動」として取り込まれていると考えられます。

(2)思考・表現とコミュニケーションの関係及び言語の役割
 一般に,言語は思考の道具であり,表現の手段である,と言われることがあります。図1は,複数の子どもたちの間でのコミュニケーションを単純化して,2人の子どもA,Bが言語を用いて考え表現し(縦の関係),言語を用いて説明し伝え合う(横の関係)様子を表したものです。
 算数・数学教育における言語には,言葉,数,式,図,表,グラフがあります。したがって,算数・数学教育において言語活動の充実を図るためには,これらの数学的言語を用いて考え表現したり,説明し伝え合ったりするなどの学習活動を,算数・数学科授業に積極的に取り入れることが重要であると考えます。

図1 思考・表現とコミュニーションの関係及び言語の役割

図1 思考・表現とコミュニーションの関係及び言語の役割

3.授業における数学的な言語活動

 その際に留意したいことは,以下の2点です。第一は,個々の子どもが算数・数学の問題を解決する際にも当然のことながら重視すべき言語活動があるということです。図1の「縦の関係」に表されているように,個々の子どもは既有の知識・技能や数学的な考え方,経験を活用して問題を解決しようとします。そのとき,数学的言語を用いて考え,それを表現し,それを見直すことで考えを進めたり修正したりして表現していくという一連の言語活動が見られます。
 第二は,図1の「横の関係」に表されているように,子どもたちが各自の考えを説明し伝え合ったりするという言語活動についてです。子どもが自分で算数・数学の問題を解決する際の表現は自分自身にわかればよいとも言えますが,相手に考えを説明し伝え合う際には,相手意識をもって自分の考えが伝わるように,わかりやすく筋道立てて表現しなければなりません。また,相手から伝えられた表現に耳を傾けたり注意して見たりして,それを解釈して相手の考えを読み取ろうとする姿勢が大切です。したがって,その指導に当たってはコミュニケーションや感性・情緒の基盤としての言語活動にも配慮する必要があります。
 最近は言語活動の充実ということで,算数・数学科授業においてペア・トークや小集団,教室全体での話し合いなどのコミュニケーション活動が多く取り入れられるようになりました。このことは決して悪いことではありません。しかし,それが図1の〈表層〉での「表現」のやり取りだけに終始しないようにしましょう。数学的な言語活動としてのコミュニケーションの真価は,図1の〈表層〉での数学的な「表現」のやり取りを通して,〈深層〉での数学的な「思考」を共有し,広げたり深めたりすることにあるからです。

【参考文献】

  • 小山正孝 (2008),「言語活動の充実」,大杉昭英編著『中学校新学習指導要領の展開 総則編』,明治図書,pp.31-34.
  • 小山正孝 (2009),「数学的な思考力・表現力を高める算数教育」,広島県小学校教育研究会算数部会会誌『算数』,第53巻,pp.2-5.
  • 小山正孝 (2010),『算数教育における数学的理解の過程モデルの研究』,聖文新社.
  • 中央教育審議会(2008),「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領の改訂について」,文部科学省ホームページ.
  • 文部科学省 (2008a),『小学校学習指導要領解説 算数編』,東洋館出版.
  • 文部科学省 (2008b),『中学校学習指導要領解説 数学編』,教育出版.