線 Line(小学校 書写)

線 Line(小学校 書写)

持ち方
2013.12.19
線 Line(小学校 書写) <No.06>
持ち方
京都橘大学教授 日展委嘱 新谷 泰鵬

 学生たちと一緒に食事をする機会がありました。彼女たちの箸の持ち方に驚き、あの持ち方でどうやって食べるのか不思議で、じっと観察していると、「先生、何見てるんですか」と訝しがられたことがありました。
 高校の教員をしていた頃、書道部の合宿で食事ごとに箸の持ち方をチェックし、喧しく言ったことを思い出します。未だにその頃の教え子に会うと、「箸の持ち方まで叱られた」とよく言われます。三泊四日の合宿で、帰りには全員綺麗な持ち方になり、筆の持ち方も皆よくなりました。箸の持ち方と筆や鉛筆の持ち方に共通点が多いからでしょう。
 大学で、毎年「国語概論」という講座の中の書写を担当しています。小学校教諭の免許取得のための必修科目で、書写が国語の領域となっているため、その十五分の三だけ書写が割り当てられているのです。一コマ九十分、三コマの授業で書写の指導ができる能力を身に付けさせるのは到底無理です。何をどうやれというのか、ただ茶を濁しているだけとしか思えません。書写の指導者を養成し、各校に配置するような制度ができればと常々思っていますが、ともあれ「国語概論」での授業は、児童に望ましい姿勢や鉛筆の持ち方と、平仮名の書き方、漢字の基本的な形の取り方を教えられるようにということに絞ってやっています。
 受講生全員の鉛筆の持ち方をチェックし、年々ひどい持ち方の学生が増えているのを実感しています。とんでもない箸の持ち方と似た持ち方で鉛筆を持っている学生が増えているのです。望ましい持ち方の学生は皆無といってよいぐらいです。時間をかけ、一人一人の持ち方を矯正しますが、矯正された持ち方に抵抗のある学生も多くあるものの、すんなり受け入れられ、「書きやすい」「形が取りやすい」という学生もかなりいます。矯正した持ち方がいつまでもつかわかりませんが、教壇に立った時に思い出し、しっかり指導してくれることを願っています。持ち方が良くなければ書きにくく、字も整えにくいはずです。現今の状況は、家庭や学校での箸や鉛筆の持ち方についての指導不足が大きな原因と思います。一旦悪習が身につくと矯正に労力が必要ですが、粘り強い努力により必ず矯正できます。家庭で、学校で、「美文字」をめざし、なるべく小さい時からの「持ち方」指導の徹底を願う昨今です。