教育情報

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若手教員の指導力向上
2014.01.08
教育情報 <日文の教育情報 No.132>
若手教員の指導力向上
東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英

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■緊急課題としての若手育成

 第三者評価委員として学校にうかがった折のことである。「現在の時点での本校の課題は?」という質問に対し、「若手教員の指導力です」と答える学校が多くなっていることに気づかされた。
 若手教員の授業力が弱く、保護者から厳しい指摘を受けた。学級経営がうまくいかず、子どもの問題行動が発生し広がった。校務分掌での役割が十分に果たせず、学校運営に支障が生じた。問題の中身は様々だが、若手教員が関連する問題が発生し、その解決のためには指導力向上が欠かせないというのである。若手教員の増加傾向が、さらにこの問題の緊急度を高めているという。
 新学習指導要領に基づく指導が本格的に展開している。学習指導を取り上げても、そこで求められるのは単なる知識や技術の伝達ではない。基礎・基本の徹底と同時に、活用する力、自ら学習を展開する力の育成が求められている。社会の信頼に応える学校づくりには教員の指導力が欠かせない。全校すべての教員の指導力向上が学校経営の重要な課題になっているのである。

■指導力アップの基礎基本

 指導力に課題を抱える教員の存在が把握された場合、管理職はその課題が主として次のどの内容に該当するかを分析的に捉えることが必要になっている。

ア 指導計画に基づき、工夫を加えて授業を展開し、ねらいを確かに達成する力。
イ 自校の子どもを深く理解し、効果的に生徒指導・学級経営を進める力。
ウ 全校指導体制の一員として自分がなすべきことを理解し、校務分掌の役割を果たす力。
エ 保護者の願いを受け止め、適切に対応して連携協力の関係をつくる力。

 把握した内容に基づき、いま起こっている問題の改善に必要な取組を全校的な取組に位置づけることが求められる。その際、次のことを押さえることが大切になる。

ア 若手を育てることを視野に入れて、全校の研修を充実・強化する。
イ 校長・教頭、主任等を中心として、指導にかかわる相談・支援体制を強化する。
ウ 各種委員会、教科部会、学年会等の機能を高め、組織を生かして全教師の指導力向上を図る。
エ 学習評価を中心に、教育活動に対する評価活動を活発にし、プロセスの評価力を高める。

 全校体制の中で、いま児童生徒につけようとする力を明らかにする。目標実現のための指導組織を整備し、目標実現に向けて全教職員の力を統合する。その中で、指導力不足の解消を図るのである。まずは、管理職を中心にし、重層的な体制で指導力に課題を抱える教員に対し指導助言を行う。組織を通じて若手教員を含む、すべての教員の指導力に働きかける。そのための指導体制を確立することが重要になっている。

■効果を上げた工夫とは

 若手育成が当面する課題になっている学校では、様々な工夫がなされていた。

〔A校〕校長・教頭の授業観察のあと、問題になる場面を再現し、協働で改善方策を話し合うことによって効果をあげていた。
〔B校〕授業公開を重視する。その後の保護者等の感想、意見に基づく改善点の明確化、効果を上げる授業のポイントについての協議、改善策の作成を重視していた。

 多くの学校で実施し、効果を上げていたのは、リフレッシュ研修会、パワーアップ研修会などのネーミングで実施する各校独自の若手教員研修会だった。
 時間設定、講師選定、実施方法に各校さまざまな工夫が凝らされていた。そして、共通するのは、いずれの学校も大きな成果を収めていることだった。ピンポイントの課題を取り上げ、その内容に適した中堅教員が指導に当たる。事例に即した多様な資料が準備される。方法が工夫される。それは中堅教員の指導力向上、人間関係づくりにも結びついたということであった。
 優れた教員の条件としては①教職に対する熱情、②教育の専門家としての力量、③総合的な人間力、があげられるが、指導力という観点からは、やはり、②にかかわって、教科に関する指導力、深い子ども理解に基づく人格形成に関する指導力、学級等の集団に対する指導力が大切になる。そうした点を中心とする、工夫を凝らした働きかけが多くの学校で必要になっている。

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