教育情報

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地域とともにある学校づくりで目指すこと
2013.12.06
教育情報 <日文の教育情報 No.131>
地域とともにある学校づくりで目指すこと
(公財)宮崎文化振興協会理事長 田原 健二

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■学校運営協議会設置の現状

 全国153市区町村、1570校(平成25年4月1日現在)に学校運営協議会が設置され、いわゆるコミュニティ・スクールが指定されている。
 本県でも5市町、91校の公立学校に学校運営協議会が設置され、学校だけでは多種多様なニーズに十分に応えることが困難になっている学校の現状と、児童生徒や学校周辺の組織と連携することで地域活動の活性化を図りたいという地域の願いから両者の連携がつくり出されているといえる。
 先日、平成25年度文科省指定研究推進モデル校・都城市立山田中学校で研究公開が開催され、「コミュニティ・スクールによる地域とともにある学校運営協議会づくり」をテーマとしたパネルディスカッション(コーディネーター・大阪教育大・新崎国広准教授)のパネラーとして参加する機会を得た。
 山田中学校では、学校の教育活動を支援(あるいは地域住民に学校支援を依頼)するボランティア組織として社会福祉協議会等を委員とした「学校支援地域本部(学校支援ボランティアの会)」が位置付けられている。
 また、「目指す地域像」を設定するなど「地域や家庭において、学校と同じ方向性で教育すること」を共通理解し、主に福祉教育を中心として地域と協働した教育活動を展開している。
 研究公開では、学校運営協議会制度のメリット・デメリット及び学校の主体性について協議された。

■学校運営協議会制度のメリット・デメリット

 学校運営協議会制度のメリットとして児童生徒が地域の一員としてのアイデンティティを確立するのに有効であることは多くの実践校で指摘されている。一方、デメリットとして教職員の多忙があげられている。
 学校経営方針等に対する「承認」という参画度の高い仕組みを活かすには熟議が欠かせないという意味では教職員には多忙感が伴う。
 教職員の多忙解消には行政の具体的なサポートも必要だが、学校で完結する教育システムとしての学校観というパラダイムを転換することが多忙感の解消には必要であると考える。地域とともにある学校というシステムへと教職員が自覚的にスタンスを変えていくことが重要である。
 また、学校運営協議会が教職員人事に関与することに慎重な教育委員会が多いが、学校運営方針やそれに関わる当該校の求める教員像が明確になるに伴いガバナンスの在り方として避けられない課題であることを視野に入れておく必要がある。

■学校運営協議会制度における学校の主体性

 地域住民の意向を反映した学校運営の推進は、学校評議員制度や学校関係者評価制度でも意図されたものであったが、両制度は学校の「正統性」を前提としたものであり、学校としては導入に対して抵抗感の少ない制度であったといえる。
 学校と地域の連携による開かれた教育活動・学校運営の実践をとおしてソーシャルキャピタルの醸成というベクトルが主体相互に自覚されてきたことに伴い、地域住民のニーズと学校の「主体性」を調整する仕組みが必要となってきた。このことがガバナンスの概念を導入した学校運営協議会制度の背景にあると考える。
 したがって、学校は課題解決のために地域の支援を得るという意識から、学校をよくする事が地域をよくする事につながるという方向性を地域に明示し、地域と学校が双方向で関わっていくことが必要である。
 また、地域に在る様々なコミュニティは学校を媒介とすることで「子どものため」にという共通項で集いやすいことから学校は地域コミュニティを発展させる核となる可能性を持っている事を自覚しておく必要がある。

 先述のパネルディスカッションでは、「私たちは子どもの頃、地域の人たちから温かく叱られながら育った。」という意見が出された。都城市には薩摩藩・郷中教育の伝統がある。郷中教育は、一定区域のなかで行われる異年齢による自治的な教育であったことを特徴とした。
 地域とともにある学校とは地域の教育的伝統・文化を継承・発展させ、地域自治の将来の担い手を育成することが期待されていると考える。その一つのシステムとして学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)の実践に取り組まれている都城市教育委員会、山田中学校に敬意を表したい。

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