教育情報

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PISA調査の結果から考えるべきこと
2014.03.12
教育情報 <日文の教育情報 No.133>
PISA調査の結果から考えるべきこと
環太平洋大学学長 中原 忠男

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■調査結果の国際比較

PISA2012年調査における平均得点の国際比較
(国立教育政策研究所「OECD生徒の学習到達度調査」より)

 昨年12月に、第5回PISA調査(2012年に実施)の結果が発表された。新聞等で報道されたので、ご存じの方も多いと思うが、今回、上位10位を占めた国・地域の結果は右記の通りである。
 上位の中で上海などの地域やシンガポールなどOECD非加盟国を除くと、日本は数学的応用力は韓国についで2位、読解力と科学的応用力は1位ということになる。過去、日本は第1回(2000年)ではトップクラスであったけれども、その後は下がり続け、第3回(2006年)が最低であった。しかし、第4回(2009年)で上昇に転じ、今回さらに上昇という結果である。そこで、「日本トップレベルに回復」ということになる。さて、 この結果から何を考えるか、考えるべきかである。

■学力の回復力

 今回の結果に対しては、多くのマスコミが文科省を中心とする学力向上対策が実を結んだものであると評価している。筆者もそう思う一人である。ただ、ここで注目したいことは、「学力の回復」よりも「学力の回復力」があったということである。
 周知のように、日本では20世紀末からいわゆる「ゆとり教育」が実施され始めた。しかし、21世紀に入り、そのゆとり教育の弊害が強く指摘され、学力とりわけPISA型の学力育成に力が入れられるようになった。その結果、PISA型学力はねらい通りに回復してきた。学力は一度下がると回復が難しいが、日本は短期間で回復した。この回復力に注目したいのである。欧米諸国も努力はしているが思わしい結果には結びついていない。これを可能にしたのは、コストや時間など膨大なエネルギーを注ぎ込むとともに、「文科省―教育委員会―教育現場」の一体化した取り組みによるところが大きいと考える。日本のこのシステムを重要視したい。こうしたシステムを構築できたことを評価したい。

■これから取り組むべきこと

 PISA型学力は応用力に重きを置いており、それが高いということは基礎学力、思考力そして活用力があるということである。したがって、こうした学力は価値あるものであり、今後も重視し、その育成に力を入れていくべきである。しかし、今回のようなよい結果が得られれば、今後教育予算やエネルギーを何に注ぎ込むかを再検討してみる必要がある。既にマスコミ等で指摘されているように、PISA型学力の育成面でもなお課題はある。我が国流に表現すれば、学習意欲の向上、確かな学力の育成、言語活動の充実などがそれである。そうした課題への努力は大切であるが、その他に取り組むべき重要なことはないかという問題提起である。
 PISAを実施しているOECDのシュライヒャー教育局次長は、今後は学校現場において「グローバル人材育成」が求められるとして、その力の調査を検討しているという。世界のグローバル化は、経済はもちろん政治、学問、環境等々あらゆる分野で急速に進んでおり、さすがの着眼点である。ところで、そうした能力面の育成ももちろん重要であるけれども、その基盤をなす人間性の育成も改めて考え直してみるべき状況にある。日本においては、学校内の暴力行為や不登校が非常に増加している。いじめも依然として後を絶たない。社会や学校におけるひずみがこうした形で現れているといえないであろうか。だとすると、教育の原点である人間性の育成にさらに大きなエネルギーを注ぎ込むべきであろう。
 現在の日本の教育は、[生きる力]の育成を目的としており、豊かな人間性はその重要な要素に位置づけられている。PISA学力の向上に注いだエネルギーをそこに向ければ、豊かな人間性を育成できる教育システムを構築することができると考える。それは、21世紀の子どもたちに求められる「生き抜く力」を培う道である。

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