中学校 道徳

中学校 道徳

「体験活動」との関連に重点をおいた指導方法(第2学年)
2019.02.13
中学校 道徳 <No.001>
「体験活動」との関連に重点をおいた指導方法(第2学年)
東京都渋谷区立松濤中学校 主幹教諭 大内弘全

 新学習指導要領では、カリキュラムマネジメントが求められるため、学校の教育活動全体で行う道徳教育での「豊かな体験」と道徳科での指導を関連づけることがますます重要になる。生徒は、「豊かな体験」を通して気付く様々な道徳的価値から深く考えることができ、その結果、道徳性としてより確かに定着する。道徳科の授業では、職場体験活動やボランティア活動、自然体験活動などの体験活動を生かし、心に響く多様な指導の工夫に努めることが大切であると考える。
 このことから、道徳科の授業と「職場体験学習」の体験活動を関連づけた実践事例を紹介する。

1 体験活動を重視した道徳科の授業

 「体験活動」と「道徳科」を以下のように考える。

 なぜ、「体験活動」が強調されているのか。体験がより豊かになれば、生徒の「感じる心」がより豊かになる。その結果、道徳科の授業がさらに充実することにつながるからである。しかし、単に体験を積ませればよいものではない。体験だけでは道徳性は育たない。あくまでも体験は体験であり、豊かな心を育てるのが道徳科の授業である。また、道徳科の授業で道徳性・豊かな心をみがくことによって、体験活動も充実し、有意義な「体験活動」へと発展する。

2 職場体験学習(総合的な学習の時間)と道徳科の授業

 道徳科の授業に職場体験学習の体験を取り上げることで、生徒たちに自らが行った職場体験学習の追体験をさせることができる。そのことによって、生徒たちは自己の気持ちを具体的に振り返ることができ、さらに他の生徒の発言を聞くことによって、考え方や感じ方にふくらみや広がりができる。
 職場体験学習における達成感が内面に根ざした道徳性をよび起こし、さらに職場体験学習が自らの生き方に直接かかわることを実感することで、生徒自身の内面から道徳性が生じてくることが期待できるのである。
 本校のある区では職場体験学習は総合的な学習の時間に実施している。そこで、本授業は「体験活動」のみではなく総合的な学習の時間との関連も考慮して行った。
 「総合的な学習の時間」においては実践的なことがらが中心となるが、それだけでは有意義な「体験活動」にはならない。道徳科の授業で生まれる生徒自身の内面に根ざした「道徳性」が結びついてはじめて有意義な「体験活動」に発展する。総合的な学習から生まれた「自己の生き方の探求」と道徳科の授業で育成された「道徳性」、これらが相互に密接に関連してはじめて有意義な「体験活動」になると考える。これによって、生徒たちの道徳的行為を行うための意欲や態度が育成されるだろう。生徒が社会的に望ましい行動をとることができ、鋳型にはめられるのではなく、自ら道徳性を形成し、希望をもって生きることができるようになると考える。

3 実践指導例

(1)教材名
「挨拶はことばのスキンシップ」(中学校道徳副読本「新 あすを生きる 2年」日本文教出版)

(2)ねらい
礼儀の意義を理解し、時と場に応じた適切な言動をとることができる。
内容項目 B-(7) 礼儀

(3)授業展開

学習活動

指導上の留意点


1 職業体験学習の写真を見て、職場体験学習を思い出す。
・おじいさんにお礼を言われてうれしかった。
・園児がかわいかった。将来働くことをイメージしやすくなった。
・言葉遣いが大切なことがわかった。

○ただ単に思い出すのでなく、ねらい「礼儀の意義」「時と場に応じた適切な言動」に沿った学習活動になるようにする。


2 教材を、自分の職場体験学習を思い出しながら読み、考える。

○心を込め、静かに範読する。

①どうして、「わたし」は職場体験学習に積極的になれなかったのか。
・面倒だから。
・体験先の人は怖いかなど、不安に思った。

○小グループに分け、個々にワークシートに記載させ、記載内容をそれぞれに発言させる。

②お客さんに「ありがとう」と言われて、じわっとうれしさがこみあげてきた「わたし」は、どんなことを感じたか。
・私だってうれしいと思った。疲れがとんだ。
・お客さんのときには、言うようになった。

○考察した内容を相互に言い合う。時間があれば、店長・生徒に分かれた役割演技を行う。発言のルールに則り、互いの考察内容を尊重する雰囲気をより高める。

③店長さんが、職業人として2人に伝えたかったのはどんな思いか。自分の体験を振り返りながら考えてみよう。
・客商売は感謝の気持ちがお客さんを呼ぶ。
・心のこもったあいさつは、相手の気持ちをよくするし、自分の気持ちもよくなる。
・言葉だけでなく、笑顔などの態度も考え、実行すると、さらに相手との関係がよくなり、自分も嬉しくなる。

○自らの体験を踏まえて発言するように促す。
○自分の職場体験学習や、学校・日常の生活と結びつけて考察させる。


3 自分の職場体験学習を振り返って、本時の感想を書く。

○自分の職場体験学習と結びつけて考えたことを評価に生かし、本時の学習活動を生かし、自己の今後の生き方につなげ、まとめる。

(4)道徳科の授業と職場体験学習の関連づけ

①職場体験学習を道徳科で効果的に扱うために、職場体験学習の事前・事後に以下の指導を行った。
ア.人とのつながり(礼儀、責任、協働など)を人間社会という観点から、働くことや生きることを考えさせる。「人間関係形成・社会形成能力」「道徳的心情」
イ.人との関わりから自分のよさを知ることにより、さらに自分を伸ばすことにつなげさせる。「自己理解・自己管理能力」「道徳的判断力」
ウ.体験活動の取り組みを通して、将来に向けて考え、行動できることを感じさせる。「キャリアプランニング能力」「道徳的実践意欲と態度」

②道徳教育の要として道徳科の授業で職場体感学習と関連づけて指導を行った。
 職場体験学習で重点的に指導した上記の「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「キャリアプランニング能力」と「道徳的心情」「道徳的判断力」「道徳的実践意欲と態度」の相互の関連を考え道徳科の授業を実施する中で、より一層、生徒の道徳性を豊かにすることができる。その際に、道徳的価値(内容項目:礼儀)を明確にし、指導方法の工夫を行うことにより、さらに道徳性の育成につながる。本授業では、発問に「主人公の気持ち」を問うだけでなく「職場体験学習を踏まえて」を加えて問うなどの工夫をした。また、別葉などの年間指導計画にも位置付けた。

4 まとめ

 職場体験学習の様子を道徳科の授業の展開に意図的に盛り込んだ。結果、自分たちの体験活動と関連づけて具体的に考え、生徒相互の対話が活発になり、自己の見方や考え方が深まった。感想文などからは自分自身の成長を実感する記載が多く見られ、評価することができた。また、導入・終末段階で職場体験学習の様子の写真を映し出すことは効果的であった。
 意図的に体験活動と関連させて道徳科の授業を実施することによって、生徒の活動に変化が表れ、道徳的実践意欲と態度が育成されたと考える。道徳科では、体験活動を効果的に生かすことにより道徳的価値の自覚を深めさせることができると考える。また、教材を活用する際に、生徒の体験活動を盛り込むなどの工夫をすることにより、自分自身の体験と重ねながら考え、さらに道徳性が高まるであろう。
 授業の中でも生徒は、自分自身の成長を実感していた様子が見られた。さらに日常の生活の中で、積極的に挨拶をするのもちろんだが、笑顔などの表情を見せ、相手に正対し、適切な言葉がけをするなど、挨拶の仕方に変化も見られるようになった。