学び!とシネマ

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サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-
2019.02.21
学び!とシネマ <Vol.155>
サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-
二井 康雄(ふたい・やすお)

©2016 Saturday Church Holding LLC ALL rights reserved.

 LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)を指して、「生産性がない」と発言し、世間のひんしゅくをかっている愚かな女性の国会議員がいる。こういった女性議員がいる限り、女性が真に活躍できる社会は来ないだろう。
 閑話休題。映画「サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-」(キノフィルムズ配給)は、LGBTの男の子ユリシーズ(ルカ・カイン)が、女性のように美しくなりたいと願う、ミュージカル仕立ての音楽ドラマだ。
 舞台はニューヨークのブロンクス。美しい女性になりたいと願っているユリシーズは、ある日、トランスジェンダーたちと出会い、サタデー・チャーチという教会に誘われる。この教会は、LGBTたちの、いわば憩いの場で、ダンスのコンテストの練習場でもある。ユリシーズは、やっと自分の居場所を見つけられた思いだ。
©2016 Saturday Church Holding LLC ALL rights reserved. ふと、ユリシーズは、ハイヒールを履く。ユリシーズが履いたハイヒールが、弟に見つかってしまう。存在そのものを否定されたと思ったユリシーズは、家を飛び出してしまう。教会の仲間たちが心配するなか、ユリシーズには、さらに過酷な現実が待ちかまえている。
 劇中で唄われる「カム・サン・オア・カム・レイン」という曲の歌詞が、とても、いい。「…人生は一度きり 正直に生きなきゃ 誰にでも困難や 試練は訪れる…」。
 何度も言ったり書いたりしているが、この世には、男性と女性しかいない。仲良くする組み合わせは、たった3通り。どのような組み合わせで仲良くしようと、子どもを産む、産まないを決めるのは、自由である。試練のなか、ユリシーズは、自由を目指す。
 なにより、ユリシーズはトランスジェンダーで、数からいえば少数派、世間の目は冷たい。だから、生きていく上での試練は多いと思う。だが、しかし、ユリシーズは、困難だけれど、自由に、正直に、生きることを選ぶ。
©2016 Saturday Church Holding LLC ALL rights reserved. 脚本・監督のデイモン・カーダシスは、実在するサタデー・チャーチで、ボランティア活動の経験がある。監督自身、同性愛者と名乗っている。監督は語る。「…カミングアウトすることで、自分の考え方を周囲に認めてもらうことができるし、若くして自分とは何者なのかを見極めることもできる…」。
 2002年に公開された「ロバート・イーズ」というドキュメンタリー映画があった。ロバートは、元女性。性転換した後、子宮ガンになる。
 ロバートに寄り添う女性は、元男性のローラで、ロバートの身の回りの世話をする。余命いくばくもないロバートの願いは、ローラと知り合ったトランスジェンダーの大会で、ダンスをすること。ロバートは言う。「大切なのは心よ」。
 若者、熟年の違いこそあれ、性差を超えて、人は愛し合う。自由である。そして、前に進むことである。サタデー・チャーチで唄われる「グッド・バイ」の歌詞にこうある。「…僕はおかしくなんかない 僕は前に進むよ 前に進むよ 前に進むよ」。

2019年2月22日(金)より、新宿ピカデリー他全国公開

『サタデーナイト・チャーチ -夢を歌う場所-』公式Webサイト

監督・脚本:デイモン・カーダシス
出演:ルカ・カイン、マーゴット・ビンガム、レジーナ・テイラー、MJ・ロドリゲス、インドゥヤ・ムーア
2017年/アメリカ/カラー/スコープ/82分/5.1ch/英語/日本語字幕:川又勝利
原題:Saturday Church
配給:キノフィルムズ
レーティング:PG12