学び!とシネマ

学び!とシネマ

フルートベール駅で
2014.03.20
学び!とシネマ <Vol.95>
フルートベール駅で
二井 康雄(ふたい・やすお)

(c) 2013 OG Project, LLC. All Rights Reserved

 黒人の若者に警察官が銃を発砲する。黒人は病院に運ばれるがまもなく死亡。ほんの数年前、2009年1月1日未明に実際に起こった事件である。映画「フルートベール駅で」(クロックワークス配給)は事実に基づいた映画で、射殺された黒人オスカー・グラントの最後の一日を描く。

(c) 2013 OG Project, LLC. All Rights Reserved

 黒人への差別や虐待を描いた映画は、いままで数多く作られてきた。古くは、「アラバマ物語」や「ルーツ」、「マルコムX」、最近でも「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」、「プレシャス」、「ジャンゴ 繋がれざる者」、「大統領執事の涙」などなど、描かれた時代は変わっても枚挙にいとまがない。今年のアカデミー賞で作品賞を受けた「それでも夜は明ける」もまた、白人に虐げられた黒人の過酷な年月を描いた映画だが、これは1840年代の話だ。170年以上経過した今、たとえ大統領が白人でなくても、なお、黒人への差別、蔑視が、色濃く残っていることが分かる。
 ドラッグの売人から足を洗い、まじめに生きていこうとする22歳のオスカー(マイケル・B・ジョーダン)が、2008年の大晦日の夜、4歳の幼い娘を母親に預け、妻や仲間たちと新年を迎える花火をサンフランシスコまで見にいく。カウントダウンが終わり電車で帰ろうとする。昔の悪い仲間に出会ったオスカーとその仲間たちは騒ぎに巻き込まれる。オスカーたちは、フルートベール駅で警官たちに取り押さえられる。オスカーが何もしていないと言っても、警官は聞いていない。一方的に取り押さえられたオスカーに警官が発砲する。

(c) 2013 OG Project, LLC. All Rights Reserved

 映画は、オスカーの大晦日の一日を丁寧に描く。オスカーは母親思いで、妻と幼い娘を大事にしていることが分かる。ドラッグの売人をやめる決意をして、かつて勤めたスーパーに再就職を願ったりする。また、車にはねられた犬を抱きかかえたりする優しい青年なのだ。
 事件は2009年1月1日の未明に起こる。オバマが大統領に当選したのは2008年11月、就任は2009年1月20日である。白人ではない大統領が誕生したというのにこの事件である。アメリカの有名な映画スターで、黒人は多い。シドニー・ポアチエ、エディ・マーフィー、フォレスト・ウィテカー、サミュエル・L・ジャクソン、ウーピー・ゴールドバーグ、ウィル・スミス、デンゼル・ワシントン、モーガン・フリーマンなどなど。いま、大活躍をするようになるまでは、さぞかしの苦労があったことと思われる。白人でない大統領、多くの黒人俳優、テニスや競馬の騎手まで、黒人が活躍する時代である。そのような時代なのに、黒人の若者オスカー・グラントは何も悪いことをしていないのに警官の銃弾を浴びる。しかも、過失で発砲したという警官への罪は、はなはだ軽い。
 監督のライアン・クーグラーは黒人で、まだ27歳。母親役のオクタヴィア・スペンサーも黒人で、「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」ではアカデミー賞の助演女優賞を受けている。上述したように、活躍する多くの黒人俳優が出た映画や、黒人の差別や虐待を描いた多くの映画がある。「フルートベール駅で」をご覧になる前でも後でも、黒人たちをどう描いたか、ぜひ多くの映画を見ていただけたらと思う。

2014年3月21日(金・祝)、新宿武蔵野館ico_linkヒューマントラストシネマ有楽町ico_linkほか全国順次ロードショー!

■『フルートベール駅で』

監督:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン (『クロニクル』)、オクタヴィア・スペンサー (『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』)
製作:フォレスト・ウィテカー
配給:クロックワークス
2013年/85分/PG12