学び!と美術

学び!と美術

鉄道と美術教育
2019.09.10
学び!と美術 <Vol.85>
鉄道と美術教育
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 私の孫は「電車のおもちゃで遊び、電車に乗るのが大好き」な「子鉄」です。
 ベビーカーに乗っている頃から電車利用が多く、鉄道は身近な存在でした。「ママ」「ジジ」が言えるようになった頃に「じぇーあー(JR)」と言い出しました。小さい頃はJRのマークやRを含むロゴなどを見るたびに、「じぇーあー、じぇーあー」と声を上げていたものです(※1)
 片言で話せるようになったときから始まった「なんで?」攻撃は、今もジジを困らせています。
 孫「これは?」 ジジ「パンタグラフ」
 孫「なんで?」 ジジ「電気が、電車に入るところ」
 孫「なんで?」 ジジ「電車は……電気で動くから……」
 孫「なんで?」 ジジ「……(絶句)……」
 納得するまで「なんで?」が続くのです。
 孫の「なんで?」に答えるため、ジジは本を買ったり、調べたり、Nゲージを買ったり(?)と、鉄道を勉強します。鉄道は、車両、路線図、駅など奥が深く、「にわか鉄ちゃん」には困難な道ですが、続けるしかありません(いや喜んでるでしょう……)。
 がんばっているうちに、仕事に役立つこともでてきました。最近、講演でよく使う鉄道ネタを紹介しましょう。汎用性があるので、いろいろな場面で使えるのではないかと思います。

新幹線は車両じゃない!?

 新幹線と言えば、多くの人は「あの車両」を思います。ジジの世代では「0系」、子どもたちには緑の「E5系」、それとも「ドクター・イエロー」か……。しかし、それは電車や車両(※2)であり、新幹線ではないのです。
写真1:山陽新幹線0系(photolibrary 新幹線とは、「その主たる区間を列車が200キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道」(全国新幹線鉄道整備法第2条)のことです。幹線というのは、道路や鉄道、航空路などの主要な路線のことで、その幹線鉄道の中で高速車両を専用に走らせる新しい鉄道が「新・幹線鉄道」、つまり新幹線なのです。
 新幹線を構築する資源は多様です。まず、時速200kmで走る車両が必要です。でも、それだけでは動けません。安全を担保しながら正確に運行するプログラムが必要です。踏切がない線路、レールの保守点検、駅の整備も大事です。全国の人々が共通にチケットを購入できるコンピュータシステムは必須条件です。どこで買ったとしても、指定席にきちんと乗れることが保証されなければなりません。そのうえで多くの人々が利用して、会社として採算が取れることが大切です。さらに安全な運航のためには、法令等や行政の支援も欠かせません。これらが、ただ一つ欠けても新幹線は成立しないのです。
 世界初の高速鉄道として開業した0系新幹線の車両は、当時すでにあった技術の寄せ集めであり、決して新しいものではなかったという指摘もあります(※3)。最近ようやく世界中で新幹線が走るようになりましたが、各国がなかなか追いつけなかったのは、車両よりも新幹線というシステム全体だったのです。

子どもの学びとは何か

 この話を、教育に転用してみましょう。
 まず、前述の「0系」を「子ども」に置き換えて、学びについて考えてみましょう。まず学校の成立には先生や友達、指導案や年間指導計画、教材や教科書、教室や校舎、保護者や地域、学校制度、憲法や教育基本法、学習指導要領などの法令等、多様な資源が必要です。そのうえで造形遊びであれば、材料、空気や光、広さ、高さ、友達、先生、指導案や教科書などの資源が必要となります。これらの全てがバランスよくそろって初めて「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」が育まれるのです。新幹線の話は学びを構成する資源を明確にしながら教育を改善する話として応用できるでしょう。
写真2 学びの分析にも役立ちます。写真2は、孫が遊ぶ写真です。車両、レール、踏切、ホームドアなどがあります。孫は、「次は大崎、大崎、お出口は右側です。湘南新宿ラインはお乗り換えです。」とつぶやいています。その後に、わけのわからない英語(!)と鼻歌(駅メロ)が続きます。車両を並べるときには、数を数え「12両編成!」と宣言します。脇に置かれた、路線図や鉄道事典は遊びを補完しています。一人で遊んでいるかというと、そうではなく、時折「なんで?」が飛んできます。遊びを見守っている大人が必要だということでしょう。
 孫は、単に「車両」と遊んでいるのではなく、「色、形、言語、音楽、数字、記号、周囲の人々などの絡み合った全体」を遊んでいます。頭の中では、多様な資源を活用した「新幹線のようなシステム」が働いているのかもしれません。

 私たちは「新幹線=車両」というように、物事を単独でとらえがちです。でも、実際は資源と実践が結びついた全体が「子どもの学び」です。学習の改善においては、学びをシステムとしてとらえ、多様な視点から検討していく必要があるのでしょう。

※1:「じぇーあー」の言語的な分析については、奥村高明『マナビズム―「知識」は変化し、「学力」は進化する』東洋館 2018を参照してください。
※2:正しくは「営業用新幹線電車」あるいは「高速鉄道専用車両」と呼びます。
※3:「実はすごくない初代新幹線「0系」 なぜ世界初の「すごい高速運転」実現できたのか?」 200kmで走る電車は明治36年にドイツが実現し、自動列車制御装置(ATC)は営団地下鉄が1961年に採用していることなどが紹介されています。 https://trafficnews.jp/post/81324