学び!とESD

学び!とESD

チャールズ皇太子提唱の「ハーモニー原則」と教育 ~不確実性の時代における希望への営み~
2020.01.23
学び!とESD <Vol.01>
チャールズ皇太子提唱の「ハーモニー原則」と教育 ~不確実性の時代における希望への営み~
永田 佳之(ながた・よしゆき)

ダンフリーハウス 読者の皆さんは英国王室のチャールズ皇太子が「ハーモニー」と呼ばれている原則を提唱していることをご存知でしょうか。
 2019年10月26日~29日、この原則に魅せられたビジネス、医療、建築、農業、教育関係の専門家36人がスコットランドのダンフリーズ・ハウスという古い館に集い、文字どおり膝を付き合わせて地球の未来について話し合いました。ダンフリーズ・ハウスは王室が所有する2,200エーカーもの広大な土地にあり、そこでは「ハーモニー原則」に則った教育プログラムや有機農業などをチャールズ皇太子の財団が営んでいます。
ダンフリーハウスで「ハーモニー教育」を講義するダン校長先生 筆者は、この会議に招待され、トンボ帰りではありましたが、一連の討議に参加し、他の国々や国際機関からの参加者と一緒に皇太子に進言する機会を与えていただけました。参加してみて分かったのは、気候変動の影響で今、アクションを起こさなければ次世代は不可逆的な事態に見舞われるという認識を共有している専門家の集いであったということでした。参加者の誰もがこの10年が勝負であると捉えていたのです。なかには後戻りできなくなる転換点(ティッピングポイント)は近づいており、この5年くらいが勝負だと主張する人もいました。一部の科学者を除いて、ここまでの危機感を抱く日本人では決して多くないのではないでしょうか。
 集った人々にはもう一つ共通している点がありました。それは、教育に可能性を見出し、最も有効な「ツール」であると捉えていることでした。しかも、気候変動に関する知識を教えるのでなく、地球規模の温暖化を引き起こしてきたような教育、すなわち地球資源を犠牲のもとに物質的な豊かさを追い求めるような価値観や知識・技能を培ってきた教育のあり方を根底から変えねばならないという信念をもつ専門家たちでした。
タペストリーの間で皇太子を待つ専門家たち 晩餐会で親睦を深めた後、タペストリーの間で筆者を含めた10人がチャールズ皇太子に進言をする機会が与えられました。そこでの議論で希望を託された教育のひとつがESD(持続可能な開発のための教育)でした。折しも2030年に向けた‘ESD for 2030’(持続可能な開発のための教育:SDGs達成に向けて)がユネスコ総会及び国連総会で決議される直前であり、SDGs(持続可能な開発目標)を実現するための教育の重要性が際立った会議でもありました。
 「国連の10年」として2005年に始まった当初のESDには、学校などの組織全体を持続可能な未来に向けて再編するという大胆な構想が描かれていました。ところが、実際には旧態依然たる制度内での試みにとどまる実践が少なくなかったと言えます。これを「ESDの矮小化」もしくは「ESDの断片化」と筆者は呼んできました。最近、SDGsでも同様の傾向が散見されるのではないでしょうか。
 こうした懸念に対してダンフリーハウスでの最後のセッションでは、チャールズ皇太子の提唱する「ハーモニー原則」こそ、持続可能な社会に向けて私たちの日常に変容を根幹からもたらすものであり、農業や建築のみならず教育でも本格的に英国内外で広められるべきであるという結論に達しました。
 話はトントン拍子に進み、この会議に参加していたリチャード・ダン氏(元アシュレイ小学校校長)が来日し、本年3月6日と7日に7つの「ハーモニー原則」をどう学校や地域で実践し得るのかについてセミナーを開催する運びとなりました(詳細は下記URLを参照)。なお、チャールズ皇太子の財団の支援によって翻訳され、印刷・製本過程で二酸化炭素の排出を極力抑えて作られた教師用ガイドブック『ハーモニー:私たちの世界の新たな見方と学び方』も当日、お披露目される予定です。

■ESD for 2030 のエッセンス 持続可能な未来を実現する6つのハーモニー原則
https://www.u-sacred-heart.ac.jp/event/20200122/2933/