記録的な暖冬で東京では梅の花や河津桜などが咲き、例年より早く春の訪れを感じます。「一月往ぬる二月逃げる三月去る」といわれる様に時間はアッという間に過ぎ、学校では3学期もわずかとなりました。先生方は3年生の進路指導、学期・学年評定の作成、卒業式の準備、さらに学校評価、新年度の準備など多くの仕事を抱えて多忙な日々を過ごしておられるのではないかと思います。そのような中、政府は新型コロナウイルス感染拡大防止のために学校の臨時休校を要請しました。その対応のために、先生方はさらに多忙になられると思われます。インフルエンザなどとともに罹患しないようにご自愛ください。
さて、前回予告したように今回は、1月19日に早稲田大学で実施された第3回中学校道徳教育セミナーについて報告します。今回は大学院の授業の関係で日曜日に実施することになりました。遠方から来られる先生方には参加しづらいのではないかと心配していましたが、定員60人をはるかに上回る80人のお申し込みがあり、当日は77人の参加がありました。参加者の中には毎回参加しているリピーターもいて、セミナーへの期待を感じました。
セミナーの内容は、午前中に二つの模擬授業と実践報告、午後には島先生の講演と三つの分科会と盛沢山でしたが、「1,000円の参加費でこれだけ学べるのはありがたい」と喜んでいる先生もいました。前回同様に、早稲田大学道徳教育研究会(MOS)の院生がセミナーを主催し、当日の企画と運営を行うとともに、分科会では院生たちの取組も発表する機会をいただいて学びを深めることができました。
MOSのメンバーとして活動した道子、真理、響の感想をもとに「第3回中学校道徳教育セミナー」について報告したいと思います。
1 模擬授業
私「第3回中学校道徳セミナーご苦労様でした。今回もMOSがセミナーを主催し、企画運営しましたが、実際に活動してみてどんなことがありましたか。」
道子「今年から教科となったためか、参加されていた先生方がセミナーに求めるものがより実践的な内容になったと感じました。先生方の質問や意見が授業実践に基づいたものが多く、司会をしていた私がたくさん学ばせていただきました。」
私「今回はそのような先生方に対して二つの模擬授業を企画しました。一つは筑波大学附属中学校の多田義男先生の授業、もう一つは福島県会津若松市立第六中学校の中島誠太郎先生の授業です。参加されている先生方が生徒役になり、実際に授業を受ける体験をしてもらい、実践報告で授業を振り返ってもらうようにしました。」
真理「私は多田先生の授業に参加しました。『相手の気持ちを考える(内容項目 相互理解、寛容)』を主題として、教材『言葉の向こうに(文部科学省 中学校道徳読み物資料集/日本文教出版 中学道徳 あすを生きる3)』を用いて授業をしました。導入では自分の思いが相手に伝わらなかったことを数人に聞いた後、教材を読み、発問『主人公が忘れていた大事なことは何か』を考えさせてから隣の人と意見交換させた後、中心発問『相手に思いを伝える時に大切にしなければならないこと』について4人のグループで話し合いをさせ、結果を全体で共有しました。最後に今日の授業で気づいたことや学んだことをワークシートに書いて終了しました。」
私「教材はネットでのトラブルを題材にしたものですね。多田先生は授業でどんな工夫をしていましたか。」
真理「教材を読んだ後、あらすじなどを確認するのではなく、すぐに教材についての感想を聞くことにより教材が取り上げている問題を把握させていました。」
私「発問は2問ありましたがどんな工夫をしていましたか。」
真理「初めの補助発問は中心発問につなげる発問でした。両発問ともまず自分の考えをワークシートに書かせた後、補助発問では隣の人とのペアワークで意見交換を、中心発問では4人のグループワークで話し合いをさせていました。ともに話し合いの結果は全体に共有するようにしていましたが、補助発問は多田先生が聞いてポイントを板書し、中心発問では班ごとに小さなホワイトボードに考えを書かせ黒板に貼り出し、主題に迫る考えを引き出していきました。」
私「他に指導上で気づいたことはありましたか。」
真理「多田先生は生徒の意見への対応がとても上手だと思いました。必ず理由を聞いたり、コメントを加えたり、他の者へ広げたりしていました。私も見習いたいと思いました。」
私「道徳では生徒の発言への対応の方法として、広げる『同じ意見の人は』深める『どうしてそう思うの』揺さぶる『他の意見はある』投げかける『…のような意見はある』があります。また、カウンセリングを応用して、発言をなぞったり、促したり、言い換えたり、さらに気持ちを汲んであげる方法もあります。中島先生の授業はどのような内容でしたか。」
響「教材『いのちをいただく』を用いて、『いのち(内容項目 生命の尊さ)』を主題にした授業でした。この授業の一番のポイントは絵本『いのちをいただく』(文:内田美智子、絵:諸江和美、発行:西日本新聞社)を教材化したところです。教材のあらすじは、食肉加工センターで働く坂本さんのもとに、おじいさんと女の子が飼っている牛を連れてくる。坂本さんは複雑な気持ちで牛の命を奪う。おじいさんに諭され、女の子は泣きながら牛の肉を食べるという内容です。女の子がかわいがっていた牛の肉を食べるときの気持ちを考えるとかわいそうで涙ぐんでしまいました。」
私「教科指導は主たる教材である『教科書』を用いて行うことが基本ですので、良い教材を使うことが大切です。教材にもいろいろな種類がありますが道徳では読み物教材が多いです。読むことにより道徳的な疑似体験して道徳性を養いますが、より直接体験に近い読み物教材が望ましいです。涙がひとりでに流れるような心に響く体験ができる教材です。」
響「中島先生は絵本の文を教材とするとともに、絵を場面絵として活用していました。また、授業前や生徒がワークシートに書いているときにBGM『手紙(上松美香)』を静かに流して雰囲気作りをしていました。」
私「授業の展開はどのようでしたか。」
響「導入で絵本を紹介してから、二つの補助発問『女の子はどんな気持ちで牛のお腹をなでていましたか』『坂本さんはどんな気持ちで牛をなでましたか』について答えさせた後、中心発問『どんな思いで、女の子は食卓についたのかな』では、ワークシートに自分の意見を書いてから班で意見交換しました。最後に、『今日の授業で命について気づいたこと、学んだこと、考えたこと』をワークシートに書きました。」
私「補助発問で牛の命を奪うことについて、女の子の視点と坂本さんの視点から多面的・多角的に考えさせることで命の尊さへの理解を深めていますね。」
2 講演
私「今回も畿央大学の島先生の講演がありましたが、どのようなことを述べられていましたか。」
道子「『考え、議論する道徳の実現に向けて』というテーマでお話がありました。道徳科では、中学生にとって分かりきったことを聞く授業、登場人物の心情理解を中心として国語のような授業が行われているという課題があると指摘されていました。」
私「島先生は、道徳科ではどのような授業を行えばよいとお話になっていましたか。」
道子「『考え、議論する道徳』とは生徒が自ら考え、友達と話し合い考えをさらに深めていくこと、つまり学習指導要領で求められている『主体的・対話的で深い学び』のある授業であると述べられていました。先生から教えられる受け身の授業ではなく、生徒自身がどう在るべきか・どう生きるべきか考え、納得できる答えを発見し話したくなるような能動的な学びが生まれるような授業を行うことが大切だと述べられていました。また、学びには人と人との間で行われる対話が必要であるが、学びの無い話し合いにならないように注意してほしいとも話されていました。」
私「そうですね、ただ話し合いをして何も学びの無い授業を時々見かけます。学びがある授業をするためにはどうすればよいと述べられていましたか。」
道子「先生は『学びをデザイン』『問いをデザイン』『環境をデザイン』が大切だと述べられていました。『学びをデザイン』とは、道徳性を育てるのが道徳であることを外さない、教師がゴールを持つ、発達の段階をしっかりと考えるということ。『問いをデザインする』とは、思わず考えたくなる問いと必然性を、問いを示すめあてで授業に1本の軸を、しっかり追及させて生徒の手柄にということ。『環境をデザイン』とは、友達の考えに関心を寄せる集団づくり、教師は陰の最大の理解者となり役割を演じる、普段から育てて道徳科で確かな認識にということです。先生はこのことを教材『二通の手紙(文部科学省 私たちの道徳 中学校/日本文教出版 中学道徳 あすを生きる3)』を用いて具体的に解説されました。教材のねらいは、『規則を守るという道徳的価値を自覚させる』であり、そのためには、『元さんがこの歳になって初めて考えさせられたことは何か』という中心発問を通して、規則は命を守るために自分たちが作ったものであるから、固すぎるのではなく、固くしたものであることに気づかせることが重要である。さらに、広く深いつながりの中で生きている中学生には自分の弱さについても考えさせることが大切である。また、生徒からキーワードを引き出し、考えを引き出してほめるような教師のファシリテートや、上を見て自己を見つめ、横を見て友達と対話できる集団作りも道徳科には必要であると述べられていました。」
第3回中学校道徳教育セミナーの報告はいかがでしたでしょうか? 次回のセミナーでまた先生方と再会できることを楽しみにしていますので、多くの先生方の参加を願っています。
次回「学び!と道徳2」は道徳科の様々な指導方法について取り上げていこうと考えています。ご期待ください。