学び!と道徳2

学び!と道徳2

道徳科の学習 ―話し合い活動―
2019.12.23
学び!と道徳2 <Vol.16>
道徳科の学習 ―話し合い活動―
岡田 芳廣(おかだ・よしひろ)

 12月になりましたが、先生方は師走の字のごとく多忙な日々を過ごしておられるのではないかと思います。今年は、5月には元号が平成から令和に変わり、秋には記録的な台風が何度も襲来して各地で大きな被害を出すなど大きな出来事が続きました。
 道徳教育においても「特別の教科 道徳(道徳科)」が中学校で始まるという歴史的な1年となりました。そのような中、11月になって連続して道徳の校内研修会に講師として呼ばれ、道徳科における「話し合い活動」をテーマに話すことになりました。昨年や一昨年の研修会では、教科となる道徳科の意義やねらいなどのテーマが中心でしたが、今年になり指導や評価の方法など具体的・実践的なテーマが多くなりました。これは各学校において道徳科が実施され、様々な課題が見えてきたのが理由ではないかと思われます。この本連載もそのような先生方のお役に少しでも立てればと考えています。
 そこで今回は、道徳科の学習における「話し合い」について考えていきたいと思います。「話し合い」といっても、学習指導要領などでは「議論」「討論」「対話」など様々な言葉が使われています。それぞれをどのようにとらえ、実際の授業ではどのような学習を行えばよいか述べたいと思います。

1 道徳科における「話し合い」

「岡田先生。道徳科の学習は『考える道徳・議論する道徳』であるとよく耳にします。しかし、学習指導要領には『自分の考えを基に討論したり書いたりするなどの言語活動を充実すること』とあり、『議論』ではなく『討論』という言葉で書かれています。なぜ『討論する道徳』と言わないのですか?」
真理「学習指導要領の解説には、『協働的に議論したり』『互いに建設的な議論をする』と『議論』という言葉も使われているよ。」
「すごいことに気づきましたね! 皆さんは『討論』というとどのようなイメージを思い浮かべますか?」
「『討論会』です。自分の考えを述べ話し合いをするようなイメージです。」
道子「私の社会科では『ディベート』です。アマゾン川流域のジャングルを開発するか、保存するかのような問題を開発派と保存派にクラスを二つに分けて討論します。」
真理「数学では『討論』よりも、この問題はどのようにして解けばよいか話し合います。どちらかというと『議論』というイメージだと思います。」
「道徳の授業において話し合いとはどのようなものであるか考えてみる必要がありそうですね。道徳の時間が創設された昭和33年の中学校学習指導要領の第3章第1節第2内容の出だしには『道徳教育の内容は、教師も生徒もいっしょになって理想的な人間のあり方を追求しながら、われわれはいかに生きるべきかを、ともに考え、ともに語り合い、その実行に努めるための共通の課題である。(下線は筆者)』とあります。道徳の時間では、先生も生徒もいっしょになってどう生きるか考え、みんなで『語り合い』をするような授業を実施しなさいということです。」
真理「『話し合い』は考えの結論を出すが、『語り合い』は結論を出すことよりも考えを深めていくために行われるのではないかと思います。」
「恋人が語り合えば愛が深まるが、話し合えば今後も付き合うか別れるかの結論を出すということか!」
「愛とはすごい例ですね。どう生きればよいかというような哲学的な問題に対しては、そんなに簡単に答えが出せるものではありません。プラトンは哲学を『対話』の形で語っていますが、道徳でも教材や資料との対話、自分自身との対話、そして、先生や友達と対話を通して道徳的価値について理解を深めていくことが大切です。」
真理「しかし、最終的にはどうすればよいか決めなければいけないと思いますが?」
「そのことについては、道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議の報告『「特別の教科 道徳」の指導方法・評価等について』の3.道徳教育の質的転換の中に『将来の変化を予測することが困難な時代には、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要になる。そのためには、自らの人生や社会における答えが定まっていない問いを受け止め、多様な他者との議論を重ねて探求し、「納得解」(自分が納得でき周囲の納得も得られる解)を得るための資質・能力が求められる。』と述べられています。つまり、いろいろな考えを持つ人々と『議論』をして、自分はどうするべきか道徳的価値への自覚を促し、自分もみんなも納得できる答え(納得解)を創り出すということです。当然、この『議論』は社会科のディベートのようにAかBかどちらかに勝敗を決めるような話し合いではなく、みんなが自分の考えや見方を述べ、話し合って、答えを探し出すような話し合いです。」

対話 talk, dialogue
 お互いの考えを知る、思考を交流し共通理解を進める、哲学的な思考
  →道徳的価値の理解を深める
議論 discussion, argument
 意見を論じ合う、意見交換をして結論(納得解)を出す
  →道徳的価値の自覚を促す
討論 debate, discussion
 意見を戦わせる、異なる意見について勝敗を付ける

2 話し合い活動の方法

道子「授業では実際にどのように話し合い活動をすればいいですか?」
「話し合いの形態としては、『先生と生徒』、『生徒間』、『学級全体』の三つあると思います。先生と生徒の話し合いでは、ソクラテスが弟子のプラトンたちと行った『ソクラテスメソッド』が古典的な話し合い方法ですが有名です。先生が質問を続けることにより、生徒から答えを引き出したり、生徒の理解を深めたりする方法で産婆術ともいわれています。イギリスの学校では理科や数学の時間によく使われているようです。」
「禅問答みたいな方法かな。」
「そうですね。ソクラテス式問答法ともいわれています。道徳においても先生が質問して、生徒の発言に対してさらに質問をする『切り返し』といわれる方法があります。
①深める切り返し 「どうしてそう思うの」「もう少し詳しく説明してください」
②広げる切り返し 「同じ意見の人はいますか」
③揺さぶる切り返し 「反対の意見の人はいますか」「他の意見はありませんか」
④投げかける切り返し 「~のような意見の人はいないかな」
の『切り返し』があります。②③④の切り返しは、話し合いを学級全体に広げるのに有効です。また、④の切り返しは、予想していた意見や主題となる考えが生徒から出なくて困ったときに使うといいです。」
「先生も自分の考えを語ってよいのですから、今度実際に使ってみよう!」
真理「初めから投げかけたら、価値の押し付けになるわよ。」
「……。」
真理「指名しても恥ずかしがって、答えてくれなかったり、小さな声でボソボソ答えたりする生徒にはどうすればいいですか?」
「発言しやすいい学級の雰囲気を作ることが一番大切ですが、カウンセリングの手法を使うこともよいでしょう。心理学者のトマス・ゴードンの『親業』では子どもの発言に対しては、子どもが発言しやすくなる受動的な接し方と子どもの心を開く聞き方があると述べています。具体的には、
①受動的な聞き方
・生徒のそばに寄り添う、生徒を見る
・黙って発言を聞く、途中で割り込まない
・微笑む、うなずく、驚く (表情や身振りで表す)
・相槌を打つ、ほめる 「なるほど」「そうなんだ」「すごい」
②能動的な聞き方
・発言を繰り返してあげる、なぞる
・生徒の気持ちを酌み言い換えてあげる 「~というようなことだね」
・発言をさらに促す 「それでどう思うの」「もっと話して」
のような方法があります。」
道子「生徒とのコミュニケーションの取り方も話し合いの重要な視点ですね。」
「次に生徒間の話し合いについてです。『バズセッション』と『グループワーク』があります。『バズセッション』は座ったままで隣の人や前後の人と意見交換する方法で、班を作らず短時間でできる良さがあります。『グループワーク』は班を作って話し合いを行いますが、全員が参加して意見を言えるには4人班が良いといわれています。しかし、このような活動は時間がかかることを留意して実施してください。また、生徒たちの多くはグループワークを行うと他の班ではどのような意見が出たのか気になるようですので、学級全体で共有することも大切になります。
 最後に学級全体で行う話し合い活動です。先ほど道子さんから社会科で行われた『ディベート』が紹介されましたが、道徳の授業でも実施されることがあります。教室を半分に分けて向かい合って座って意見を述べるときと、コの字型に座り左右の間に座る生徒が左右の意見を聞いて最終的にどちらがよいか判定する方法(写真参照)があります。道徳の授業では勝敗をつけるよりも理解や考えを深めることが目的なので、各人の心情の変化に着目したいですね。最近、P4C(philosophy for children 子どものための哲学)という新しい授業の方法が実施され始めています。道徳的諸価値に対するテーマを一つ決めて、全員が椅子で輪を作って話し合いをします。話し合いの形が円形になるので、サークルゲームとも言われています。」
「みんなが丸くなって、一つのテーマについて話し合うなんて、学級が一つになるような感じがしますね!」

3 話し合い活動の工夫

真理「実際に話し合い活動をさせると話し合いが進まないとか、話し合いに参加できない生徒がいるなどの問題が起きます。うまく話し合いをさせるにはどうすればいいですか?」
「急に話し合いをしなさいと言っても生徒たちは何を話していいか困惑してします。班によっては私語をするところも現れます。話し合いの前には必ず個人考察させることが大切です。その時、自分の考えをワークシートや付箋に書かせておくことも上手く話し合いをさせるポイントです。また、話し合いを円滑に進めるためには話し合い活動をする前に、司会者・発表者・記録者などの役割を決めさせたり、話し合いのルールを決めたりしておくことも重要です。MOSの先輩は、次のようなルールを書いたカードを話し合いの前に生徒たちに配布していました。

★司会カード★
話し合いの流れ
①司会者「これから自分の考えを発表してください。○○さんお願いします。」
②発表者が順番に発表する。※話し合いを深めるために次のキーワードを使おう!
 キーワード
 発表者に対して
  ・「もう少し詳しく教えて?」
  ・「なぜそう思ったの?」
 聞き手に対して
  ・「今の発表を聞いて、○○さんはどう思う?」
  ・「今の発表を聞いてみんなはどう思う?」
③司会者「他に質問があればお願いします。」
 ①②を繰り返す
④最後に司会者が自分の考えを発表する。
 発表後、司会者「私はこのように考えましたが、みんなはどう思いますか?」

☆聞き方カード☆
①友達の発言を最後まできちんと聴こう。
②話す人の立場になって、その言葉によりそって聴こう。
③友達の発言に耳を傾け、しっかり受け止めよう。
④質問や意見についてどう思うかなどを積極的に発言しよう。

話し合いで出た多様な意見をワークシートや小型のホワイトボードなどに記録させて班内で共有させるとともに、学級で発表させて学級全体で共有させるようにもしましょう。」
真理「話し合い活動をする授業を計画するにあたり、考慮しなければならないことはありますか?」
「授業の展開を考える時、どこでどのような話し合いをさせるか、話し合いの時間はどのくらいとるかなどを考えることです。特に班によるグループワークは、班づくりや話し合いに時間がかかります。50分間で授業をするには、グループワークは主題に迫る中心発問の1回だけにして、他の補助発問ではバズセッションで短時間に意見交換を行うような工夫が必要だと思います。」
「今日はとても勉強になりました。早速実践してみたいと思います。」
「授業力の向上には実践が一番です。計画したことを実際に行って、評価して、改善するPDCAサイクルを実施してください。」

 今回は話し合い活動についての具体的な指導方法を取り上げましたが、如何でしたか。初めにも述べましたが、今後は実践事例や新しい指導方法の紹介を中心に連載を進めていこうと考えています。1月には、早稲田大学で実施される「第3回中学校道徳教育セミナー」の取組について紹介しますのでご期待ください。
 よいお年をお迎えください。