学び!とESD

学び!とESD

英国シューマッハー・カレッジにおける教育 ~持続可能な暮らし方を学ぶ~
2020.03.16
学び!とESD <Vol.03>
英国シューマッハー・カレッジにおける教育 ~持続可能な暮らし方を学ぶ~
本川 絢子(永田研究室大学院生)

シューマッハー・カレッジのメインエントランス 英国南部の町、トットネスにシューマッハー・カレッジという教育機関があります。修士課程とショートコース、園芸の研修を開講しており、持続可能な社会の構築につながる学びを実践しています。その学びは「3H」、つまりHead(頭)、Hand(手)、Heart(心)の原則によって支えられています。知識を学ぶだけではなく、実体験と知識を統合させることをめざしているのです。筆者は、昨年の11月に開講された「ガンディーとグローバル化」というショートコースに参加しました。
 このコースの講師の一人は、シューマッハー・カレッジの創立者の一人であるサティシュ・クマール先生でした。サティシュ先生はガンディーに影響を受けて平和や環境のための活動家となった方です。そのため、コースではガンディーの非暴力の原則をサティシュ先生とのトークセッションで学ぶことが中心でした。セッションでは、ガンディーの唱えた原則について学び、そこからグローバル化した世界を問いなおして皆で話し合いました。このように、学ぶテーマについて問いと応答によって深めていくことが「3H」の原則にあるHeadの学びだといえます。
「ディープタイム・ウォーク」の様子 サティシュ先生のトークセッションに加えて、ゲストの先生によるワークショップやフィールドワークも受けました。1つ目は、人間の想像力の可能性を実感しながら学ぶことができるワークショップでした。2つ目に、「ディープタイム・ウォーク」という、地球が誕生してから現在までの時間の長さをカレッジ周辺の自然のなかを歩いて体感するワークを体験しました。どちらも実体験を通して学ぶワークですが、トークセッションはこれらのワークを受けて内容を発展させていくので、Headの学びを実体験と統合する試みがなされていることがわかります。
 シューマッハー・カレッジの実体験を通した学びで特徴的なものがHandの学びです。カレッジには農園があり、学生は園芸をしたり、そこで採れた野菜を使って健康的な食事をつくったりします。掃除も行い、いわゆる家事を自分たちで担います。自らの手を使ってこれらの家事を皆で分担することで、身のまわりの環境や他者、自分をケアすることを学ぶのです。
ある日の昼食 第3にHeartの学びに焦点を当てていきます。Heartの学びはカレッジの学び全体に内在化されています。例えば、上記に述べた2つのワークでは想像力のもつ可能性への希望や、地球への畏敬、環境破壊への痛みを感じました。これらのワークとセッションを往還させることで、Headの学びで得た知識にも感情が伴うようになりました。Handの学びでも、実際に行うことで他者と身のまわりの環境、自分自身をケアすることの大切さを実感できました。また、今回はカレッジの皆が集い、各々が抱えている問いなどを何でも語り合う場が設けられたため、仲間との心のつながりがより確かなものとなったと感じます。朝に行われる瞑想もHeartの学びの一環でしょう。
 シューマッハー・カレッジで学んだことは持続可能な暮らし方です。セッションやワークを通して人間が他者、自然と非暴力的に生きていく知恵を実感として得る。家事を通して自分と他者、自然を含めた環境のケアをする。この学びのサイクルのなかで同じ時間を過ごしている仲間たちと深く語り合うまでの仲となる。そして、自分の心とも丁寧に向き合っていく。このように自然と他者と自分自身を気づかいながら互いの関係性を再構築し、ともに生きていくことが、持続可能な暮らし方だといえるでしょう。そこで得た関係性は自分が今後生きていくうえでの土台となります。その土台が、カレッジを離れた後でも持続可能な暮らしを営み、希望ある未来を紡げるように学生たちを支えているのだと筆者は信じています。

参考文献:
シューマッハー・カレッジのホームページ(https://www.schumachercollege.org.uk/
サティシュ先生の世界観については、先生のご著作『君あり、故に我あり』(2005年、講談社)に詳しいです。