学び!とシネマ

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世界の果ての通学路
2014.04.11
学び!とシネマ <Vol.96>
世界の果ての通学路
二井 康雄(ふたい・やすお)

(c)2013 – Winds – Ymagis – Herodiade

 ケニア、片道15㎞、2時間。アルゼンチン、片道18㎞、1時間30分。モロッコ、片道22㎞、4時間。インド、片道4㎞、1時間15分。いったい何の距離、時間だろうか。
 これは、まだ幼い子供たちが学校まで通う距離と時間だ。ケニア、サバンナの大地を駆け抜けて通学する兄妹。アルゼンチン、パタゴニア平原を馬に乗って通学する兄妹。モロッコ、アトラス山脈を越えて通学する少女たち。インド、弟たちに押してもらった車椅子で通学する少年。映画「世界の果ての通学路」(キノフィルムズ配給)は、このような子供たちの通学風景、学校での勉強、支える家族の様子を、淡々と描いたドキュメンタリーだ。
 幼稚園から中学校まで、自宅から歩いて10分ほどの通学しかしていなかった身から思えば、なんとも大変な距離、通学時間だ。広い世界には、ただ学校に通うだけで、たいへんな苦労を重ねている現実があることにまず驚く。

(c)2013 – Winds – Ymagis – Herodiade

 ケニアのジャクソンは11歳。家事の水汲みや洗濯、炭作りなどを手伝いながら、妹のサロメを連れて早足で学校に通う。ゾウやキリン、シマウマなどがサバンナにいて、ゾウが子供たちを襲うこともあり、ギャングが出没したりもするからだ。両親は子供が無事であるよう、毎朝祈っている。ジャクソンの夢は、パイロットになって空を飛ぶこと。

 アルゼンチンのカルロスは11歳。羊飼いの息子で、まだ6歳の妹ミカイラと一緒に馬で通学する。パタゴニアの美しい平原では、誰とも出会わない。石ころだらけの道を、馬のキベリトが進む。天気が急変する。賢いキベリトのおかげで、無事に学校に着く。カルロスは故郷のパタゴニアが大好き。夢は故郷に残って、獣医になること。

(c)2013 – Winds – Ymagis – Herodiade

 モロッコのザヒラは12歳。アトラス山脈の辺境の村に住んでいる。冬には零下20度にもなる。祖母や両親は字が読めないが、ザヒラが医者になるのを応援している。毎週、月曜の夜明けに友人ふたりと22㎞も歩き全寮制の学校に向かう。金曜日の夕方、3人の少女は同じ道のりを歩いて村に帰る。
 インドのサミュエルは13歳。未熟児のサミュエルは歩行が困難で、学校に行くのは弟たちが押すおんぼろの車椅子だ。川では車輪が砂にはまって動けない。広い道路では車輪がはずれたりする。それでも3人兄弟は明るい笑顔だ。サミュエルは、自分と同じ障害を持つ子供のために医者を目指している。
 日本でも僻地では似たような通学事情があるのかも知れないが、映画に登場する子供たちは通学の困難な現実に正面から立ち向かっている。日本では、いじめや教師による暴力などが取り沙汰されているが、本作の場合、子供たちは大げさにいえば、命を賭けて必死に通学している。しかも、4組の子供たちの瞳は輝き、表情は豊かでいきいきとしている。両親たちは、必ず子供たちの通学の無事を祈り、学校ではしっかり勉強するよう励ましている。今日も、ケニアの、アルゼンチンの、モロッコの、インドの子供たちは、将来の夢の実現に向けて学校に通う。
 フランスの教育に関わるドキュメンタリーや劇映画には、2009年の「パリ20区、僕たちのクラス」を始め、優れた作品が多い。本作もまた、その伝統を継ぐ一作と思う。監督のパスカル・プリッソンは、テレビのドキュメンタリー畑の出身。本作での4つのエピソードは、やはり通学に苦労している子供たちの60ものエピソードから絞り込んだという。
 日本では、教育に関わるいろんなことが充実している。あまりにも恵まれているとは思う。なのに、いじめ、校内暴力、教師の不祥事などが後を絶たない。充実し、恵まれているせいでの不祥事かもしれない。もし小学校の校長だったら、「世界の果ての通学路」を、教師、生徒全員に見せ、みんなで話し合いたいところである。

2014年4月12日(土)、シネスイッチ銀座ico_linkほか全国順次ロードショー!

『世界の果ての通学路』公式Webサイトico_link

監督:パスカル・プリッソン
原題:‘Sur le chemin de l’école’
2012/フランス/77分/ビスタ/カラー/5.1ch/英語&日本語字幕
字幕翻訳:チオキ真理/G
製作協力:OCS フランス5 ユネスコ エイド・エ・アクション
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協力:ユニフランス・フィルムズ
提供:キノフィルムズ、KADOKAWA
配給:キノフィルムズ
(c)2013 – Winds – Ymagis – Herodiade