学び!と共生社会

学び!と共生社会

ICTの活用とインクルーシブ教育
2021.03.25
学び!と共生社会 <Vol.14>
ICTの活用とインクルーシブ教育
大内 進(おおうち・すすむ)

 ICTの進展により、人工知能(AI)、ビッグデータ、Internet of Things(IoT)、ロボティクス等の高度化した先端技術が社会生活のあらゆる場面に取り入れられ、Society5.0時代が到来しようとしています。これまで紹介してきた「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」の報告においても、特別支援教育におけるICTの利活用が取り上げられています。そこで、今回は、そこでの記述をベースに、インクルーシブ教育の構築という観点からも、ICTの利活用が重要な役割を担っているということについて考えてみたいと思います。

「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」報告から

 「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」報告の「Ⅳ.ICT利活用等による特別支援教育の質の向上」にはICTの活用について、次のような記述が認められます(*1)

○ ICTは、障害の有無を問わず、子供が主体的に学ぶために有用なものであるとともに、特別な支援を必要とする子供に対しては、その障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じて活用することにより、各教科等の学習の効果を高めたり、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための指導に効果を発揮したりすることができる重要なものである。また、合理的配慮を提供するに当たっても必要不可欠なものとなりつつある。

 特別支援教育においては、特別な支援を必要とする子ども一人一人の教育的ニーズに合わせて適切な教材等を活用することで、さまざまな困難を取り除いたり、減らしたりすることが可能となるわけですが、これまでも、各教科や自立活動に関連してICTの活用が積極的に行われてきています。
 この報告には、具体的なICTの活用例として、「視覚障害であれば、文字の拡大や音声読み上げ、聴覚障害では、音声を文字化するソフトや筆談アプリ等のコミュニケーションツール、知的障害では、動画やアニメーション機能を活用した学習内容を具体的にイメージする情報提示、肢体不自由では、視線入力装置による表現活動の広がりやコミュニケーションの代替、病弱では、病室と教室を結ぶ遠隔教育のシステム、発達障害では、書字や読字が難しい人にとってのコンピュータを用いた出入力や音声読み上げ」など様々な事例が示されています。

ICT活用の有用性

 筆者は、平成24年から25年にかけて実施された文部科学省における「学びのイノベーション事業」(*2)の特別支援教育ワーキンググループの一員として実証研究に参画しました。そこで取り組まれた実証研究の一つは、病気療養中の子どもが病院内からテレビ会議システムを用いて遠隔教育にチャレンジする実践でしたが、ICT活用の有用性を目の当たりにしました。病気療養中であっても、学校の友人関係を継続させることができ、学習を途切れさせることなく続けることを可能にしてくれたのです。また、こうした取組は、子ども自身に前向きに生きようとするモチベーションを与えることにつながることなど、大きな可能性があることを実感したものです。

インクルーシブなICTの活用を

 このように、ICTの活用は多くの障害がある子どもの指導の充実に大きく寄与しているわけですが、インクルーシブ教育という観点からは、こうした特別支援教育におけるICTの活用は、その範疇に留まるものではなく、小中学校の教育においても活用の可能性があるというところに着目する必要があるように感じています。例えば、上記の「病気療養中の子ども」の実践は、「不登校中の子ども」への活用の可能性があります。
 東京学芸大学附属小金井小学校では、すでにICTをインクルーシブ教育に結び付けた実践を展開していますが(*3)、ICT は学校において「個別最適な学び」と「協働的な学び」を充実し、すべての子どもたちの可能性を引き出す教育を実現するために不可欠のものであり(令和3年1月の中央教育審議会答申、*4)、「個別最適な学び」という観点から見ると、特別支援教育におけるICTの活用が、特別支援教育に留まることなく必要とするすべての子どもにも対応できるようにしていくことが望まれるといえます。

期待される特別支援教育におけるICTに関する情報の共有

 しかしながら、ICTに関する情報の共有という観点からすると、現実には、まだ通常の教育と特別支援教育の壁があるように思います。特別支援教育におけるICTの活用事例については、国立特別支援教育総合研究所(*5)が以前から情報発信をしています。是非とも、通常の小学校や中学校の先生方もこうしたサイトに気軽にアクセスして、情報を共有するようにしてほしいものです。

*1:新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告【本文】
https://www.mext.go.jp/content/20210208-mxt_tokubetu02-000012615_2.pdf
*2:学びのイノベーション事業実証研究報告書
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/030/toushin/1346504.htm
*3:東京学芸大学附属小金井小学校 ICT×インクルーシブ教育
http://www.u-gakugei.ac.jp/~ict-incl/
*4:「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)【本文】
https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_2-4.pdf
*5:国立特別支援教育総合研究所
国立特別支援教育総合研究所「特別支援教育教材ポータルサイト」
http://kyozai.nise.go.jp/
「ICT及びアシスティブテクノロジーに関して 」
http://www.nise.go.jp/cms/14,6055,69.html