学び!とシネマ

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5月の花嫁学校
2021.05.26
学び!とシネマ <Vol.182>
5月の花嫁学校
二井 康雄(ふたい・やすお)

© 2020 – LES FILMS DU KIOSQUE – FRANCE 3 CINÉMA – ORANGE STUDIO – UMEDIA

 1968年、フランスでいわゆる五月革命が勃発する。映画「5月の花嫁学校」(アルバトロス・フィルム配給)は、五月革命のほんの少し前のフランスの田舎、アルザス地方にある家政学校が舞台である。
 ヴァン・デル・ベック家政学校は、将来、良妻賢母になるよう、若い女性たちに家政学を教える、いわば、花嫁学校だ。学校では、常に男性に付き従い、不平不満を言わず、家事を完璧にこなさなければならないといったことを教える。
 さらに、常に倹約し、家計や家族の健康を管理する。また、女性としてのそれなりの身繕いが要求される。酒は呑めず、夜は妻としての勤めも重要である。
 どれも、もっともと言えばもっともだが、女性はことごとく男性を立てるための存在に過ぎない。
© 2020 – LES FILMS DU KIOSQUE – FRANCE 3 CINÉMA – ORANGE STUDIO – UMEDIA 家政学校の経営者はロベール(フランソワ・ベルレアン)だが、校長はロベールの妻ポーレット(ジュリエット・ピノシュ)だ。料理を教える先生は、ポーレットの義理の妹ジルベルト(ヨランド・モロー)。また、生徒たちの生活全般を指導するのは、修道女のマリー=テレーズ(ノエミ・リヴォウスキー)だ。
 2年間の寄宿舎生活に集まった生徒たちは、18名。なんと前の年の半分である。経営状態が悪化するなか、ロベールが急死する。ポーレットは、莫大な借金に驚き、あわてて取引銀行に駆け込む。ポーレットは驚く。担当者のアンドレ(エドゥアール・ベール)は、第二次世界大戦さなかに生き別れた、ポーレットのかつての恋人だった。
 ポーレットは気付く。今まで、ロベールが自分たち女性を、都合よく、縛り付けていたことを。
 時代は変わりつつある。パリでは、変革を目指したデモが続いている。そんな中、ひとりの生徒が、ある事件を起こす。さあ、家政学校は、いったい、どうなるのか。
 女性としての生き方を選ぶのは、男性ではない。女性自身である。若い女性たちを教え導くには、教える女性たちが、旧態依然とした枠に閉じこもっていても進歩はない。先生たちは、とにもかくにも、若い生徒たちを率いて、一歩を踏み出す。
© 2020 – LES FILMS DU KIOSQUE – FRANCE 3 CINÉMA – ORANGE STUDIO – UMEDIA フランスには、多くの女優さんがいるが、大好きな女優さんが二人、出ている。校長先生のポーレットに扮したジュリエット・ピノシュは、「夏時間の庭」、「アクトレス~女たちの舞台~」、「真実」など、多くの映画に主演して、お馴染みだろう。
 もう一人は、料理担当のジルベルト役のヨランド・モローだ。ベルギー生まれの舞台女優だが、「セラフィーヌの庭」や「危険なプロット」など、存在感たっぷりの演技で場をさらう。
 共同で脚本を書き、監督したのはマルタン・プロヴォ。「セラフィーヌの庭」、「ヴィオレット ある作家の肖像」、「ルージュの手紙」など、女性の内面に切り込んだ多くの傑作を演出している。
 映画のラスト近く、多くの女性の名前が連呼される。シモーヌ・ド・ボーヴォワール、サラ・ベルナール、マリー・キュリー、ルイーズ・ミシェル、フリーダ・カーロ、ジュリエット・グレコ、ヴァージニア・ウルフ、アナイス・ニン、マルグリット・ユルスナ―ル、ジョセフィン・ベーカー、マリリン・モンロー、ジョルジュ・サンド、ニーナ・シモン、エティ・ヒレスム……。
 どのような女性かを、ぜひ、お調べ、ご検索ください。

2021年5月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町新宿武蔵野館ほか全国公開!

『5月の花嫁学校』公式Webサイト

監督:マルタン・プロヴォ
脚本:マルタン・プロヴォ、セヴリーヌ・ヴェルバ
出演:ジュリエット・ビノシュ、ヨランド・モロー、ノエミ・リヴォウスキー 他
2020年/フランス/フランス語/109分/シネスコ/5.1ch
原題:La bonne épouse
英題:How to be a good wife
日本語字幕:井上千瑞水
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
PG12