学び!とシネマ

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わたしはダフネ
2021.07.06
学び!とシネマ <Vol.183>
わたしはダフネ
二井 康雄(ふたい・やすお)

© 2019, Vivo film – tutti i diritti riservati

 この世には、悪い人など存在しないかのような、ほんわか、心あたたまる映画が「わたしはダフネ」(ザジフィルムズ配給)だ。
 主人公のダフネ(カロリーナ・ラスパンティ)は、ダウン症の女性だ。少女のように見えるが、すでにスーパーマーケットで働いていて、30代くらいの設定だ。ダウン症とはいえ、ダフネは普通の女性と何ら変わらない。陽気で、誰にでも、はっきりとものを言う。
 イタリアのあるキャンプ場。ダフネは両親と3人で過ごしている。ダフネは、ダンスが好きで、この夜も、ダフネはみんなと楽しそうに踊っている。
 キャンプから戻る日、ダフネの母マリア(ステファニア・カッシーニ)が、突然、倒れてしまう。すぐ病院に運んだものの、マリアは亡くなる。ダフネと父ルイジ(アントニオ・ピオヴァネッリ)は、呆然とする。ルイジは、泣きじゃくるダフネを心配するが、ダフネは、「タバコの息が匂う」と、ルイジに辛くあたってしまう。
© 2019, Vivo film – tutti i diritti riservati マリアの葬儀が、生まれ故郷トスカーナのコルニオーロで営まれ、なんとか終わる。近所のスーパーで働いているダフネは、店長を始め、いい仲間に恵まれていて、みんなは、なにかとダフネのことを心配してくれている。
 ダフネとふたりきりになったルイジに、妻を亡くした悲しみが次第に募ってくる。つい、ささいなことから、父と娘が衝突する。
 ルイジは、「もう働けない」と弱音をはくが、ダフネは、「母さんの故郷まで、歩いて行かない?」と提案する。そして、ダフネは、「お世辞ではなくて、父さんは世界一」とルイジに抱きつく。
 父と娘は、途中まで列車を乗り継ぎ、マリアの故郷を目指す。
 じつにシンプルなドラマだが、この映画の世界は、まるで、人の善意に満ちているようだ。旅の途中、父娘は、「猟師の宿」に泊まる。宿の夫婦の応対が、アメニティに満ちて、とてもいい。また、山道では、森林警備隊の青年二人が、車で送ってくれる。
© 2019, Vivo film – tutti i diritti riservati 映画の宣伝文句にこうある。「あなたとなら、信じられる。世界はやさしさに満ちている、と」。その通りの映画だ。
 そして、ラストシーンの父と娘の会話が、縮まった父娘の距離感が消滅するほどで、心ふるえる。あざやかで、見事な幕切れ。
 映画の成功は、主役ダフネを演じたカロリーナ・ラスパンティを見出したことだろう。カロリーナ自身は、ダウン症を抱えながら、実際に生協のスーパーに勤めている。そして、自伝ともいえる小説を上梓するほどの作家でもある。
 脚本、監督は、フィレンツェ生まれのフェデリコ・ボンディ。長編の劇映画は2作目で、これが日本初公開となる。人物のきめ細やかな心理を、表情の微妙な変化で表現、さらに、ほどよいユーモアが配されて、達者な演出ぶりだ。
 今年の上半期に公開された映画のなかでも、強く勧めたい一作だ。

2021年7月3日(土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー

『わたしはダフネ』公式Webサイト

監督・脚本:フェデリコ・ボンディ
原案:フェデリコ・ボンディ、シモーナ・バルダンジ
エグゼクティブ・プロデューサー:アレッシオ・ラザレスキー
プロデューサー:マルタ・ドンゼリ、グレゴリオ・パオネッサ
撮影:ピエロ・バッソ 編集:ステファノ・クラヴェロ
音楽:サヴェリオ・ランツァ 衣装:マッシモ・カンティーニ・パリーニ
出演:カロリーナ・ラスパンティ、アントニオ・ピオヴァネッリ、ステファニア・カッシーニ、アンジェラ・マグニ、ガブリエレ・スピネッリ、フランチェスカ・ラビ
2019年/イタリア/イタリア語/94分/カラー/シネマスコープ
原題:DAFNE 字幕翻訳:関口英子
配給:ザジフィルムズ 後援:公益財団法人日本ダウン症協会
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