学び!と共生社会

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校務のICT化とインクルーシブ教育
2021.05.25
学び!と共生社会 <Vol.16>
校務のICT化とインクルーシブ教育
大内 進(おおうち・すすむ)

 前回、前々回と2回にわたって、インクルーシブ教育システムの構築に関連して児童生徒のICTの活用の意義について記しました。今回は学校の「校務」に関連する「ICT環境」の整備についてインクルーシブ教育の視点から考えてみたいと思います。

校務におけるICT環境の現状

 「GIGAスクール構想」の実現に向けて4800億円余りの国費が投入され(令和元年、2年度)、児童・生徒が使用する端末の整備や校内通信ネットワークの整備が着々と進められています。
 他方で統合型校務支援システム(*1)の導入による校務のICT活用も大きな課題となっています。しかし、こちらのシステムの整備率は、令和2年3月1日時点で学校全体の64.8% (前年57.5%)(*2)に留まっていて、導入が進んでいるとは言えない現状にあるようです。

インクルーシブ教育システムを念頭に置いた統合型校務支援システム整備への期待

 「校務面でのICT環境の充実は、教員の業務負担軽減だけでなくインクルーシブ教育システム構築の観点からもしっかり対応していくことが望まれます。このことは、「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告」(*3)でも、以下のように言及されています。

(校務のICT化)
○ 特別支援教育におけるICT利活用において、特に課題となるのは、校務のICT化である。まず、特別支援教育の支援や指導の基本となる個別の教育支援計画や個別の指導計画がICTを介して学校内外で的確に共有することが困難な事例が少なくない。その背景としては、その内容について関係者間の連携が不十分な上に、これは、校務系の情報システムの基盤である統合型校務支援システムにおいて、特別支援教育に配慮したシステムが形成されていないことも一つの理由であると考えられ、こうしたシステムの未整備が、切れ目ない支援に向けた関係機関間の必要な情報の共有を難しくしている側面もあるとされる。今後、特別支援教育においても、より統合型校務支援システムを活用した情報の作成・管理が行われるよう、例えば、都道府県やシステムの開発業者に対して、特別支援教育に配慮したシステム開発を促していく必要があり、個別の教育支援計画の項目の標準化が必要との指摘も踏まえ、今後、文部科学省において、速やかにその参考となる資料を示すなど、支援を進めていく必要がある。

 小学校・中学校の通常の学級には、発達障害等があって配慮が必要とされる児童生徒が6.5%在籍していると言われています。こうした様々なニーズのある児童生徒については、個別の指導計画を作成して対応することになっていますし、関連機関等と連携して一貫した支援をするために「個別の教育支援計画」を策定して対応することにもなっています。このことは、小学校及び中学校学習指導要領「総則」に明示されているのですが、こうした取り組みを含めてインクルーシブ教育に関連する業務が統合型校務支援システム上で体系的に行えるようになれば、情報の一元管理・共有の充実が期待できますし、教師の負担軽減にもつながっていきます。

学校や保護者、関係機関での情報共有のためのICT環境の整備

 インクルーシブ教育システムの構築が進んでくると、これまで特別支援学級や特別支援学校への就学が適切と判断されていた児童生徒が通常の学級に在籍する事例も増えてくるものと想定されます。例えば、「動ける医療的ケア児」があげられます(*4)。「医療的ケア」というと、障害が重篤で専門家でなければ対応できないと思われていましたが、医療の進歩により、「気管切開児だが、知的、運動面に問題はない」という「動ける医療的ケア児」が増えています。こうした子どもたちは、障害者手帳に当てはまる項目はなく、療育手帳交付の対象でもありません。しかし、気管切開があることで健常者とも言い難い、いわば健常と障害の狭間にあると言えます。現状では、就学の場の選択にも苦労していますが、通常の学校への就学が進んでいくものと推察されます。「医療的ケア児」については、すでに厚生労働省によって、「医療的ケア児等医療情報共有システム(MEIS:Medical Emergency Information Share)」(*5)が整備されているのですが、こうした子どもたちの学校生活を支えるためには、学校や保護者、医療等の関係機関との連携が不可欠であり、学校教育においても、適切な情報共有ができるようなICT環境の整備を進めていくことが望まれます。

障害当事者の教師へのメリット

 また、障害当事者の教師にとっても、校務におけるICT環境の整備は、情報活用の面で大きなメリットがあります。学校教育分野での障害者の活躍の観点からも、校務遂行に必要とされる環境整備が期待されます。統合型校務支援システム設計の段階でこうした配慮がなされることは、「障害者権利条約」の理念にも叶うことです。こういうことが丁寧になされてこそ、内外に「インクルーシブ教育の構築に向けて積極的に取り組んでいる」と胸を張ることができるのではないでしょうか。

*1:校務におけるICT活用促進事業
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1408684.htm
*2:文部科学省「令和元年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)【確定値】」
https://www.mext.go.jp/content/20201026-mxt_jogai01-00009573_1.pdf
*3:「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告」
https://www.mext.go.jp/content/20210208-mxt_tokubetu02-000012615_2.pdf
*4:厚⽣労働省「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査報告書」、令和2年3 月
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000653544.pdf
*5:厚生労働省「医療的ケア児等医療情報共有システム(MEIS)について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12204500/000652672.pdf