学び!とPBL

学び!とPBL

福島市を創る高校生ネットワークの誕生②
2021.06.21
学び!とPBL <Vol.39>
福島市を創る高校生ネットワークの誕生②
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.多様な生徒たち

 学校の活動は、参加者数やメンバーが安定していますが、全員参加となると活動への意欲はかなり差が出ます。高校生ネットワーク(以下FCN)は、学校と学校をつなぐ地域活動で、強制力もないし、意欲の高い生徒だけが集まってくるかというと必ずしもそうではありません。メリットは生徒たちの活動が「見える」ということと、基本的に「自由」であるということです。PBLの場合、同じヴィジョンを共有しているメンバーが集まることが前提条件だと言われますが、物事はそれほど理想的には進みません。ヴィジョンはみんなでつくるもの、というのが中高生のPBLのポイントだと思います。ヴィジョンを持った偉い大人の周りに集まることではありません。
図1 チームの目的を考える FCNに集まってくる高校生の中には、理想的なリーダークラスの生徒もいれば、勢い任せの生徒、全く自分を出すことが苦手な生徒、学校の中ではお荷物となっている生徒など、様々な面々が集まってきます。私たちにとって、この多様性こそが最も重要な価値だと考えています。

2.FCNの背景

 福島県は2027年までに南東北の中で最も人口が減少する見通しで、全国でも6本の指に入る激減県です。加えて、大学進学者が県外に出て行く人が東北で最も多く(5人に4人は県外)、また約半数が首都圏に出て行ってしまうが福島県です。
図2 福島市の課題って何? そのような中でも、高校時代の3年間のほとんどが学校の勉強や部活動だけに費やされ、地域活動に参加する機会はとても少ないと言えます。そのまま首都圏に出て行けば、地元との関係は希薄なままとなってしまうでしょう。
 FCNの活動が人口流出の流れを大きく変えることはできませんが、高校生が福島市に愛着を持つ活動をつくることはでき、長期的にはそれが何かを変えるきっかけになるかも知れないと考えました。震災の影響からか、「自分たちの力で地域をなんとかしたい」と思っている高校生は意外にもたくさんいます。その思いを形にすることによって、大人たちに影響を与えることができるのでは、と思いました。

3.FCNの目的

 コアメンバーで話し合い、FCNの目的を次のように決めました。
(1)若者の地域定着だけではなく、福島市に愛着を持つ若者をつくること、そうすれば福島市を離れた後も福島市のことを考え、福島市を支援してくれることになると思います。
(2)福島市を盛り上げるための高校生ネットワークをつくり、年に一度のフェスティバルを行い、地域行事に高校生が参加するしくみをつくります。
(3)高校生がやる気を示すことで、大人に影響を与えます。
図3 大学のラーニングコモンズを使って(4)「生徒国際イノベーションフォーラム2017」(vol.30を参照)で他地域、他国の高校生たちと一緒につくった「生徒共同宣言 Our Voice in 2017」にもとづき、地域や日本の問題について実践的に学習し、「宣言」の内容を実現させます。

 「生徒共同宣言 Our Voice in 2017」には、以下のような内容が記載されています。

……生徒が、地域の問題を、地域の人々と一緒に考え、協働してその解決策を練り、実践してきました。地域を真剣に愛している大人との出会いは、学校の中ではなかなか体験できないような、興味深い学びをもたらしました。……
 私たちは、学びを「他人事」ではなく「自分事」として捉え、様々な立場・経験をもった地域の人々や世界中の人々と、いろいろな問題について熟議し、そして行動に移していくことが大切と言えます。……
 教育の概念を変えましょう。学校生活は、社会人になるための知識を身につける、単なる“準備期間”ではありません。情報の使い方を学び、生きる力、社会的な力を身につけ、2030年の社会に向けて、私たち一人ひとりが主人公であるという自覚を持って、今から働きかけていく必要があります。……

図4 やるべき課題を整理する チームから離れると言っていた一人の生徒が、いつの間にか話し合いの中心になっていました。