学び!とPBL

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生徒国際イノベーションフォーラム③
2020.09.23
学び!とPBL <Vol.30>
生徒国際イノベーションフォーラム③
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.生徒共同宣言

図1 生徒共同宣言を読み上げる生徒たち 生徒、教師、研究者ら400人の参加による生徒国際イノベーションフォーラム2017(ISIF’17)は、ほぼすべてのスケジュールを終え、閉会式を残すばかりとなりました。閉会式では、メッセージで一杯になったシンボルバルーンが全体の前に掲げられ、生徒たちの熱い思いを感じることができました。参加した各国の代表から感想が発表され、メインイベントとなる生徒共同宣言が、三日間の写真をバックに和歌山チームの3人から朗読で提案されました。
図2 生徒共同宣言の概念図 「生徒共同宣言Our Voice in 2017」は、日本国内のみならず海外のパートナーの声や考え方も反映されたものでしたが、議論を踏まえ付け加えてもらいたい事例なども直前に提案され、基本的な枠組みは拍手で了承されましたが、細かい表現については後日再確認するという取り扱いが認められました。
 主な枠組みは、社会の現実的な課題を解決するための「生徒中心の学び」が必要で、これは学びの変革と生徒の自覚からなる、具体的には「コミュニティへの参加」「国際協働」が提案されており、この学びには「生徒ならではのパワー」「国内外の仲間との結びつき」「強い意志・計画・行動」「未来に対する共通のヴィジョン」が必要、失敗と成功を繰り返し、イノベーションを起こし、「私たちが望む世界」に近づいていく、というもので、OECDのEducation2030の趣旨にも沿った内容となっています。

図3 ISIF’17全体のつながりを示す図

2.ISIF’17を終えて

 何はともあれ、2年と4ヶ月前にスタートしたISN(OECD日本イノベーション教育ネットワーク)のもとで、「地方創生イノベーションスクール2030」が各地で実践され、ISIF’17として結実させることができました。資金や運営体制をはじめ、必ずしも十全な環境でなかったにもかかわらず、ここまでたどり着けたのは、参加した生徒や教師の情熱と、関係者の日夜を分かたぬ努力の賜だと思います。
図4 司会の大役を務めた生徒たち 本プロジェクトは、「OECD東北スクール」後の日本発の国際共同プロジェクトとして、大げさに言えば、各国の内向きな教育を外向きに変えていく方策を探る野心的な取り組みと言うことができます。私たちにとっては、「日本」と「海外」という棲み分けられた関係を、それぞれが同じ世界の一部として捉えなおす、認識の転換を含んでいると言えます。
 以下、本フォーラムのホスト国としての日本から見た総括を記しておきたいと思います。
 まず、最も重要な視点は、「2030年の教育」を生徒と大人が協働して探究することができたかどうかという点です。それは、生徒達が生きる近未来の課題を客観的に理解し、自分事として引き受け、問題の所在を探り、自分たちにできることを発見し、他者と協働し、実践することによって学ぶという、一連のプロセスによって実現されます。多くの参加者はフォーラムまでに各地域で実践を重ねており、ポスターセッションからスムーズにグループワークに移行したと言えます。ではそれが、教育のイノベーションに結びつけることができたかどうかは、今後の生徒や教師の実践に委ねられます。率直に言えば、「イノベーション」の一語は往々にして置き去りにされがちです。
 国際協働はいかに組み立てられたのでしょうか。本フォーラムは日本がホストとなり、各国をつなぎながら作業が進められました。各国・各地機によって生徒と教師の関係はまちまちであるため、一律に作業を委ねることはできませんでした。
 しかし、協働宣言のとりまとめでは、和歌山チームが中心となって内容を組み立て、各地域からレビューをもらいながら、何度も書き直し、そうした苦労によってオリジナリティあふれる宣言にまとめ上げることができたと言えます。ここには生徒達の生の姿が反映されており、生徒の主体性を探る重要な手掛かりを残したと言えます。
図5 閉会式の様子 国際間のコミュニケーションはどうだったでしょうか。ホスト国である日本の英語力は他国に比して弱く、コミュニケーションでは相当な困難が予想されたことから、メモ書きや図表、写真など、グラフィカルなツールを利用したコミュニケーションを目指しましたが、国際会議に必要なレベルの語学の獲得は一朝一夕には成しえません。
 本フォーラムの最大の特徴は、大人が枠組みを決めるのではなく、大人の援助を受けながらも生徒達が会議を組み立てるということでした。そのメリットは開閉会行事や異文化交流セッションなどに顕著に表れています。大人とは異なる生徒の視点が、本フォーラムの成否の鍵を握っていたと言っても過言ではありません。生徒が議論し、決定し、準備し、具体化するには通常とは全く異なる複雑なプロセスと時間が必要です。この試行錯誤の自由が許された環境こそが、生徒達を大きく成長させる条件だということを強調しておきたいと思います。

図6 フォーラムを終えて全員で記念撮影

3.生徒たちの成長

 このプロジェクトはISNの共同研究も兼ねており、クラスターごとに評価指標を設定し、生徒の能力の変化を継続的にモニタリングしてきました。本フォーラムにおいても参加者に対して、多様な形で調査を行い、クラスターや国を超えた共通の指標で生徒の成長の様子を描き出そうと努力しています。
 Word Cloudで示された図7は、生徒ラウンドテーブルで「多様な他者と協力しながら課題を解決するために大切な力」は何かを問うた結果です。出現頻度によって大きさや色が異なっていますが、「スキル」においては圧倒的にコミュニケーションの必要性が際立っています。「価値観」においては、「他者」「思考」「尊敬」「試行」「差異」などの言葉が目立ちます。スキルと価値観を合わせた「全体」でも、やはり「コミュニケーション」が大きく、日本人の英語能力が反映されているのがわかります。

図7 課題解決に必要な力Word Cloud

 図8は、一連のプロジェクトによって、どの様なコンピテンシーが伸びたのかを自己評価してもらい、その集計をグラフ化したものです。「新規性への関心」「異文化理解志向」「役割とチーム貢献」「意見の表明」などが伸長している反面、「偏見排除志向」「インクルージョン」などの複雑なものは伸びていないことがわかります。

図8 成長した力