学び!と人権

学び!と人権

SDGsと人権教育のつながり
2021.07.05
学び!と人権 <Vol.02>
SDGsと人権教育のつながり
森 実(もり・みのる)

 第2回では、SDGsに焦点を合わせて人権教育を論じてみたいと思います。近年、日本政府は、Society5.0とSDGsを学校改革の出発点としてあげることが増えています。Society5.0は次回に取り上げるとして、今回は、SDGsについてご一緒に考えましょう。

1.SDGsの17目標

 多くの方もご存じの通り、SDGsは2015年に国連が定めた2030年までの目標です。図1にあるSDGs17の目標を記したロゴは、見たことがあるでしょう。しかし、このロゴを一目見て、17あるSDGsの諸目標の関連性が即座にわかるという人は少ないだろうと思います。

図1 持続可能な開発目標(SDGs)
https://www.un.org/sustainabledevelopment/news/communications-material/

2.SDGs目標の相互連関

 SDGsは2015年9月25日第70回国連総会で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」という文書として採択されました。その採択されたときから、17の目標は人間・地球・環境・平和・パートナーシップという5つの枠組みで説明されていました。その枠組みを使い、これら17の目標の相互関連を示す図があります。それは次のもので、国連情報センターから発信されています。

図2 SDGs諸目標の関連
国連グローバル・コミュニケーション局

 いろいろな説明の仕方があるのですが、一番わかりやすかったのは、次のような説明です。図2の上にある「人間People」は図1の上段、目標1-6に当てはまります。これら6つの目標は、直接人間と関係が深く、「あらゆる形態の貧困と飢餓に終止符を打ち、尊厳と平等を確保する」とされています。人権諸条約など国際的な人権文書との関わりも強いと言えます。
 図2の右側にある「豊かさProsperity」は、図1の中段、目標7-12に当てはまります。これらは、社会の経済的発展との関連が強く、経済的発展が持続可能であるために何が必要かを示しています。「自然と調和した、豊かで充実した生活を確保する」という説明が付されています。
 左側の「地球Planet」は、図1の下段にある目標13-15に特に関わります。環境との結びつきが深い項目です。「将来の世代のために、地球の天然資源と気候を守る」と説明があります。
 これらに加えて、目標16に当たる「平和Peace」、すなわち「平和で公正、かつ包括的な社会を育てる」という項目があります。最後に、目標17「パートナーシップPartnership」があり、「確かなグローバル・パートナーシップを通じ、アジェンダを実施する」とされています。
 このような説明を学ぶと、SDGsというのはよくできた目標だと感じます。一度に17個の目標を示されるだけだとわたしは圧迫感さえ感じたのですが、それを5つに分けて相互の連関を示してもらえると、わたしの場合は、「なるほど」と思えました。
 これら17の目標はすべて、人権と深い関わりがあります。諸目標と人権との関わりについては、ヒューライツ大阪のウェブサイト をご覧ください。
 ここで特に示したいのは、人権教育にとくに関連が深い、目標4であり、そのなかの4.7です。

3.SDGsのターゲット4.7

 SDGsのなかでも、人権教育にとりわけ関係が深いのは、目標4「教育」です。目標4に含まれるターゲットの全文 については、リンク先のウェブサイトをご覧ください。ここでは、とりわけ関わりの深いターゲット4.7を取り上げて説明します。

4.7
2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。

 前回も紹介した「人権教育・研修に関する国連宣言」(以下「人権教育宣言」と略)は、前文ですべての人の教育を受ける権利(=「人権としての教育」)を確認した上で、第2条で、人権教育には「人権に関する教育」「人権を通じた教育」「人権をめざす教育」が含まれていると定めています。SDGsも同様の構成となっており、ターゲット4.1から4.6までですべての人の教育を受ける権利を規定した上で、ターゲット4.7で教育の内容や質を重視した事柄を定めています。この内容は、人権教育と深く関わるものです。
 ターゲット4.7を読むと、現代的人権教育は、人権について学ぶだけではなく、持続可能な開発のための教育(ESD)、男女平等、平和と非暴力、グローバル・シチズンシップ、多文化共生、開発教育などと結びついて進められるべきだということになります。

4.SDGsへの批判

 このように、国連の提唱したSDGsは世界に広く受け入れられつつあります。日本では、外務省のウェブサイトに「SDGs推進企業」として300近い企業の名前が挙がっています(2021年6月20日現在)。SDGsに積極的に取り組んでいる企業がこんなに出てきているのです。
 しかし、SDGsに対して批判もあります。さきのSDGs推進企業の一つは、最近のイベントで「耳障りのいい言葉を装いながら、その矛先はビジネスチャンスや金儲けに向いていたり、SDGsのためのSDGsがあまりに礼賛されている風潮があります」と述べて、日本におけるSDGsのあり方に疑問を投げかけています。逆に、「国連がそんな目標を提唱しても、実現するのは無理」という悲観的な声もあります。研究者にもさまざまなスタンスがあり、斎藤幸平さんなどは「SDGsは民衆へのアヘンである」と述べて、SDGsを強く批判しています。
 こうした様々な意見を受けとめつつ、SDGsに関わる教育は進めなければならないということになります。SDGsに依拠して進める利点は、なんと言っても日本政府がこれを全面的に支持しているという点にあります。文部科学省などから支持を得やすいですし、逆に批判は向けられにくいと言えます。また、その中に人権もきちんと組み込まれていますから、人権教育としても進めやすいはずです。さらに言えば、批判の声も紹介しながら学ぶことによって、SDGsを越えた発想や具体的取り組みを考えられることにもなります。