学び!と美術

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「造形遊び」への想い~第1回:造形遊びの二つの側面
2021.09.10
学び!と美術 <Vol.109>
「造形遊び」への想い~第1回:造形遊びの二つの側面
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 図画工作に「造形遊び」という内容があります(※1)。筆者は、その実際や考え方はコロナ後の教育や美術にとって重要な視点を与えるだろうと考えています。そこで「造形遊び」の特徴や学習指導要領作成の裏話などについて複数回連載しようと思います。
 「造形遊び」は、図画工作科全学年に設定された学習内容の一つです。一方、絵や工作、鑑賞など他の領域も含めて図画工作全体の基盤的な概念という側面もあります。何より筆者の教育研究や考え方などの拠り所にもなっています。本稿ではそのことについてお話します。

「造形遊び」とは?

 本稿の読者には図画工作の先生以外も多いので「造形遊び」がどのような学習なのか簡単に説明しましょう。
 学習指導要領では以下のように説明されています。

身近にある自然物や人工の材料,その形や色などから思い付いた造形活動を行うものである。児童は,材料に働きかけ,自分の感覚や行為などを通して形や色などを捉え,そこから生まれる自分なりのイメージを基に,思いのままに発想や構想を繰り返し,手や体全体の感覚などを働かせながら技能などを発揮していく。これは遊びのもつ能動的で創造的な性格を学習として取り入れた材料などを基にした活動で,この内容を「造形遊びをする」とし「A表現」の(1)ア及び(2)アで取り扱うこととした(※2)。(下線筆者)

 「造形遊び」とは、身近にある材料や用具、場所や空間、その形や色、イメージなどから、子どもが「思い付いた造形活動」を行うもので、「遊びのもつ能動的で創造的な性格を学習として取り入れた」学習だというわけです。う~ん…。
 実際にどのような学習なのか、28年前に実施した低学年「ならべて、ならべて(※3)」を取り上げて説明しましょう。授業は以下のように始まりました。

 子:先生~、今日何するんですか?
 先:何か、並べようかと思って…
 子:何を並べるんですか~?
 先:それはみんなが決めて…図工室の材料置き場にある木材とか、置き忘れの傘とか、学校にたくさんあるものがいいかなあ…
 子:どこでやるんですか~?
 先:それもみんなが決めて~、でも先生たちの目の届かないところはだめだよ(※4)

 かなりアバウトな導入ですが、まず材料と場所を選ぶことから始めようとしています(※5)。「何を並べよう」と材料を見つけ、「どこに並べよう」と場所を探し、並べ始めたら「こうなった」と振り返り、「じゃあもっとこうしてみよう」と「思い付いた造形活動」を連続させていくわけです。毎年、子どもたちは木材、ハンガー、ひまわりの支柱など、いろいろな材料を並べていました。

 ここでは、置き傘を選んだ子どもたちをとりあげて活動のプロセスをたどってみましょう。置き傘のグループ(※6)は、まず中庭のステージに傘を並べることから始めました。そして中庭のステージをぐるりと傘で取り囲みます。

 このとき「だめだめ、そこ!同じ色が並んでる!」という声が聞こえました。よく見ると、同じ色の傘が連続しないように並べています。色という知識を活用していることが分かります。
 その後、傘グループは、階段、渡り廊下、その天井と次々と並べます。そこでは「同じ色が並ばないようにする」だけでなく、「傘を同じ方向を向けて並べる」「傘をぶら下げる」など、新しい発想が取り入れられています。そして、最後には、それをみんなで寝転がって見上げていました。

 このような子どもの様子そのものは、昼休みに泥んこ遊びや、砂遊びなどの姿と大きな変わりはないと思います。何かの作品が生まれるわけでもないし、ゴールも明確ではありません。協働性が発揮されているので個別の評価も難しいようで、先生が戸惑うという声もあります。
 でも、子どもたちが、場所や材料に応じて自ら学習活動を開発し、発展させ、その中で形や色や並べ方(知識・技能)、発想や構想(思考・判断・表現)、学び続ける主体性や協働性、学習を振り返る力(主体的に学ぶ態度)などを発揮していることは確かです。
 それが「遊びのもつ能動的で創造的な性格を学習として取り入れた」意味であり、自然物や人工の材料、その形や色などから思い付いた造形活動を行う「造形遊び」であるというのが現在の学習指導要領上の解釈だと言えるでしょう。

「造形遊び」を分かっているのは子ども?教師?

 このような「造形遊び」で発揮できる能力や学習の在りようを理解しているのは、実は「教師より子どもだ」という研究があります。
 森實・李(2021)は、教師と児童の両方に対して、34項目の共通項目を質問し、統計的な分析を加え、教師と子どもの認識のズレを明らかにしようとしました(※7)。その結果『教師よりも児童の方が「造形遊び」で身につく力を評価し、友達との交流を強く認識し、コミュニケーションを活発に行い、自分の存在価値を見出している』という結論に達します。
 例えば、「自分の活動のよさを知った」「自分のやりたいことを追求出来た」などについて、教師より児童の方が、有意に得点が高いそうです。場所の制約がなく、友達とたくさん相談できて、材料や用具などが満足して使えるなど「造形遊び」の特徴も理解しており、さらに「造形遊び」では学習プロセスが最も重要だと感じているそうです。
 そういえば、「造形遊び」では、「あ!いいこと考えた!」という声を聞くことができます。子ども同士で話し合いながら「あ、そうだ!思いついた!」と言っている場面を見ることもあります。その頻度が、絵や立体、工作など他の図画工作の内容よりも特に多いのです。子どもは「造形遊び」で資質や能力を獲得していること、プロセスを通して協働性や主体性などが発揮できていることなどを実感できているのかもしれません(※8)
 一方、先生はどうなのでしょう。この調査で、先生たちは「材料や用具の準備に積極的だった」「自分の活動に夢中になった」など子どもたちの取り組む姿勢は評価するものの、「形や色などの新しい活かし方ができた」「造形遊びを通して仲間が増える」など、そこで獲得されている資質・能力については、子どもたちより認識が低かったようです。
 ただ、「指導に対しては困難を感じながらも、多くの教師が造形遊びに高い意識をもって指導・評価している」という結果は得られたようです。実は、私もそのような教師の一人でしたので、この指摘には思わず共感してしまいました。
 思い起こせば、35年前に美術教師から小学校教師に異動し、その後附属学校で教育研究をすることになったのですが、図画工作の実践研究は、ほぼ「ド素人」…ひたすら子どもの姿を追い、学習の意味を確かめました。その結果、学習は効率よく教えることが重要という考えから、学習者中心で物事を考えるのが大切という方向に変わりました。それを特に分からせてくれたのが「造形遊び」だったのです。

 ようやく、冒頭の話とつながったようです。「造形遊び」は、図画工作の学習内容の一つでしかありません。でも、材料や場所の意味、子どもの資質・能力など、図画工作の鍵になる考え方を学ぶことができるわけです。そうだとすれば、「造形遊び」は、子どもの学びであると同時に、教師の学びにつながっている特異な時間であるといえるでしょう。
 でも、そのこと自体が、多くの先生にとって「造形遊び」の理解を困難にしている原因かもしれません。「造形遊び」は「教師に理解されていない」「実施をためらう教師がいる」などの指摘もあります。次回は、それを改善するために学習指導要領を改訂したお話をしましょう。

※1:現行学習指導要領では学習内容が資質能力ベースなので、資質・能力を育成するための事項として「造形遊びをする(・・・)」という記述になっています。
※2:文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 図画工作編』21p
※3:第2学年、90分程度の題材です。
※4:このときは3学級一体で実施し、先生たち3人がポイントとなる場所で安全確認と指導をしています。「造形遊び」では体育館とか広い教室など場所を指定することが多いのですが、チームティーチィングなどの工夫で、子どもが場所を選択できるようにするのがコツです。
※5:選ぶ時から「造形遊び」は始まっています。いろいろな材料から子どもが選ぶことが保証されていると、子どもは主体性になり、より遊び性が発揮できると考えました。同じ材料を多量に与え「これを工夫して並べなさい」では、材料選択や発想の幅が狭まり、学習が限定的になるように思います。
※6:グループといっても固定的なものではなく、参加したり、外れたり柔軟性があります。
※7:森實祐里・李知恩「児童と小学校教師の「造形遊び」についての認識のズレ」北海道教育大学紀要(教育科学編)第71巻第2号(2021)
※8:だからといって「造形遊び」が『子どもの「ひらめき」を生み出す学習だ』『他の学習や教科とは違うよさがある』と言ってしまうのは早計で対立的でしょう。いろいろな学習活動や教科があり、各教科等の全体として子供の教育は行われています。