学び!とPBL

学び!とPBL

「福島市高校生フェスティバル」から学ぶこと
2021.11.24
学び!とPBL <Vol.44>
「福島市高校生フェスティバル」から学ぶこと
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.生徒たちの交流を広げる

図1 工夫が凝らされたオープニング 日本、とりわけ東北の我慢強い人々にとって「自分たちのことは自分たちで解決する」ということが美徳となっています。しかし、OECD東北スクール以降のプロジェクトをふり返ると、「自分たちのことは自分たちの力で」という狭い考え方が生徒の学びの広がりを阻んでいるように思えてなりません。「外の視点から自分たちを捉えなおす」「できないことは他人に協力を求める」「自分たちにないものは貪欲に取り入れる」というスタンスが、高校生の新しい学びを支えるのではないかと思われます。
図2 ぶっつけ本番だったトークショー 例えば次のようなことがありました。この高校生フェスティバルの成功を受けて福島市で学習会を行いました。せっかくなので、同じように探究活動に取り組んでいる他県の高校生や教師も招き、一大交流会となりました。その夜、高校生たちは深夜まで探究活動の議論を深め、すっかり友情を築きあげました。参加していた高校生の一人は「自分の学校の探究活動は計画立案に留まっており、実践まで至っていない」と問題を確信し、教員に探究活動を充実させるための要望を出したと言います。福島市のメンバーはこれにより自信を得ることになります。
 確かに、外との交流は例外なく新しい課題が生まれます。内輪でやった方がまとまりも良く、完成度も高くなることでしょう。しかし、外との交流自体が彼らにとっての学びなのです。

2.レジリエンスとしてのプロジェクト学習

OECD東北スクールからいくつかのプロジェクトを続けていて、生徒が壁にぶつかったときに気づく共通するやり方があることがわかります。それは以下の点です。

やれる人がやれるところからやっていく

できない理由を考えるのではなく、やれるようにするための知恵を出し合う

じっとしていないで動いて考える

自分たちだけでやろうとしない、大人に協力を求める

図3 一番成長したのは実行委員長! OECD東北スクールは東日本大震災の中で生まれました。混乱と絶望の中で、希望とビジョンを形づくるための教育プロジェクトです。そこには「ピンチをチャンスに、逆境をバネに変えていく」という、レジリエンスの教育実践だったということもできます。「子どもだから」「教育だから」とオブラートにくるむのではなく、退っ引きならない現実に生徒と大人が共同で取り組んでいくという「文化的実践」として捉えることが大切です。危機の中でこそ、リーダーは育ちます。それは生徒だけではなく、サポートする側の学生や大人にも言えることです。日本人は個人的な問題解決能力は強いが、集団で問題解決することが苦手と言われています。誰かが「お節介役」となって、チームワークをメンテナンスすることで、リーダーとフォロアーの関係が形づくられます。

3.伴走する学生の存在

図4 MCと打ち合わせをする大学生 OECD東北スクールの成果の一つとして極めて重要なのが、教師と生徒の間をつなぐ「学生」の存在です。学生たちは、生徒たちのホンネを受け止めることができるという意味で、大人と子どもの間を取り持つ重要な位置づけ、重要な情報のリソースとなります。数々のプロジェクトの経験者もいれば、全く未経験の学生もいますが、上記の意味ではあまり変わりありません。
 単なるサポートのみならず、生徒たちと一緒に企業やNPO、自治体へ接触することとなり、自らがプロジェクト学習の学び手となります。とりわけ教員をめざす学生にとって、早期から学校に慣れるだけではなく、学校の外の世界を知ることとなり、これが新しい教育の在り方に対する認識の形成─未来創造型学習の先取りへとつながります。地方創生イノベーション2030に参加する地域や学校は多数ありますが、教員、学生、生徒が一体となってプロジェクト学習を形づくるチームは福島のみです。
図5 フェスの成功を喜ぶ大学生サポーター このフェスティバルの成功は、OECD東北スクールから続く、地域を思う生徒や大人の思いの結晶でもあります。他方、4年前にこのイノベーションに参加した中学1・2年生だった彼ら福島市チームの「福島市の人たちを笑顔にしたい」という素朴な願いを実現するために誠実に努力を積み重ねてきた成果の一つでもあります。
 ここに「地域の魅力」が新しく一つ加わりました。