学び!とESD

学び!とESD

ESDと気候変動教育(その7) COP26と若者
2021.12.15
学び!とESD <Vol.24>
ESDと気候変動教育(その7) COP26と若者
神田 和可子(永田研究室大学院生)

COP26は「失敗」であり、「グリーンウォッシュのお祭りごと」だ
そう評したのは、スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥンベリさんら若者たちです。

 英国グラスゴーにて開催された「第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)」は会期を1日延長し、成果文書「Glasgow Climate Pact(グラスゴー気候合意)」が採択され、14日間の会議は閉幕しました。産業革命以降の気温上昇を1.5度に抑える目標を定め、合意されたことに対しての評価はあるものの、石炭火力の「段階的に廃止」が「段階的に削減」という表現にとどまったことは、1.5度目標の実現につながる内容が得られていないとの批判もあり、最も気候変動の影響で被害を受けやすい小島嶼国などの脆弱な国や野心的な目標を掲げていた国からは落胆の声があがりました。

COP26の開会式の様子(UNFCCCのホームページより)

若者とグテーレス国連事務総長
(UNFCCCのホームページより)
 一般的な国際会議では、先進国や新興国、途上国など各国の異なる立場から公平で公正な議論が注目される傾向が強いなか、COP26ではプレイベントなども含め、世代間の公平性・公正性についても取り上げられる場面が多く見られました(*1)。COP26の会期中には、グレタ・トゥンベリさんら若者たちはアントニオ・グテーレス国連事務総長に、気候危機に対しても新型コロナウィルスと同様の緊急権限を行使するための「システム全体の気候非常事態」を宣言するよう求める請願書を提出しました。
 近年では、政府や国際組織に若者たちが積極的に働きかける動きが特に欧州で目立って見られるようになりました。今回は、若者たちの気候変動に関する教育に向けての取り組みの一例を紹介します。

若者による未来世代のための取り組み―‘Teach the Future’(未来を教える)

 スコットランド、イングランド、ウェールズに拠点を置く‘Teach the Future’は、気候の非常事態と生態系の危機の回避に向けて教育システム全体を緊急に再構築するために設立された若者主導による運動です。各支部は1つまたは2つの学生団体からなり、‘Teach the Future’ の運動にはこれらの組織から約40名を超える若者が参加しています。他の学生団体の組織と大きく異なる点は、専門家や教員、政策立案者、起業家など多様な専門分野を兼ね備えた大人たちがアドバイザーとして若者を支援している点です。
 ‘Teach the Future’ の運動の特徴は、気候の非常事態と生態系の危機の備えとして、教育システムそのものに問題があることを英国全土の調査結果をもとに分析し、政府に対して法や制度の制定など社会システムそのものの変容を促す働きかけを行っていることです。
 COP26の会期中に刊行されたユネスコの報告書によると、調査対象100カ国のうちそれぞれの国の「ナショナル・カリキュラム(学習指導要領)」において、約半数(47%)は気候変動について言及しておらず、気候変動のコミュニケーションや教育などの取り組みが初等中等教育段階に集中していることが分かりました(UNESCO, 2021)。‘Teach the Future’はこれらの課題を補完するように、独自の英国全土の調査結果に基づき、中等教育および高等教育段階に属する若者ら自身の声で建設的な要請を政府に届けています(*2)
 ESDにおいても優先行動分野の1つにユース(若者)への支援が掲げられていますが、日本におけるユースへの支援はプログラムや学びの機会の提供や交流にとどまっていると言えるのではないでしょうか。‘Teach the Future’に見出せるような若者支援、つまり、若者自身の疑問や社会の変革を推進する若者にいかに大人世代が支援していくのか、その手立てのあり方も民主主義のあり方が問われるなかで課題となってくるでしょう。
 本年5月にベルリンで開催された「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議」(‘ESD for 2030’)(学び!とESD<vol.18>)の成果文書であるベルリン宣言(*3)においても「政治的行動」という表現が盛り込まれていますが、今回紹介した‘Teach the Future’の若者たちはまさに社会全体の仕組みを変える政治的行動を体現していると言えましょう。

*1:例えば、COP開催前のプレイベント(9月28-30日開催)では ‘Youth4climate: Driving ambition’という若者のイベントが開催されました。若者の参加を促進するための本イベントには、世界186カ国から約400人の若者の気候リーダーが参加し、若者の声はCOP26にて各国の閣僚たちのスピーチでも言及されるほどの影響力がありました。Youth4climateの詳細については次のURLよりご覧ください(https://youth4climate.live/)。
※2:要請文など詳細は【参考文献】永田研究室運営のホームページよりご覧ください。
※3:2021年5月19日に採択された「持続可能な開発のための教育(ESD)に関するベルリン宣言」の英語原文:https://en.unesco.org/sites/default/files/esdfor2030-berlin-declaration-en.pdf、和文仮訳:https://www.mext.go.jp/unesco/004/mext_01485.html

【参考文献】